長崎大学のBSL4施設設置計画と反対運動の記録(1)

 国立大学法人・長崎大学が,住宅密集地にある医学部キャンパス(坂本キャンパス)にBSL4施設を設置する事業計画は,国が17年度に初めて2億円程度の予算をつけ,引き続き18年度にも10億円程度の予算を措置したことから,今年着工まで行くのかどうか,がぜん緊迫感が増してきている。
 本稿ではその緊迫感の中から,長崎大学の計画と推進の状況,およびそれに反対する住民・市民の運動の状況を拾い上げお伝えしたい。(BSL4施設とは何かについては文末の付録をご覧ください。)

1.長崎大学の最近の動き
 長崎大学に今年度ついた予算は想定される総額の数分の1~10分の1程度とみられるが,一部着工にも使えるとあって,推進者たちは今年度の着工を目指し意気込んでいる。ところが,そのスタートに当たる4月に河野学長が軽率なフライングを犯してしまった。記者会見において12月に着工したいという希望を表明したのである。これに対し各方面から強い批判が沸き起こった。反対住民からは住民無視,基本構想などを説明する地域連絡協議会からは協議会無視という批判となったのである。この結果,河野学長はお詫びと釈明に奔走することとなった。
 実は大学は市や国から,地域住民への丁寧な説明を繰り返す宿題を課されている。それに従い,大学はしぶしぶ地域説明会を4月以来2度ほど開催したが,いずれも参加者からの批判が大勢を占めた。住民は大学の不正義を感じ取り,既成事実の進捗にあきらめるどころか,反対はむしろ拡大する傾向にある。国が予算を付けて市長や県知事が味方についていると言っても,長崎大学は安心できる状況ではないことを,河野学長は見誤ったのだろうか。このような大学に対し,我々は工事の杭打ちをさせないつもりで緊迫感の中で対峙しているのが現状である。

2.反対運動の現況
 反対運動についても現在進行形なので,簡単に紹介するだけに留め,機会があれば進行状況を報告することとしたい。署名活動は1万6千筆を超えた所で我々はいったん休養に入った感がある。疲れも取れたのでそろそろ再稼働の時機を見ている状況である。そこで,ここでは学習講演会シリーズの企画と市議会への陳情について紹介する。
 絶対に杭打ちをさせない,その原動力は何といっても住民の数の力である。署名には応じても反対活動まで行う人は結構少なく,そこをいかに乗り越えてもらえるかに勝負がかかっている。例えば,「サンゴ礁を破壊しないで!」とか,「ホタルの里をつぶさないで!」という願いには理屈は要らない。どの人の胸にもそのまま突き刺さり,反対運動のモチベーションとなる。一方,「住宅密集地でエボラの動物実験をしないで!」という願いには,未だ,多くの人の胸を抉る力は無いように思う。これが多くの人の胸に届くようになれば,大きな力が生み出せるだろう。
 回り道のようであるが,このようなことを願って企画したのが,学習講演会シリーズである。シリーズ全体のタイトルは『またも繰り返される安全神話』とし,第一回のテーマを「バイオと放射能と国家」として,6月2日に開催した。講演タイトルの一つは『安全神話がもたらした福島の悲劇』であり,いざとなったら国家は被害住民を見捨てるという格好の実例として学習してもらった。このような感じで,引き続き『なぜ住宅密集地のBSL4施設は怖いのか?』,『住民に真実は伝わるのか?』などのテーマを取り上げていく。
 反対運動の初期のころ,活動に参加した住民たちが心配したのは,反対運動が住民エゴと非難されることであった。だが,「住宅密集地でエボラの動物実験をしないで!」という願いが住民エゴであるはずはない。こういうことにも自信が持てると反対は強化されるだろう。
 これと同時に,近隣の自治会系反対住民は2度目の陳情を市議会に対して起こしており,戦略としては市長による根拠のない施設設置容認発言の撤回を市議会から働きかけてもらうことを目的としている。反対意思を表明している自治会の数は26を数えるが,今回の陳情にはそれ以外の自治会も多数加わっており,これまでにない大規模なものになっている。陳情の審議は6月の市議会開会中に行われる予定であり,市長や議会への働きかけから,突破口が開くことも大いに期待したい。

3.BSL4施設設置反対運動の社会的意味
 本稿の最後に,この反対運動の社会的意味を考えてみたい。長崎大学が自らの施設を自らの敷地内に設置することに,なぜ我々住民が異を唱えて良いのだろうか? 実は,BSL4施設の設置については,学術会議の提言など,多くの組織や機関が,BSL4施設の設置に当たっては住民の理解と合意が必要ということを言明している。このことは,BSL4施設の中に棲息する最高度に危険な病原体の潜在的な危険性が公認されている意味に他ならない。
 逆に言えば,施設設置への合意は,住民・市民は或るレベルのリスクを覚悟することでもある。その覚悟は人によって違い,安全神話を信じたい人,逆にいわれのないリスクの押し付けを拒みたい人,それぞれ尊重されるべきである。従って,BSL4施設設置問題は設置容認にしろ設置拒否にしろ住民一人ひとりが考える過程を経て決定すべき問題と言える。
 この時に銘記すべき点は,決定する権利は住民にあること,大学や国はその決定を尊重しなければならないことである。ところが,現在進行中の事態は住民の意思など無関係に既成事実が積み重ねられている。これは驚くべきことで,しかも主体者が,長崎大学と文部科学省という,民主主義教育の原点というべき組織であることが,我が国のトホホ状態を如実に表している。
 次回は長崎大学の権力的体質,安全文化軽視体質を記録することにしたい。

【付録:入門的解説-BSL4施設とは?-】
・BSL4とはバイオ実験室の安全度のレベル(Bio Safety Level)が4という意味である。
・レベルは1~4まであり,レベル4ではエボラウイルスのような最高危険度の病原体を取り扱うことができる。
・レベル4は実験室の安全度は最も高いが,病原体が最高度に危険なので相対的なものでしかない。
・BSL4施設とはレベル4の実験室を擁する研究施設のことであり,法令に基づき免許が交付される。
・BSL4施設は動物実験を含む実験研究施設なのであり,医療施設ではない。従って,目の前のエボラ感染者の治療には役立たない。
・計画の当初,長崎大学はエボラ感染者の医療施設であるかのようなあいまいな説明を行い,市民を誤誘導していた。
・長崎大学の施設は,サルやネズミなどを使った動物実験施設であり,遺伝子操作を多用する。

 

〈記事出典コード〉サイトちきゅう座 https://chikyuza.net/ 
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