報道各社による今回の衆院選の情勢分析をみると、序盤戦の「自民、過半数割れの可能性」(日経新聞10月17日)から「自公、過半数微妙な情勢、自民、単独過半数割れの公算」(朝日新聞10月21日)へ、そして「与党過半数割れ可能性、自民苦戦、大幅減か」(共同通信・京都新聞10月22日)へと情勢が刻々と変化してきている。一貫しているのは、いずれも自民の苦戦が伝えられ、しかも終盤戦に向かうにつれてますますその傾向が深まっていることだ。
日経新聞の序盤戦の分析が面白い。小選挙区における「野党構図別 有力・優勢選挙区の割合」が示され、それぞれの情勢が紹介されている。
〇3党以上の野党候補が「乱立」する105小選挙区では、与党と野党系がそれぞれ有力・優勢な選挙区がほぼ半々だった。
〇与党と野党2勢力の候補者が争う「三つどもえ」の小選挙区126では、与党と野党系がおおむね同じ割合で前を走る展開となっている。
〇与野党「一騎打ち」型の46小選挙区では、与党が有力・優勢なのは全体の6割近くだった。
選挙前の情勢分析では、野党候補を一本化しなければ与党候補には勝てないとの判断が大勢を占めていた。野田立憲代表が国民や維新に野党候補の一本化を呼び掛けたのも、共産が「地域限定」との条件をつけながらも野党共闘に100%反対しなかったのもそのためである。ところが、日経新聞の情勢分析はその逆なのだ。与野党「一騎打ち」の選挙区で与党候補が優勢を保ち、野党「乱立」・与野党「三つどもえ」の選挙区では、野党系候補が互角あるいは優勢だというのである。
もちろん、「野党系」と言っても維新・参政から共産まできわめて幅が広い。「野党系」と一括りするのは情勢を見誤るという反論もあろう。だが私は、有権者にはこんな野党間の違いよりも「自公以外であれば野党」だと認識されている状況が、今回の衆院選の何よりも大きな特徴ではないかと感じている。言い換えるなら、自民に対する有権者の不信感がそれほど強いということであり、それが「同じムジナ」の公明にも向けられているのであって、自公でなければどんな野党の組み合わせであっても構わない、「とにかくやっつけなければ」という空気がみなぎっているのである。
この「反与党」ムードは、自公にとっては予想を超えるものがあったに違いない。自公は、高市氏と違って「反安倍」が旗印の石破氏を担ぎ出してさえおけば、また野党共闘の時間を与えずに即解散・総選挙に持ち込めば、野党は分断されたままで戦わざるを得なくなり、首相交代のご祝儀相場と相まって〝裏金みそぎ選挙〟になると踏んでいた。だから、石破首相に対しては「旗印=裏金疑惑解明」はそのままにして、中身は従来のままで「疑似政権交代劇」に持ち込もうと強要したのである。
ところが大根役者だった石破首相は、裏金疑惑解明をあいまいにしたまま「旗印」まであっさりと降ろしてしまった。言うこと為すことが今までとまったく違う、こんな人物は信用できないとの空気が、有権者の間に一気に広がった。日経新聞の世論調査(10月15,16両日実施)は、比例代表で投票したい政党について聞いたところ「自民」と回答した人は27%、前回2021年衆院選の序盤情勢調査から14ポイントも下落していた。地域、年齢別にみると、東京ブロックの39歳以下が前回比36ポイント減の19%で下げ幅が特に大きかった。都市圏の若年層をはじめとした特定の支持政党がない無党派層は国民民主党やれいわ新選組に流れたり、既成政党への不信感から保守系の諸派が受け皿になったりしている可能性がある――という。
10月19,20両日に実施された朝日新聞の情勢調査は、各党の選挙区と比例区の議席推計を試みている。上限と下限および中心値を示して公示前の議席数と比較し、その結果を分析している。以下、各党の中心値と公示前議席数を示そう。
〇自民200(公示前247)、公明25(同32)、維新38(同44)、無所属14(同22)
〇立憲138(同98)、共産12(同10)、国民21(同7)、れいわ11(同3)、社民1(同1)、参政2(同1)、諸派3(同0)、
また、10月20,21両日に実施された共同通信世論調査(第2回トレンド調査)では、比例代表の投票先は自民22.6%で、1週間前の第1回トレンド調査から3.8ポイント下がった。2021年衆院選では29~30%の水準を保っていたのに比べて低下が著しい。立憲は1.7ポイント増の14.1%となり、自民との差は14.0ポイントから8.5ポイントに縮まった。その原因は、自民支持層のうち自民を投票先にすると回答した人が5割強にとどまり、立憲に約1割、国民に1割弱が流れており、自民が支持層を十分に固めることができていないことを示している。「支持政党なし」の無党派層では3割弱が立憲に投票すると回答、続いて1割が国民、1割弱が自民となっている。小選挙区投票先は野党系候補が33.2%で、与党系候補の24.6%を上回った(京都新聞10月21、22日)。
不思議なのは、京都の小選挙区では全て前職が先行しているとの結果が出ていることだ。京都1区は自民、2区は維新(教育無償化から鞍替え)、3区は立憲、4区は無所属、5区は自民、6区は立憲である。維新と共産に元気がなく、有権者の間に支持が広がっていないというのである。そう言えば、選挙期間中であるにもかかわらずほとんど選挙カーが回ってこないし、電話もかかってこない。以前には時折見かけた桃太郎行進も最近はまったく見かけなくなった。これで総選挙が行われているのかと思うほど、静かな毎日なのである。
例によって、いつもの放談仲間と情報交換してみたが、返ってくるのは冴えない反応ばかり、前回の3区と6区の共産の候補者見送りの後遺症が未だに尾を引いているというのである。日経新聞の情勢調査にもあるように、野党系候補が「乱立」しても、複数の野党系候補者と自民候補者が「三つどもえ」の戦いになっても、野党系候補が有力・優勢になる場合が全国では半々に及ぶという。ならば、京都でももっと野党間の切磋琢磨があってもいいし、自民候補との接戦があってもいいが、事態はいっこうに動かない。
一度勝負から逃げた闘犬や闘鶏は戦う意欲を失うというが、それに似た状況が京都で起こっているのかもしれない。
いずれにしても、投開票日は真近に迫っている。数日足らずの時間で劇的な変化が起こるとは考えられないが、それでも最後まで情勢を見続けようと決意している。(つづく)
初出:「リベラル21」2024.10.25より許可を得て転載
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