青山森人の東チモールだより 第201号(2012年3月17日)

選挙の成功は東チモールの勝利

青山森人 e-mail: aoyamamorito@yahoo.com

訂正:有権者は62万6503人:前号の『東チモールだより』で今回の大統領選挙の有権者数を63万449人と書きましたが、62万6503人の間違いでした。お詫びして訂正させていただきます。

天候不良と制度不備

曇り時々雨模様の状態が首都で丸一日ぐずぐずと続くのは珍しい。普通の雨季の一日ならば一定の時間は晴れ、そのうち山の背後から迫って来る雲が町全体を覆い、そして雨がザーッと数時間降ると、さっぱりしたかのようにまた晴れるという模様を織りなします。傘が手放せない今のような天気はこの国らしくありません。

3月の大雨によって、濁流の川岸が押し広げられ川辺の住民を脅かし、首都市内の道路は泥だらけ、地方では道路や橋は危険な状態になり大雨と強風の犠牲者が出始めています。

このような天候不良が大統領選挙の投票に悪影響を及ぼすのではないかとわたしは懸念しましたが、今のところ選挙への大きな混乱は報じられていません(患者や患者の家族のために設置された国立病院内の投票場では多少の混乱が生じたようです)。

なぜ天候不良が投票に悪影響を及ぼすかというと、二重投票を防ぐために新設された規則として有権者が投票できるのは住民登録した土地に限られ、住民登録地以外に滞在している有権者は投票するため帰省を余儀なくされるからです。

学校に通うため、仕事や商業活動のため、あるいはなんらかの理由のため、大勢の人たちが地方から首都に出てきています。かれら有権者が投票するためには住民登録した出身地に帰らなければなりませんが、とくに地方から都会へ出てきて勉強している17歳以上の高校生や大学生たちはたいへんです。政府は投票に備えて16日(金)を公共機関の休みの日にすることを早々と決めていましたが、学生については配慮が足りませんでした。投票日の前日に大勢の若者たちが一挙に地方に帰省することはこの国の交通状態では無理だからです。これは選挙制度の不備です。

新聞やテレビニュースによれば、学校をサボってでも帰省し投票するという学生もいれば、帰省して投票したいが交通費がないので帰れない語る者もいました。

 

写真1

有権者の帰省ラッシュは3月14日に始まった。バスに乗り切れない学生たちは屋根に座って帰省し投票しようとする。これは民間のバスなのでバス代は自腹を切らなければいけない。有権者は自らの権利を行使するために犠牲を強いられるかたちとなった。政府は選挙にかんして治安にばかり気をとられ、学校に通う若い有権者の都合に頭がまわらなかったとみえる。首都のレシデレ地区にて、2012年3月14日。ⒸAoyama Morito

そこで公立学校は政府の判断を待つことなしに、14日から休校とする措置に踏み切りました。早め早めに休校措置をとったのは教育現場の英断といえます。政府の発表を待っていたら大勢の有権者の権利が奪われかねませんでした。

15日、シャナナ=グズマン首相自ら政府庁舎前に姿を現し、各地方へ帰省する者たちのために乗り物を手配していました。政府が手配したのは乗り物といっても工事用の大型トラックです。学生たちは荷台にすし詰めの立ち状態で投票するために帰省していったのです。何らかの理由で帰省できなかったために投票できなかった有権者がどれだけいたか、今回の選挙で心配される点です

穏やかな投票は平和と発展への礎

5年ぶりの国政選挙の投票日である今日、雨模様の首都をぶらぶら散策してみました。国連統治時代を含めると3度目の、独立して2度目の国政選挙です。過去2回の選挙との比較において際立った違いは、外国人の少なさです。出稼ぎに来ている中国人は別として、一般人、国連職員、国連警察官、国際治安部隊の兵士、選挙監視要員、報道陣などなど……すべての分野において外国人の数がものすごく少ないなかでの選挙であることが今回の大きな特徴といっていいでしょう。まるでどこか田舎の選挙かと思うほど、東チモールにしてみれば“国際色”の薄い選挙でした。午前中は投票に行く人や投票をすませた人たちの歩く姿が路上に多く見られましたが、午後になると路上には人影がほとんどなくなってしまいました。投票場に列ができたのは一般に午前中の早い時間だけだったようです。

4~5箇所の投票場をのぞいて見ましたが、警官や選挙管理組織の人たちが「あ~、暇だな~」とあくびをするような、実にのんびりした雰囲気でした。国連警察の姿がごくわずかしか見られない投票風景はこの国の新しい夜明けを予感させるに十分です。

東チモール政府は大統領選挙と次の国会議員選挙をほぼ自前の治安体制で無事に終わらせ、今年の末ごろまでには国連派遣団と国際治安部隊に撤収してもらいたと希望しています。独り立ちをしたうえで、チモール海の天然資源の開発に本格的にとりかかりたいという意欲で満々です。なんとしても威信を賭けて……という面子の話ではなく、天然ガスと石油の開発のためにも、今年の選挙を無事に終える必要があるのです。

ル=オロ候補、リードか?

選挙運動でフレテリンは圧倒的な動員力を誇示しました。これに匹敵するのが民主党のラサマ候補でしたが、テレビニュースの映像を見るかぎりではフレテリンの方が組織力はやや上のような気がします。タウル=マタン=ルアク陣営は、インドネシア軍とのゲリラ戦に関わった人びとが手作りの市民運動を展開するという選挙戦を展開したので、政党による組織力よりはやや弱い印象を受けなくもありませんでしたが、これは表面上のこと、実際はどうなのか、選挙結果ではっきりすることでしょう。考えてみれば、民衆の捨て身の支援を受けたゲリラ戦とは究極の市民運動なのかもしれません。

前回の選挙では、2006年「東チモール危機」で混乱に陥ったことにたいする責任がフレテリン政権に向けられた中での選挙でした。人びとが平和を享受している今の状況では、もしかしてフレテリン批判が弱まっているかもしれません。そうならば、前回の選挙から推測した最大でも30%の支持率というわたしの予測は間違っている可能性があります。結果が楽しみです。

午後3時、投票が終わった投票場では監視員や一般住民の衆人環視のなか、係員が投票用紙を一枚一枚とりあげ、投票された候補名を読み上げ有効票であるかを確認します。のどかな地球村の投票場風景です。わたしがのぞいてみた投票場では、ル=オロ候補が一歩いや二歩リードしているようでした。次にタウル=マタン=ルアク候補とジョゼ=ラモス=オルタ候補が追っていました。この投票所では民主党のラサマ候補の名前はポツリポツリ登場する程度でした。ラサマ候補の票田は西部地方にあります。

平穏な投票日に東チモールを散策するたびにわたしはいつもこう想います――誰が当選しようとも、選挙の成功は東チモール人全員の勝利を意味する、と。

 

写真2

投票が終了したあと、係員が一枚一枚投票用紙をとり上げ、誰に投票されたか、有効票か、を公示しながら確認する。2012年3月17日、午後4時ごろ、首都のクルフンという地区の投票場にて。ⒸAoyama Morito

~次号へ続く~

記事出典コード〉サイトちきゅう座 http://www.chikyuza.net/
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