青山森人の東チモールだより…この期に及んで技能実習制度を採用するとは!?

廃止が決まった制度をなぜ採用するのか

日本の報道によると、10月18日、技能実習制度と特定技能制度の見直しを検討する政府の有識者会議(座長は国際協力機構[JICA]の田中明彦理事長)は、廃止が決まっている技能実習制度に代わる新制度の試案を示したとのことです。そして早ければ11月中に最終報告がまとめられるようです。

技能実習制度は今年4月に有識者会議によって廃止が決まりました。制度の抜本的な見直しが図られるのか、中途半端な見直しになるのか、たんなる看板のすげ替えになるのか、注目されています。制度の廃止が決まりこれから新しい制度の創設が政府の有識者会議で議論されている最中、先月9月14日、東チモールでは初の技能実習生となる7人の東チモール人の〝壮行式〟が開かれました。この〝壮行式〟は、東チモールの政府機関・SEFOPE(職業訓練雇用庁)と日本大使館関係者によって行われ、前政権のタウル=マタン=ルアク前首相が招かれました。そして 9月 16日、東チモール人技能実習生7名(女性4名、男性3名)が日本に旅発ちました。劣悪な低賃金・長時間労働の構造的な問題があるがゆえに廃止が決まり新制度の登場を待つ過程で、なぜこの技能実習制度のもとで東チモール人を日本に送るのでしょうか?

大きな疑問が膨れ上がります。制度上の構造的な問題が根本的に解決されないかぎり、この制度が使われれば問題が構造的であるがゆえに構造的な損害を被る外国人が出るはずです。よしんば、今回の7人の東チモール人にかんして、受け入れ先である高知県の農業団体が善意に満ち溢れた人たちで構成され、東チモール人は大歓迎され、労働環境も良いとしても(今回派遣された7人の東チモール人は借金を背負わないで渡航できたようだ)、多くの若いアジア人の人生をメチャクチャにしたこの制度を採用するということはこの制度に免罪符を与えることになり、この制度で人生をメチャクチャにされたアジア人の若者たちにたいする間接的で道義的な加害の行為にならないでしょうか?制度が廃止され新制度が待たれるなかで、東チモール人を送るとは……理解に苦しみます。

技能実習生と労働者

「われわれの政府と日本政府そして高知の会社が、7人の東チモール人労働者が日本で働くことに合意したのです」と上記9月14日の〝壮行会〟でロジェリオ=アラウジョ=メンドンサSEFOPE(職業訓練雇用庁)長官が述べました(『インデペンデンテ』、2023年9月15日 )。東チモールのどの報道機関も、東チモール政府関係者も、「技能実習生」とはいわず、「労働者」といいます。日本大使館は、技能実習制度では働く外国人は事実上「労働者」なのに「労働者」として取り扱われない「技能実習生」であるということをしっかりと説明したのでしょうか。ちゃんと説明したのに東チモール側が通常の「労働者」と思っているのでしょうか。もし日本大使館がしっかりと説明すべきことを怠ったならば、不作為の行為となって大きな責任になって跳ね返ってくることでしょう。

7人の東チモール人は今後3年間日本で仕事をすることになり、態度や仕事ぶりが良くない場合、1年で査証は切れることになると報道されています(同『インデペンデンテ』)。一方10月18日の日本の報道によれば、これから出される最終報告では、1つの企業で1年を超えて働くと職場変更が可能となり(ただし同じ職種に限られる)、在留期間が基本3年間となっています。この二つの報道を並べてみると、「3年」「1年」という年数は互いに呼応しているかのようです。そうでないとすぐに廃止される制度のもと7人の東チモール人が「今後3年間」働くとは論理的に成り立ちません。ところで、18日に報道された新制度の内容をちらりと見ても、依然として労働者としての権利が制約されているように思われます。

また、すでに高知県に渡った7人の東チモール人には旧制度から新制度への乗り換えはどうなるのか、しっかり説明され納得されたのでしょうか。その辺も懸念されます。そもそも、技能実習制度は人権侵害の温床であるとか、現代版の奴隷制度だなどと批判されていること、この制度が廃止されて新制度が秋(10~11月)に報告されること、等々について東チモールでは一切報道されていません。東チモール外務省に務める友人(東チモール人)にわたしがこのことを話したところ、初めて聞いた、と驚いていました。よもや日本大使館が技能実習制度の構造的な問題点についての説明を東チモールに怠っていないと思いますが……。

残念ながら間違っていますよ、タウルさん

さて上記の〝壮行会〟でタウル=マタン=ルアク前首相がこれから日本で働くことになった東チモール人にこう挨拶しました――日本では規律をもって仕事をしてほしい、なぜなら日本は規律の国なのだから。日本人のモットーが「働くために生活する」だとすると、東チモール人のモットーは「生活するために働く」である。

残念ながらタウルさん、間違っていますよ。日本は規律の国ではありません。日本は過去の戦争犯罪にたいして「未来志向」と言い放って責任を放棄する国であるし、日本に滞在する同じアジア人にたいして差別するし、ある芸能事務所で長年の性的虐待が一人の人間によってされていたことを大手マスコミが報じてこなかったし、警察も動こうとしない国です。口が裂けても日本は規律の国だとはとても言えません。そして 「働くために生活する」というモットーをもっている日本人はどれだけいるでしょうか。生活するために働きたいが、仕事がない、というのが日本の現状です。

さらにタウルさんはこれから日本で働くことになる東チモール人の親へこう語りかけます――あなた方の子どもを日本に働きに出すことは初めてである。日本政府が受け入れに合意した。日本は世界の発展国であり、日本の大使が述べたように高齢者が多い。その仕事の手は小さく、外国から仕事をしに来る多くの者を日本の子どもとして受け入れているのだ。

残念ながらタウルさん、また間違っていますよ。どうもタウルさんは30年以上も前の日本のイメージを抱いているようです。そして「失われた30年」という言葉を知らないようです。もはや日本は世界の発展国ではないことは数々の統計が嫌というほど示しています。「日本の子どもとして受け入れている」も、去年、技能実習生として来日して行方の分からなくなった外国人が過去二番目に多い9006名にのぼったことからして、明らかに間違っています。「日本の子どもとして」ではなく「安い労働力として」受け入れているに過ぎません。

わたしの東チモールで得た肌感覚では、タウル=マタン=ルアク前首相に代表されるような誤った日本のイメージを抱いている東チモール人が大勢いるような気がします。間違った日本のイメージを抱いている日本人が東チモール人に吹き込んでいるのかもしれません。あるいはタウルさんの日本にたいする外交的リップサービスでしょうか。

わたしなら、これから日本で働くことに決まってしまった若い東チモール人にこういうでしょう――心身の危険を感じたら躊躇なく逃げろ。規律などは忘れて、ともかく身の安全を守るために逃げて。そのための避難先をまずは確保してください――と。

 

青山森人の東チモールだより  499号(20231020日)より

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