大統領選挙、早くも新政局を生む
青山森人 e-mail: aoyamamorito@yahoo.com
決選投票は、ル=オロ対タウル=マタン=ルアク
3月17日(土)に実施された大統領選挙の投票結果の体勢は、週明けを待たずに決しました。フレテリン党首のル=オロ候補と無所属のタウル=マタン=ルアク候補が決選投票に駒を進めることになりました。
開票率約76%の時点での開票結果です。カッコ内は2007年の大統領選挙第一回戦の結果です。
1位、ル=オロ—————–128266票、28.48%(112666票、 27.89%)
2位、タウル=マタン=ルアク—-113553票、25.18%
3位、ジョゼ=ラモス=オルタ—- 80291票、17.81% (88102票、 21.81%)
4位、ラサマ—————— 79653票、17.67% (77459票、19.18%)
5位、ロジェリオ=ロバト——- 16090票、 3.56%
6位、ジョセ=ルイス=グテレス— 9053票、 2.01%
7位、マヌエル=ティルマン—— 7080票、 1.80% (16534票、 4.09%)
8位、アビリオ=デ=アラウジョ— 6139票、 1.36%
9位、ルーカス=ダ=コスタ——- 3826票、 0.85%
10位、フランシスコ=ゴメス—— 3505票、0.78%
11位、マリア=ド=セウ———– 1820票、0.40%
12位、アンジェリタ=ピレス—— 1219票、0.38%
フレテリン党首のル=オロ候補の得票率が前回とほぼ同じでした。わたしはもう少し低い数字を予想しましたが、野党生活の5年間で支持は失わなかったようです。わたしにとって一番の予想外は、ラサマ候補が前回より得票率が上昇しなかったことです。フレテリンの支持率が下がらなかったのと同じように、与党・民主党の支持率は上がらなかったことは、政党支持者の固定性を示しています。
5位以下の候補者について言及するならば、ロジェリオ=ロバト候補が副首相であるジョセ=ルイス=グテレス候補を抑えて5位になるとは、英雄で弟のニコラウ=ロバトの写真を最大限に活用した効果でしょうが、ジョセ=ルイス=グテレス候補は少なからずショックを受けたに違いありません。
予測不能の期待があったタウル=マタン=ルアク候補はル=オロ候補に迫りましたが及びませんでした。フレテリンからタウル候補へ流れた票は予想よりかなり小規模だったのが原因です。タウル候補を警戒して締め付けを強化した分、この状況はフレテリンへ優位に作用したかもしれません。
各地方における上位4候補の得票順位
ここで、上位4候補にかぎって13の各地方における得票順位を示してみます(同じく開票率約76%の時点)。
オイクシ地方
1位、タウル=マタン=ルアク——6380票、22.93%
2位、ラサマ——————–6318票、22.70%
3位、ジョゼ=ラモス=オルタ——4997票、17.96%
4位、ル=オロ——————-4617票、16.59%
ボボナロ地方
1位、ラサマ——————-10215票、25.13%
2位、ジョゼ=ラモス=オルタ——9260票、22.78%
3位、ル=オロ——————-8268票、20.34%
4位、タウル=マタン=ルアク——8176票、20.11%
コバリマ地方
1位、ラサマ——————–7651票、28.32%
2位、ル=オロ——————-6922票、25.62%
3位、タウル=マタン=ルアク——5613票、20.78%
4位、ジョゼ=ラモス=オルタ——3942票、14.59%
リキサ地方
1位、ラサマ——————–7649票、26.89%
2位、ル=オロ——————-6352票、22.33%
3位、タウル=マタン=ルアク——5575票、19.60%
4位、ジョゼ=ラモス=オルタ——5453票、19.17%
エルメラ地方
1位、ジョゼ=ラモス=オルタ—–16617票、36.15%
2位、ル=オロ——————-9014票、19.61%
3位、ラサマ——————–7584票、16.50%
4位、タウル=マタン=ルアク——6319票、13.75%
アイナロ地方
1位、ラサマ——————–9637票、39.18%
2位、ジョゼ=ラモス=オルタ——5106票、20.76%
3位、ル=オロ——————-3357票、13.65%
4位、タウル=マタン=ルアク——2824票、11.48%
デリ地方
1位、タウル=マタン=ルアク—–27697票、31.68%
2位、ル=オロ——————22595票、25.84%
3位、ジョゼ=ラモス=オルタ—–18429票、21.08%
4位、ラサマ——————-12164票、13.91%
アイレウ地方
1位、ジョゼ=ラモス=オルタ——6818票、35.96%
2位、ラサマ——————–3269票、17.24%
3位、タウル=マタン=ルアク——2794票、15.74%
4位、ル=オロ——————-2598票、13.70%
マヌファヒ地方
1位、ル=オロ——————-6152票、27.50%
2位、ラサマ——————–5396票、24.12%
3位、タウル=マタン=ルアク——4131票、18.46%
4位、ジョゼ=ラモス=オルタ——2918票、13.04%
マナトト地方
1位、タウル=マタン=ルアク——7026票、34.83%
2位、ル=オロ——————-4092票、20.28%
3位、ジョゼ=ラモス=オルタ——3880票、19.23%
4位、ラサマ——————–2624票、13.01%
バウカウ地方
1位、ル=オロ——————21371票、48.74%
2位、タウル=マタン=ルアク—–18509票、42.21%
3位、ラサマ——————– 935票、 2.13%
4位、ジョゼ=ラモス=オルタ—— 749票、 1.71%
ビケケ地方
1位、ル=オロ——————20876票、58.98%
2位、タウル=マタン=ルアク——9760票、27.58%
3位、ラサマ——————–1911票、 5.40%
4位、ジョゼ=ラモス=オルタ——-610票、 1.72%
ラウテン地方
1位、ル=オロ——————12052票、42.69%
2位、タウル=マタン=ルアク——8749票、30.99%
3位、ラサマ——————–4300票、15.23%
4位、ジョゼ=ラモス=オルタ——1512票、 5.36%
ル=オロ候補は四地方で1位となり二地方で4位、タウル=マタン=ルアク候補は三地方で1位となり三地方で4位、ジョゼ=ラモス=オルタ候補は二地方で1位となり六地方で4位、ラサマ候補は四地方で1位となり二地方で4位となった。
ジョゼ=ラモス=オルタ候補は、バウカウとビケケの二つ地方で得票率たった1%台という大負けをしてしまったことが響きました。ラサマ候補は飛び地オイクシ地方と西部ではそこそこの票を集めましたが、東部に支持を広げることはできませんでした。
ル=オロ候補は、バウカウとラウテンの二つの地方で40%台の票を獲り、なんといってもビケケ地方で60%の票をかき集めたことが勝因です。ビケケの大勝がなければ、タウル=マタン=ルアク候補に肉薄されたかもしれません。そのタウル=マタン=ルアク候補は都市部のデリ地方で勝利する一方、大勝もなければ大負けもない、あまねく全土にわたって平均的に票を集めました。しかしエルメラ地方で10%前半の低い得票率だったことはタウル陣営にとって予想外の結果で大きな反省材料となったはずです。
2人の決選投票は4月半ばに実施されます。はたして大統領になるのはどちらでしょうか。
シャナナの相手は、30%か36%か?
前回と同様に決選投票に持ち込まれたこの大統領選挙の開票の体勢を見て、シャナナ=グズマン首相は来日の旅に出ました。フレテリンの支持率は5年前と同様にせいぜい30%前後であることを確認し、おそらく安心して飛行機に乗ったことでしょう。30%の議会勢力を持つフレテリン相手に過半数を得るのは5年前と同じようにたやすいことだ、日本政府から初の円借款として借りる6300万ドル(あるいは630万ドル?)を使うのはフレテリンではなく、この自分の形成する連立政権であると安心しながら……。
ところが、3月21日、ジョゼ=ラモス=オルタ候補とラサマ候補の負け組2人が共同記者会見を開き、約18%の票を得た自分たち二人が組めば36%の勢力となり、この勢力が国会議員選挙に臨めば新政権を形成できると語ったのです。大統領有力候補の下位2名は新しい政局を創り出して、大統領がダメなら政権獲得があるさと目標を切り換えました。
この二人は大統領決選投票についてはどちらの候補を支持するかは発表しませんでした、もう興味はないといわんばかりに。敗北の決まったばかりのラモス=オルタ候補は、自分はまだ現職の大統領なのでどちらの候補を支持するかというようなことは口に出せないという趣旨の発言をしました。それなのに共同記者会見でのこの発言です。自分の再選のじゃまをしたタウル=マタン=ルアク候補を支持したシャナナ首相への恨み節にきこえます。ラモス=オルタ大統領は「ノーベル平和賞」受賞者らしく(?)、もうちょっと節度を保った方がいいのではないでしょうか。変わり身が素早すぎます。
シャナナ首相は、支持率30%のフレテリンと、36%のラモス=オルタとラサマの連立勢力の狭間に立つとしたら、どのような対策をとるのでしょうか。そしてこの新政局は大統領決選投票に影響を与えるでしょうか。かくして数合わせの政治ショーの幕が切って落とされようとしています。
テトン語で書かれたル=オロ候補の選挙用横断幕。POVUとPOVOという単語が見えるだろうか。POVOは「人びと、国民」という意味のポルトガル語で、英語でいうPEOPLEである。テトン語にはポルトガル語の単語が多数混ざっているが、綴りが定まらない。例えばこのようにPOVOであったりPOVUであったりする。一枚の横断幕のなかでさえも、POVOかPOVUか、統一できない(しない)のである。ポルトガル語とともに公用語であるテトン語の現状そして東チモール人の識字の世界観がこの横断幕によく現れている。
写真は2012年3月4日、ボボナロ地方マリアナにて。ⒸAoyama Morito
~次号へ続く~
〈記事出典コード〉サイトちきゅう座 http://www.chikyuza.net/
〔opinion0827 :120326〕