決選投票は「政党 対 市民」で
青山森人 e-mail: aoyamamorito@yahoo.com
選挙管理委員会による最終結果
3月22日、日本でいう東チモールの選挙管理委員会は最高裁判所に相当する控訴裁判所へ提出する大統領選挙第一回戦の最終結果を発表しました。3月26日、控訴裁判所がこれを承認し、正式な選挙結果となりました。
有権者総数———-626503人
投票者総数———-489933人
投票率—————78.20%
有効票—–464611票(94.84%)
白票———6484票(1.32%)
無効票——-18788票(3.83%)
各候補の得票数(得票率)は以下のとおり。
1.マヌエル=ティルマン—– 7226票(1,56%)
2.タウル=マタン=ルアク—119462票(25.71%)
3.ル=オロ—————-133635票(28.76%)
4.シャビエル=ド=アマラル—3月6日死去につき棄権
5.ロジェリオ=ロバト——-16219票(3.49%)
6.マリア=ド=セウ———–1843票(0.40%)
7.アンジェリタ=ピレス——1742票(0.73%)
8.ジョゼ=ラモス=オルタ—-81231票(17.48%)
9.フランシスコ=ゴメス——3531票(0.76%)
10.ジョゼ=ルイス=グテレス—9235票(1.99%)
11. アビリオ=デ=アラウジョ—6294票(1.35%)
12.ルーカス=ダ=コスタ——-3862票(0.83%)
13.ラサマ——————80381票(17.30%)
78%台の投票率
投票率は78.20%、日本から見ればとんでもない高率ですが、東チモールにしてみれば80%を切ったことは低率といえます。
有権者は住民登録地でないと投票できないという投票規則が3月14日からの帰省ラッシュをもたらし、交通機関の許容量不足に悪天候も加わり、首都に滞在する地方出身の大勢の有権者は帰省に難儀しました。政府は緊急に業者からトラックを借りて有権者の足を助けしました。
ところが「オイクシでおよそ千名の生徒がデリに戻って来れず」という記事が『インデペンデンテ』紙(2012年3月21日)に載ったように、政府が有権者の面倒を見たのは片道だけだったようです。この記事の中で「投票が終わったら(首都へ)戻る支援をすると政府は言ったのに、政府は嘘をついた」と学生は語ります。
この選挙制度の不備についてシャナナ=グズマン首相は国民にしっかりと釈明して、来月の大統領決戦投票と6月29日に実施される国会議員選挙のために対策を講じないと、再び有権者の権利が脅かされることになります。ジョゼ=ラモス=オルタ大統領は、このままだと来たる選挙においても大勢の人びとが投票できない事態になるとして投票規則を変えるよう政府に呼びかけています。規則を変える時間がないとしたら、天候不良も考慮に入れて有権者の移動手段への支援に万全を期さなければなりません。シャナナ首相は日本から6300万ドル(630万ドルではなかった)を借りて喜んでいる場合ではありません。
5年前の大統領選挙は第一回戦も決選投票も81%以上でした。今回80%を切ったのは、多数決民主主義への“成熟度”のせいもあるかもしれませんが、大雨や強風の悪天候のなかで帰省を強いられた投票規則に起因することは間違いと思います。
大雨と強風の被害が各地で続出している。自然災害の対策を担当するのが社会連帯省である。いまこの省庁の建物が396万6000ドルをかけて首都に建設中である。以前の建物より4倍はでかい。東チモールの身の丈に合わない豪華な官庁建物は、一般庶民の貧しさと、政府・役人の汚職イメージを増幅させる。いま東チモールは“人よりコンクリート”の道まっしぐらである。2012年3月26日、ⒸAoyama Morito
決選投票、前回と今回の違い
大統領選挙の決選投票日は4月14日(土)、選挙運動は3月30日から4月13日までです。前回の決戦投票では、ジョゼ=ラモス=オルタ候補が反フレテリン勢力の支持をほぼ手中に収めたので投票前から勝負は見えていました。
しかし今回は前回のようにル=オロ候補が反フレテリン勢力に苦戦を強いられるかというと、そうでもないように思われます。なぜならタウル=マタン=ルアク候補はラモス=オルタのような政治的手練手管の使い手ではないし、そのつもりもないからです。タウル陣営は、数合わせのために政党や政治団体と取り引きをしないし特別な関係も結ばないという理念のもとで集結した市民運動型の集団です。条件なしで応援してくれるのであれば、ありがたく応援を受けますという立場を貫き、応援を断わられた政党もあります。このような姿勢では、善し悪しはともかく、前回の決選投票時のラモス=オルタのように反フレテリン勢力の票を集めることはできないことでしょう。
それに5年前の情勢では「フレテリン」と「反フレテリン」という対立軸がくっきりしていましたが、シャナナ首相による連立政権(これはAMP=国会多数派連盟と呼ばれる)に対抗するため、野党時代の5年間、フレテリンも連立を組める相手を求め続けてきた分、「フレテリン」と「反フレテリン」の色分けは昔ほど明確ではなくなっていると考えられます。なによりもフレテリンとしては、またしても決選投票で敗れてなるものかと、第一回戦の投票で姿を消した候補や政治勢力から票をかき集めるべく躍起になっていることでしょう。果たして決戦投票でフレテリン党首のル=オロ候補がどれだけの投票率を得られるか、国会議会選挙を占う意味でも大いなる注目点です。
前回の決選投票の対抗軸が「フレテリン 対 反フレテリン」だったのにたいし、今回の決選投票は「政党 対 市民」にあるとわたしは考えます。タウル=マタン=ルアク候補は去年9月まで軍人だったのでこの見解は突拍子もないように聞こえるかもしれませんが、タウル=マタン=ルアク候補の周りに集まって選挙運動している人たちは、かつて解放軍を支援した人たちとその流れを汲む人たち、一般の市民であることから、わたしにはそう見てしまいます。
新大統領を知るために
ル=オロ大統領が誕生するにせよ、タウル=マタン=ルアク大統領が誕生するにせよ、拙著『東チモール 抵抗するは勝利なり』(社会評論社、1999年)に、ル=オロが報告した軍事コミュニケの翻訳と、寝食を分け合っておこなったタウル=マタン=ルアクへのインタビューが載っています。これから新大統領となる“人となり”を理解するうえで、手前味噌になりますが、格好の参考資料になると思いますので、ぜひ、本書の購読をお薦めいたします。
~次号へ続く~
〈記事出典コード〉サイトちきゅう座 http://www.chikyuza.net/
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