青山森人の東チモールだより 第370号(2018年5月15日)
シャナナの柔軟性の勝利
AMPの勝利、フレテリンは敗れる
5月12日・土曜日に投票された東チモール「前倒し選挙」の大勢が13~14日にかけて判明しました。開票率99%の段階での報道をまとめると以下のようになります。
・AMP((進歩改革連盟)……得票率49.56%、獲得議席数は34議席。
・フレテリン(東チモール独立革命戦線)…得票率34.27%、23議席。
・民主党……得票率約8%、5議席。
・民主開発戦線……得票率約5%、3議席。
・その他四つの政党または連合勢力は議席獲得の条件である得票率4%に届かず。
控訴裁判所による正式な結果発表はまだまだ先(今月末ごろか)になる見込みですが、最終的には大勢に大差は生じないであろうとSTAE(選挙管理技術事務局)が発表しています。
かくして、CNRT(東チモール再建国民会議)とPLP(大衆解放党)そしてKHUNTO(チモール国民統一強化)の三党連合勢力であるAMP(進歩改革連盟)が、国会解散前の名称AMP(国会多数派連盟)に再び名前を戻すかどうか別にして、また、AMPが他政党勢力と連立を組むか組まないかも別にして、単独で安定政権となる第8次立憲政府を樹立することができるようになりました。
第8次立憲政府で注目すべきは、庶民の生活向上を基本政策に掲げるPLP(大衆解放党)のタウル=マタン=ルアク党首がシャナナ=グズマン氏による開発中心路線の軌道修正をすることができるかどうかです。政権内の“攻防”が見どころです。また、大臣や高官による数多くの汚職事件を生んだ過去のシャナナ連立政権を考慮すれば、次期シャナナ政権も汚職体質になることが十分に懸念されますが、清廉潔白のタウル=マタン=ルアク氏が汚職防止に役割を果たせるかどうかも興味ある点です。要するに、シャナナ=グズマン政権内におけるタウル=マタン=ルアク氏の指導力と存在感が注目点といえます。
シャナナの柔軟性の力
この結果を受けて二つのことが判明しました。まず第一に、FALINTIl(ファリンテル:東チモール民族解放軍)の最高司令官だったシャナナ=グズマン氏と参謀長だったタウル=マタン=ルアク氏が組んだことが、好意的に評価されたのか、それとも批判されたのか(なぜならシャナナ連立政権を非難していたタウル=マタン=ルアク氏がシャナナ氏と組んでしまったから)。AMPが獲った議席数が解散前の35より1つ減らすことを考慮すれば、(表現が難しいところですが)強い批判を受けない程度にまあまあ好意的に評価されたといえるのではないでしょうか。独立の両雄二人の組み合わせが“夢の組み合わせ”として爆発的な政治的化学変化を起こせなかったのは、この5月20日で独立(正確には「独立回復」)16年目を迎える時の流れを感じます。
第二に、フレテリンは今回もまた鎧のような固定支持率から落ちもしなければとりわけの飛躍もできなかったということです。前回の選挙ではその固定支持率によって紙一重の差でシャナナ=グズマン氏のCNRTを上回り第一党の座を射止めましたが、今回は得票率30%を越えているので大健闘をしたにもかかわらず、フレテリンの固定性がシャナナ氏の拡張性ある柔軟性にしてやられたといえます。
シャナナ=グズマン氏はCNRT単独ではフレテリンの鎧のような固い支持率を上回れないことを前回の選挙で悟り、野党に下野しながら巧みに自分の対立者であるタウル=マタン=ルアク氏を懐に呼び寄せて、チモール海の領海画定交渉団長として海外に長期滞在しながらもフレテリン連立政権よりも存在感を国民に示しつつ、海外でCNRT・PLP・KHUNTO三党連合を結成し、フレテリン連立政権を短命に終わらせ権力を奪還するその策略と実行力はさすがという他ありません(ジョゼ=ラモス=オルタ元大統領は「柔軟的すぎる」と批判するが)。
シャナナ=グズマン氏が、第8次立憲政府の首相になるのか、また計画戦略投資相のような大臣になるのかはわかりませんが、ともかく最高権力者として今後5年間、東チモールを治めることになりました。たぶん、チモール海におけるオーストラリアとの領海を画定した勢いと、今回この選挙で勝利した勢いにのり、「グレーターサンライズ」ガス田からパイプラインを自国にひかれることを前提にする「タシマネ計画」の推進を続行していくことでしょう。
~次号へ続く~
青山森人 e-mail: aoyamamorito@yahoo.com
〈記事出典コード〉サイトちきゅう座 https://chikyuza.net/
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