資料編12 2023年9月15日
東チモールのシャナナ=グズマン首相が9月4日、ASEAN(東南アジア諸国連合)首脳会議が開催されたジャカルタで関連会議「ASEANビジネス投資会議」で演説(英語)した。『チモールポスト』紙(2023年9月5日)にその演説文が採録されたので、それをもとにして粗訳してみた。
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カイ=ララ=シャナナ=グズマン首相による「ASEANビジネス投資会議」における演説
2023年9月4日、ジャカルタ、スルタンホテルにて。
題:気難しい世界経済のなかの弾力性と安定性
淑女・紳士のみなさま、
きょうこの重要な「ASEANビジネス投資会議2023」の場で、気難しいグローバル経済における弾力性と安定性を主題にして話すことができるのは名誉なことです。
ASEANは世界経済の重要な御者として台頭してきました。2兆3000億ドルと6億人という市場規模をもつASEANは東南アジアを形づくる一大組織です。
東チモールがASEAN加入を求める主な理由は、この成功物語の一部になりたいからです。正式なASEAN加盟国になることは東チモールへ直接に投資しようとする海外からの投資家に信頼と安心を与えることでしょう。
海外からの直接投資を惹き付けることは東チモール経済成長にとって、雇用を創出し、経済構造の近代化を形成することになり、決定的に重要なことなのです。
われわれはまたASEANの「人を中心とする」成長・発展の取り組みの一部になりたいのです。この取り組みはASEAN関連事にたいして広範な参加と自主意識をもたらしてきました。このことは、一人一人の富と平均寿命・健康が改善され、何百万という人びとを貧困から抜け出ることに手助けをしてきたのです。
この変化は、ASEAN諸国間の信頼を築くことにとって、そして安定・団結・平和を促進することによって達成されてきたのです。ASEANは、寛大と友情そして協働にたいし責任ある言動を分け合うことで結びつくという共同体を形成していくため、加盟諸国の多様な文化と歴史を共有することに成功しました。
ASEANのいまの成功を思うとき、東南アジアが常に団結と協働の地域ではなかったことを容易に忘れてしまいます。わたしたちのこの地域が、他諸国の貪欲と紛争そして戦争によって引き裂かれ、植民地化と冷戦の犠牲となったことは遠い昔のことではありません。
そして東チモールの人びとはこのことによる影響を受けてしまいました。冷戦構造の流動性と西側列強の要求によってわれわれの国は占領され自決権のための困難な闘いをするという時代を迎えたのです。
世界の列強諸国間にある今日の地政学的戦略の競争にわれわれがくみすることを拒否するのは、われわれが冷戦構造下での代理戦争の苦痛を憶えているからです。
それは、われわれの地域がどれほど長い道のりを歩んだのか、ASEANの経済成長がどれほど著しいものなのか、これらを理解したうえでのことなのです。そしてベトナム・マレーシア・タイ・インドネシアそしてシンガポールを含めたASEAN経済の奇跡的な勃興をわれわれは称賛できるのです。
親愛なるみなさん、
ASEANの成功の国際的な意義と、脆さと対立から強く安定した国々を築いてきたその能力を認識するのは重要なことです。しかし悲しいかな、ASEANと東アジア諸国もそうですが、その偉大な成功を世界の他地域では検証されてはいません。
奇跡的な経済の可能性があるのに、紛争と戦争があるのです。協働と協調があるのではなく、人間の尊厳と希望の喪失が広がっているのです。
世界の多くの国々が、有効な手段をとって世界経済のなかにまとまることができないでいます。この結果、あまりにも大勢の人びとが職を失い、危険なスラム街で生活するという状態に陥っています。
われわれはまた、洪水・干ばつ・サイクロンそして海面上昇など、極端な気候条件を経験しているところです。これらは世界の強国が気候変動に対応しないために生じていることです。
気候変動の最悪の影響を受けるのはいつも弱い国々です。われわれの隣人である太平洋諸国は、上昇する海面に浸るという脅威にさらされているのがその証です。
世界最貧の地域を発展させることに世界経済の仕組みが失敗しているというのは、国家能力が弱まり危険な方向に傾いているなかで生じていることです。
このことは、大衆が大挙する移住と、ヨーロッパの海岸で目撃されている悲劇を助長しています。このことは、過激主義、国境をまたぐ犯罪、自警団の増大を促しているのです。
もちろん当事国やその人びとを非難することは簡単でしょう。しかしそうすることは歴史の反響を無視することになります。
そう、われわれがいますべきこととは、人と人との連帯と繁栄の分かち合いを未来図にしたより良い国際秩序を構築することなのです。
虚弱な国々が弾力性(回復力)と安定性を築くのを支援する国際秩序です。
東チモールが不安定な時期を経て、紛争と脆さに対峙する他の後進諸国とともにあるというのは、この認識があったからです。
われわれの集約された声が聴かれることが重要なのだ、われわれ抜きでわれわれにかんする決定がなされたときはとくに、とわれわれは信じました。
われわれはg+7を創り、いまやアフリカ・アジア・中近東そして太平洋諸国から約20の参加国を有する組織となりました。
g+7は参加諸国を支援・代表して参加諸国の声が国際舞台で聴いてもらうように懸命に努めています。
g+7は現在、国連においてオブザーバーの地位を得ています。このことによって国連に集約された展望を提供し、国連に作業してもらうことができるのです。
g+7は、国連が国家の弾力性と安定性を促進するように、より活発な役割を支援しています。
アントニオ=グテレス氏が国連事務総長であるのは、われわれにとって幸運なことです。国連を引っ張り、人間の尊厳と正義そして平等のためのより良い国際秩序のために闘う人にアントニオ=グテレス氏ほど適任の人はいません。
ASEANの驚くべき業績を認識するにつけ、ASEANは虚弱な国々に弾力性と安定性を築くことを手助けするという役割を担っているのだとわたしは考えます。
ASEANは、高い国家能力、効果的な政府、法と公秩序の支配、健康で教育を受けた労働力、これらを有する地域を築きました。ASEANは、寛容と相互尊重を重要視して人を中心とする取り組みを採用してきました。
世界の多数の国々が、虚弱性と不安定性と闘うなか、ASEANは人びとの利益を積み上げるという力強く台頭する経済の手本を提示したのです。
われわれはASEANの安定・安全そして成長に光を当てるだけではなく、ASEANが虚弱な国家にたいしいかにして弾力性と安定性を支援するのかと問わなくてはなりません。
ASEANは、力強い共同体、地域の社会基盤、経済の弾力性を築いていくための最高の発展モデルを提供できます。
西側諸国は世界的な発展にたいする解答を持っていません。われわれが経済的に関係し合う世界で生きている一方で、あまりにも多くの虚弱な国々が排他的な経済や乏しい発展に直面しています。
半世紀以上にわたり、ASEANは安定・団結・平和をわれわれの地域内で促進してきました。ASEANは、対話の力と、国と国が共通の目的で一緒になったとき何が成されるか、を世界に示しました。
そしてASEANは、より一層人びとに解放され広く繁栄が享受される経済成長の利益をわれわれに示したのです。
淑女・紳士のみなさん、
わたしはさらにASEANに申したいと思います。ASEANがわれわれの地域を越えて、虚弱な国家が民主主義と人権が平和国家の礎になるように支援する世界的ネットワークの一翼を担うように求めます。
不安定な世界経済のなかで、国際的な弾力性と安定性を築くため、寛容と人間の尊厳を通して、ASEANは重要な貢献ができるのです。
ともに働きながら、われわれは人と人との連帯と繁栄の分かち合いを未来図にしたより良い国際秩序を築いていけるのです。
ありがとうございました。
青山森人の東チモールだより 資料編12(2023年9月15日)より
e-mail: aoyamamorito@yahoo.com
〈記事出典コード〉サイトちきゅう座 https://chikyuza.net/
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