青山森人の東チモールだより…アメリカはオスプレイを飛ばすな!

東チモールにオスプレイがやって来た

もう1年と3ヶ月前のことです、東チモール上空をアメリカ海兵隊の輸送機MV-22オスプレイが飛んだのは。

このことを思い出させたのは、今年8月27日、オーストラリア北部準州のメルビル島での軍事訓練でオスプレイが墜落し、乗組員23名のうち米軍海兵隊員3人が死亡、5人が重症を負ったという事故のニュースでした。報道の写真を見ると、亡くなった3人のうち男性が2名(21歳と37歳)、女性1名(29歳)です。痛ましい限りです。このような痛ましい事故を連発するのがオスプレイである、性能が安定していない、と思わない人はいないのではないでしょうか。

オスプレイが日本上空を初飛行したのは2012年、墜落事故のとばっちりをいつうけるのかという不穏な空気で日本上空が覆われてから久しくなりましたが、日本政府はどこ吹く風です。今年8月29日、自衛隊オスプレイ配備の駐屯地工事差し止め仮処分を住民が佐賀地裁に申し立てています。

1年3ヶ月前の2022年6月28日に戻ります。自然災害に備える緊急人道支援訓練を名目にアメリカ海兵隊のオスプレイ2機が東チモールに登場しました。日本を離れて東チモールに来てもオスプレイが頭上に飛ぶとは、やれやれ……です。この少し前の2022年6月8日、米カルフォルニア州でオスプレイが墜落して5名が亡くなっていたのに、20日後にアメリカ軍はオスプレイを東チモールで〝デビュー〟させています。しかも東チモール政府関係者を首都デリの国際空港から第二の都市バウカウの飛行所へ乗せて飛ぶとは驚きです。このときオスプレイに同乗したのは、F-FDTL(東チモール国防軍)のファルル=ラテ=ラエク将軍をはじめとして防衛大臣に運輸通信大臣そして市民保護庁からのお偉いさんでした。このお偉いさんたちはオスプレイが20日前に墜落して5人が亡くなったことを知ったうえで乗ったのならたいした度胸です。本来ならば東チモール政府はカルフォルニア州での事故をうけてオスプレイお披露目飛行の中止または延期を申し入れるべきだったと思います。東チモール政府の要人たちが犠牲にならないで済んだのはただひたすら幸運だっただけかもしれません……。

そして今年8月27日、オーストラリア北部メルビル島でのオスプレイ墜落事故ですが、東チモールのF-FDTLからも約30名が参加した合同軍事演習の一環で起こった事故でした。この合同演習には、アメリカ・オーストラリア・インドネシア・フィリピンそして東チモールから合計2500人が参加したと報じられました。墜落したオスプレイに同乗していた23名はすべてアメリカ兵士とのことですが、東チモールとオスプレイの距離の近さを感じます。

一方、今年8月30日、この合同演習でF-FDTL兵士3名が負傷しました。そして9月上旬、かれらは回復に向かっていると東チモールで報道されました。オスプレイ墜落事故と日付が近かったので最初もしやオスプレイに乗っていたのか?とわたしは思いましたが、明らかに日付が違うのでそうではありませんでした。演習とはいえ軍事である限り命懸けです。

 

アメリカ軍によるバウカウ飛行所の修繕工事

オスプレイが東チモールに登場したのは去年の6月ですが、東チモール第二の都市バウカウにある飛行所の修繕工事を申し入れた2021年3月ごろから、アメリカはバウカウ飛行場にオスプレイを登場させる目論見があったことでしょう。あるいはこれより前の2020年5月に当時のF-FDTL司令官のレレ=アナン=チムール将軍がバウカウ飛行所の修繕について発言した時点で、アメリカの計画はすでに進んでいたことは十分に考えられます。アメリカ軍がバウカウ飛行所の修繕を支援するのは、アメリカ軍がバウカウ飛行所を使用したいがためであると誰が思わないでしょうか。

なおポルトガル植民時代、バウカウ空港が東チモールの空の玄関でした。バウカウ空港は大型機が発着できる本格的な滑走路があります。1999年9月、住民投票の結果が発表され東チモールの独立が確実となったあと、民兵組織を隠れ蓑としたインドネシア軍による大規模な破壊活動と暴力の嵐が吹き荒れたとき、大勢の東チモール人が海外へ避難または西チモールに連行されました。大勢の避難民の帰還のために飛んだのは大型機で、着陸したのはバウカウ空港でした。「独立回復」以来、東チモールの空の国際玄関は首都デリの「ニコラウ=ロバト議長国際空港」となったために、バウカウ空港はF-FDTL管理下の飛行場となっています。

2021年3月、当時のタウル=マタン=ルアク首相とアメリカ大使館のチャールズ=ケビン=ブラックストーン大使との会談のなかで、総額1000万ドルの費用をかけてバウカウ飛行所を修繕する計画が述べられ、将来この飛行所をアメリカが使用するつもりはないとアメリカ大使は述べました。タウル=マタン=ルアク首相は、アメリカ側がそういうのだからアメリカがこの飛行所を使用するのではないかと懸念することはないと、まるでアメリカの云うことを真に受ける発言をしています。おそらくは、アメリカ軍が戦略的に使うことと、緊急事態に対応して東チモール政府の許可を得て使わせてもらうこととは別ですよ、などという言葉の遊びが将来起こることでしょう。

2021年7月11日、タウル=マタン=ルアク首相とアメリカのブラックストーン大使、そしてレレ=アナン=チムールF-FDTL司令官が、バウカウ飛行所修繕工事の起工式を行いました。アメリカ軍とF-FDTLとの合同工事という名目での工事です。なお、東チモール側はバウカウ飛行場の民間使用も視野に入れています。

2022年9月、ファルル=ラテ=ラエク司令官はバウカウ飛行場の修繕工事は継続中であると述べています。まだ工事中である同年6月の時点でアメリカ軍は人道支援訓練を名目にオスプレイを発着陸させているのですから、何をかいわんや、です。アメリカ大使がアメリカはこの飛行場を使用するつもりはないと述べたのは2021年3月のこと、舌の根の乾かぬうち……とはこのことです。

東チモールの重要な空の基地がアメリカ軍によって〝いじられ〟、早くもオスプレイが導入された演習がされているとは、F-FDTLとアメリカ軍の接近のほどがうかがえます。

 

日本はオスプレイを飛ばすな!

日本は2015年、17機ものオスプレイを購入するため総額30憶ドル(当時の為替レートで約3600億円)を予算計上しました。一機あたりでいうとアメリカ国内での倍の値段といわれています。去年3月末時点で自衛隊機としてのオスプレイは9機となっています。どの国も買わないオスプレイを日本だけが買っています。日本の上空の安全を守るため、日本はオスプレイを買うべきでないし飛ばせるべきでもありません。

いまや対米従属政策に一心不乱に邁進しているという嘆かわしい日本の政情をみれば、日本の自衛隊が悲しいかなアメリカの起こす戦争に加担するための補助部隊になっていると感じない人はいないと思います。この対米関係において、先述したようにアメリカ軍がその存在を固めている東チモールに自衛隊がいたとして不思議ではないということになります。東チモールにおける自衛隊の役割は何か?日本政府がまともに説明できるとはとても思えません。

 

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『東チモールの声』(2023年9月21日)より。

日本を含めた四ヶ国とF-FDTLとによる合同演習を伝えた。

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『東チモールの声』(2023年9月21日)は、アメリカ・オーストラリア・ニュージーランドそして日本の四か国の部隊が東チモールのF-FDTLとおこなった合同演習について報じました。この記事によると、F-FDTLから110名の兵士、オーストラリア軍から69名、米軍から19名、ニュージーランド軍から4名、そして日本から16名が参加しています。演習内容は、「医療が必要な人のために倒木で塞がれた道を通れるようにする」とか、爆弾処理あるいは溶接、遠隔地からの連絡といった訓練です。「2023年のこれまでの演習では、メティナロに兵舎を二棟建てたり、ボボナロの学校を修繕したり、学校二校を含む地域にソーラーパネル20基を設置するなどの演習を行った。今回の2023年合同演習は一か月間実施される予定で、9月27日に終了する予定となっている」と同紙は報じています。学校校舎の修繕作業は東チモールで長年アメリカ軍が行っている活動として印象づけられています。

『チモールポスト』(2023年9月27日)の第一面には、東チモール駐在の日本大使と自衛隊の大佐が一緒にPNTL(東チモール国家警察)を訪問している写真が載りました。日本の自衛隊が当たり前に海外に派遣される時代になったんだぞ!と胸を張っている写真のようにわたしにはみえます。

日本政府による憲法空文化政策が功を奏している現状がこのまま続けば、日本は「新たな戦前」どころか「新たな戦争」を迎えることになるでしょう。憲法を空文化するその目的とは対米従属のためであり、対米従属とは日本の国益とか安全保障とは無縁の、政権とその周辺の者たちが自らの権力と利権を維持するための手段である……東チモールでのオスプレイの飛行、オーストラリア北準州でのオスプレイの墜落、そしてアメリカ軍などと一緒になって東チモールで軍事演習をする自衛隊……これらのニュースを見たり読んだりするにつけ、このように想う今日このごろです。

 

青山森人の東チモールだより  497号(2023928日)より

e-mail: aoyamamorito@yahoo.com

〈記事出典コード〉サイトちきゅう座  https://chikyuza.net/
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