青山森人の東チモールだより 第206号(2012年4月13日)

ゴミ問題、庶民と大統領の境なし

青山森人 e-mail: aoyamamorito@yahoo.com

決戦の日、間近

大統領選挙の決選投票日(16日)が近づいてきました。一ヶ月前の第一回戦の選挙運動期間中もわたしは感じていたことですが、5年前の選挙に比べると今回は相当に落ち着いた平和的な選挙だといってよいでしょう。ポスターも5年前に比べればそれほどベタベタとは貼られていません。本当に決選投票の選挙運動中なの?と思いたくなるほど静かです。熱気を帯びるとしたら、候補者の集会があったその時だけ、あるいは支援者たちがバイクや車を徒党を組んで走らせるときだけです。

全般的に静かな選挙戦ですが、新聞報道によればバウカウ地方では各候補陣営の支援者同士が衝突し、双方からけが人が出て、両陣営に険悪な空気が流れている模様です。

きょう(13日)、首都のタイベシという地区にあるタウル=マタン=ルアク陣営の事務所が何者かに襲撃されました。投石を受けただけで、けが人は出なかった模様ですが、詳しいことはわかりません。

12日と13日に首都でル=オロ候補は集会を開いたことから、ル=オロ支持者と思われる若者たちはフレテリンの旗を振りかざして暴走族のようにバイクを乗り回していました。その行為は選挙運動ではなく威嚇行為にしか見えず、選挙集会の会場に集まるとき、または引き上げるときに、警察の先導をうけてバイクや車による正当な行進とは違った種類の動きに見えます。バイクで暴走するうちつい興奮した者がタウル=マタン=ルアク陣営の事務所を襲撃したかもしれませんが、よく組織された挑発行為かもしれません。

ニュースでは事務所にいた人びとの怯える表情や近所の住民が心配そうに集まっている映像が流れました。そして駆けつけた警察官は相当な数です。つつがなく選挙を終えて、国連PKOや国際治安部隊に今年の末ごろ撤退してもらうのが、東チモールの今年の最大の課題なのであり、その大きな責任をPNTL(東チモール国家警察)が担っているのです。バウカウの衝突の件とともにタイベシの襲撃事件の全容解明がPNTLに果たしてできるかどうか、注目したいところです。

そして今夜(13日の夜)、両候補の討論会が国営放送局で行われ、生中継されました。控え室でリラックスして握手を交わす両候補の笑顔がニュースで流れましたが、生番組の終わりに、司会者であるベンジャミン=コルト=レアル教授(東チモール国立大学・国立言語学研究所)が二人にカメラの前で握手することを進めると、控え室のときとは違って、二人はテレビカメラに慣れないせいか、ぎこちない握手を交わしました。わたしとしては、二人に抱き合ってほしかった。そうすれば暴力抑制と国民の団結に寄与したことでしょうに。

このようなバイク乗り行為は選挙運動というよりは、日ごろのうっぷんを選挙運動に乗じて晴らしている“理由なき反抗”の若者らの姿に見える。うっぷん晴らしも示威行為の範囲にとどまっているうちはいいが、威嚇行為となってはまずい。暴力行為はもってのほか。
2012年4月12日、ベコラにて。ⒸAoyama Morito

より良き生活のために

冬の朝に暖かい布団の中から出るのがつらいのと同じように、いま東チモールの涼しい朝に起床するのがつらく感じます。朝6時~7時ごろは、室温が25~26℃となり、前日の暑さで疲れた身体を癒す気持ちよい時間だからです。

 このところ首都の町はしばらく雨から遠ざかっていましたが、11日と12日に短時間ですが雨が降りました。すっかり埃っぽくなった町にとって恵みの雨です。

 この3~4年間のうちにゴミ清掃員の姿がデリ市内にすっかり定着してきましたが、乾燥した季節となると、道路清掃やゴミ回収する作業の周辺が埃っぽくなって手で鼻や口を覆うだけでは不十分でマスクが欲しくなります。埃っぽくなった町での清掃はたいへんな作業です。作業員の健康に害が出ないように、業者や行政はマスクと手袋と作業服を清掃員に完備して作業にあたらせるべきです。

 2000年後半から思い起こせばデリ市内のゴミ状況は基本的に大きな変化はないようにわたしの目には見えます。道路を整備し、官庁の荘厳な建造物が増えても、それが逆にゴミ景観を悪化させている印象さえ与えます。

 ときたま政府や役人が音頭をとって、病気の温床となるゴミ掃除を市民に呼びかけますが、長続きしません。

それでも侵略軍撤退以降から思い起こせば、東チモールの衛生面において大きな改善が多々あります。人間さまが食事に使う皿と犬が餌を食うのに使う皿を区別しない光景にわたしは仰天したものですが(もちろん一般的なことではありませんが)、それはさすがに2000年前半でなくなりました。自由に町内を歩き回り、家庭に蚊を呼び寄せていた豚や山羊などの家畜も、行政が厳しく取り締まった甲斐あって、いなくなりました。

一方、習慣として根付いているのでそう簡単にはなくならないかもしれませんが、ぜひとも一刻も早くなくしてほしいことに、石鹸やシャンプーなどの洗面道具を便器の近くに置く習慣があります。その洗面道具のなかに歯ブラシも含まれており、便器に流す水がはねて歯ブラシにあたり、その歯ブラシを人間が口にして身体をこわす原因になることは容易に想像できるからです。口にする物と便器とはなるべく遠ざけてほしい。

なかなかなくなりそうもない習慣に公衆衛生のマナーがあります。手っ取り早くいうと、ゴミ捨て習慣です。昔は日本人だってそうだったかもしれませんが、道路のド真ん中でもどこでも、缶やペットボトルなどのゴミを当たり前にように捨てる行為は東チモールでは普通です。大統領選挙のこの時期、選挙運動の集会場から支持者が去った後に残るのは、水の入ったプラスチック容器やペットボトルなどでできたゴミの絨毯なのです。

 4月10日、タウル=マタン=ルアク候補の集会がデリ市内でありました。選挙スローガンである、「昔は独立のために血を流し、いま良き生活のために汗を流す」という美辞麗句とは裏腹に、支持者たちが水のプラスチック容器やジュースの缶などをごく自然に会場の草むらに捨て去ります。言っていることとやっていることが違うではないかといいたくなります。もちろん、かれらには悪気はまったくありません。

1~2年前に五つ星のホテルをデリの海岸沿いに建てる投資話がありましたが(シンガポールかマレーシアからの投資だったと思います)、そこがあまりにもゴミで汚いので、その話は消え去り、ジョゼ=ラモス=ホテル大統領がたいそう失望したことがあります。

口をすっぱくして公衆衛生の改善を呼びかける大統領自身がこのイースター休暇にデング熱にかかってしまいました。大統領は大統領府で公務をこなすことができず、自宅療養しながら外国からの訪問客に応対している状態です。貧しい庶民も偉い人も等しく、劣悪な公衆衛生の犠牲者になることをラモス=オルタ大統領は期せずして身体をはって証明したかたちになりました。

 民主主義・発展・安定・団結・教育・人材開発・平等……と決まり文句を連呼する大統領候補ですが、庶民の生活を良くするための、例えばこのゴミ問題を解決できそうな、庶民に「オッ!」と思わせる、琴線に触れる言葉を両候補とも持ち合わせていないのが、ちょっと寂しい気がします。

~次号へ続く~

〈記事出典コード〉サイトちきゅう座 http://www.chikyuza.net/
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