都知事選:自省なくして革新候補への支持は広がらない(1)

著者: 醍醐聡 : 東京大学名誉教授
タグ:

2016727

 ブログに寄せられたコメントへの応答をかねて 
昨夜、正確に言うと今日の午前0時過ぎに、このブログの一つ前の記事、「都知事選:都民も自らも欺く政策軽視の独善的議論」に対し、高樹辰昌さん(未知の方)から、以下のような長文のコメントをいただいた。
 今の危機的な政治状況を考えれば、私の当該ブログ記事に対して予想されたコメントではあるが、その記事を書いたあとで次の記事を考えながら思案していた私の頭の中を行き来する問題と重なる点がたくさんある。
 そこで、私の感想を挿入しながら、高樹さんのコメントを紹介させていただく。< >内の文章が私の書き込みである。文中の小見出しは私が勝手に付けたものである
 このブログを訪ねていただいた方々にも何か共有していただける問題意識があれば幸いである。

—————————————————————-

醍醐先生、こんばんは。
 今夜、「そうだったのか!TPP寺子屋」第6回 岡田知弘京都大学教授「地域経済・中小企業への影響」のIWJさんによる中継を観終わった後に、《心細くなって》、醍醐先生のブログに訪問させてもらいました。
 この記事ふくめ最近3件の記事を読ませていただきました。
以下は、先生の記事に対する論評でもなく、また議論でもなく、建設性を生まない感想だと思いますが、啓上させていたします。

会計学研究歴から染みついたリアリズム
 読んだ本のなかの知識や情報が、どの本に書かれているかを忘れてしまうのがイヤで、ノートすることと、読書が趣味です。
 しかし、知識を多く抱えれば抱えるほど、持っている情報同士で、矛盾し合ったり、対立関係をもつことに出くわすことがあります。対立したり、正反対の内容だったり、矛盾したりする情報同士のうちの、どちらが妥当か/正しいか、について、さらにもっと広く知ることで総合的に判別する、という、要領の善くない、あるいは、埋蔵金探しのような作業をすることになります。
 そうした〈埋蔵金さがし〉の他方、醍醐先生が従事なさってきた〈会計学〉は、「数字ではっきりと一目瞭然に見て取れる」点で、物の見方や尺度として、すごい武器だな、とカルチャーショックを、個人的に受けたことがあります。

もし、会計学についての捉え方が間違っていなければ、醍醐先生によるこの記事に見られる態度や視点は、会計学者ならではの視点なのかも、と感じました。

<醍醐:最近は会計学の知見を活かせる場面が少ないことにかかわっていますが、リアリティに欠ける議論に出会うと、賛同といかないことがよくあります。財源論のない政策提言に物足りなさを感じるのもその一種です。たかが実学、されど実学ですね。>

と言ったところで、「お前(高樹)は何を言いたいのだ?」と思われたかもしれません。会計学者でなくても、経営者の視点であっても、その政策を実現するための根拠や財政が無ければ、机上の空論で絵に描いた餅にすぎない、という指摘や批判は、当然かもしれません。

危機的状況に原理原則は有効か
〈当選しなければ、政策を実行さえできない〉しかし他方、〈いかに人気があって当選に成功して、望ましい政策でも、根拠や財源に乏しい机上の空論ならば、やはり実現もできない〉というジレンマが、あるのでしょうか。
 しかし現状は、『また皆、きらびやかなことばかり言っている』『都政の99%は地道な仕事。次こそ、そこをわかった人に来てほしい』」『また知名度争いの人気投票になった・・・・』とならざるを得ないほどの《民主政治における地盤沈下》が起こっているような気が、個人的にはします。
 「知名度争いの人気投票」が“再び起こった”という発言からも、いまに始まったことではないのは確かでしょうが、なぜ野党共闘まで起こってしまったのか、というと、やはり《危機的状況》あるいは《地盤沈下》が起こっているからなのではないでしょうか。

<醍醐:一つ前の記事で私が批判を向けた澤藤弁護士の論説は、おっしゃるような危機意識が背景にあるように思えます。>

安倍政権は、平気でうそを吐く。TPP公約も簡単に反故にする。内閣支持率を底上げする為には、株式市場に年金を投下する。年金運用の公表を今年は、参院選後の7月下旬まで引き延ばす。争点を隠して選挙に勝つ。選挙に勝つためには、どんな汚い手も使う・・・・という事をしてきています。
 「だったら、仕方が無いではないか」とか、「だったら、こちらも財源の具体的根拠は無くてもいいではないか」ということを言うつもりはありません。

ぼくは、先生のように、しっかりした政策監視者や目利きの方がいらっしゃらないと、ほんとうに〈ポピュリズム合戦〉に終始してしまうでしょう。そして、その帰結として、まったくの政治不信に陥るという悪循環になるかもしれません。
 しかし、学術者の先生の交友関係や周囲の方々は、リテラシーが高いかもしれませんが、ぼくの周囲は、先生のような政策ウォッチ力(りょく)は、誰も持ち合わせておりません――ぼくは都民ではありません――。
 「本当に根拠を持った政策をベースに候補者を選ぼうとする有権者」は、有権者全体の何パーセントいるのか、というと、本当に希少者なのではないか、と思われます。
 国政選挙では、政策を全く知らない、元SPEEDの今井絵理子が当選しました。朝日健太郎も。三原じゅん子が、神奈川県地区でトップ当選しました。

小池百合子氏がリードする都知事選の現状をどう見るか
 都知事選挙では、2階建て車両は、東海道線で20年前に導入されて、すでに失敗しているのが分かっているにもかかわらず、小池百合子は、満員電車の解消に、と二階建て電車を政策に掲げています。保育所の規制緩和で、児童の死亡事故など事故が起こっているにもかかわらず、保育所の規制緩和を掲げています。
 《核廃棄物の処理に出口がない》にもかかわらず、また《核の冬》問題が、そんなに的外れではないという科学者の声が出てきているにもかかわらず、また、地震の活動時期に差しかかっているにもかかわらず、《原発稼働》や《核武装》を唱えているが、《そんな小池百合子が、リードしている》といいます。

<醍醐:各種世論調査で、小池百合子氏が一歩リードしていると報道されて以降、鳥越陣営から、お書きになったような小池批判のキャンペーンが強まっています。それをどう見るかも含め、次のブログ記事で都知事選について続編を書くつもりでいます。私は小池批判もさることながら、鳥越陣営には政策の粗さ、街頭での選挙活動の消極性、「週刊文春」が掲載した女性問題への対応についての疑問など、自省すべき点が多々あると感じています

 一例ですが、鳥越さんは「伊豆大島では消費税を5%にするよう政府に働きかける」と現地で発言しました。消費税増税反対論者でもこれを理解できるでしょうか? 都が島しょ助成金を増やすと言うなら、まだわかりますが。
鳥越さんは7月25日の個人演説会で「半径250キロ圏内の原発の廃炉を求める」と発言しました。東京都知事にそんなことできるのかと、普通の都民なら素朴に疑問を感じるのではないでしょうか? よく確かめると、「東京電力に申し入れる」ということだそうです。それなら、東京電力の本社に出向いて文書を提出することで公約を果たしたことになります。が、それを「公約」と言うのでしょうか? 廃炉となれば、なおさら、都知事の管轄から離れます。

政策論から離れますが、週刊誌が掲載した候補者にまつわる女性問題への対応にも強い疑問を感じています。週刊誌を刑事告発した後は、「弁護士にすべてを委ねている」との応答ですが、こうした釈明は保守系の政治家の常套句でした。その場合、革新陣営や市民団体は、それでは説明責任逃れと厳しく批判してきたはずです。攻守入れ替わると態度が一変するのでしょうか? これでは都民は納得しないのも当然です。
事実無根というなら、それを立証できる当事者(候補者)が進んで説明をするよう、支持政党なり市民団体はなぜ、候補者に求めないのでしょうか? これでは身内に甘い対応と都民に見られ、都民の信頼を少なからず損ねる原因となるはずです。>

 

初出:醍醐聡のブログから許可を得て転載

〈記事出典コード〉サイトちきゅう座http://www.chikyuza.net/
〔eye3559:160727〕