青山森人の東チモールだより 第351号(2017年8月9日)
フレテリン、CNRT抜きの連立政権樹立か
CNRT、野党に下野する方針
第二党の座に甘んじることになり混迷模様のCNRT(東チモール再建国民会議)は、一度は7月29日に会議を開いて身の振り方を決めるとしていましたが、その会議は延期となり、混迷ぶりをますます世間に示すかたちとなりました。結局、8月4日(金)~6日(日)の三日間、特別会議を非公開で開きました。
『チモールポスト』(2017年8月4日)の「CNRT会議、非公開で。カルブアディ書記長、シャナナは参加すべき」という見出しの記事によると、まだ公の場に姿を現していないシャナナ党首がこの会議にも出席しないという情報があるが、カルブアディCNRT書記長はその情報を否定し、シャナナ党首は参加しなければならないし参加するであろうと語りました。選挙結果をうけて開かれる党会議に、党首が出席するかしないかあやふやな状況にあるということからも、シャナナCNRT党首はふさぎ込んでいるのでしょうか、国民からお灸をすえられたかたちとなった選挙結果に、衝撃をうけていることがうかがい知ることができます。
CNRT書記長の希望したとおり、シャナナCNRT党首は会議に参加しました。そしてシャナナ党首は、会議の初日に、選挙結果の責任をとって党首を辞任する、CNRTは連立政権参加の招きに応じない、CNRTは野党になった方がよい、と語ったのです。
そしてCNRTは会議の最終日、身の振り方について結論を出しました。CNRTは野党でいく、そしてシャナナ党首の続投です。もしこのとおりに事態が進むとしたら、わたしが前号の「東チモールだより」で書いた予想ははずれたことになります。わたしの予想とは、「シャナナ党首が政権に参加するのは、どのような地位に就くこととは別にして、間違いないことでしょう」というものでした。シャナナ=グズマン氏は大規模開発事業を継続させる強い想いを抱いているので、交渉術として党首辞任を口にしたという見方もありますが、予想に反して、シャナナはフレテリンの呼び掛けに応じるつもりに、CNRTの会議後の流れをみると、ないようです。
自ら語ったことを実践してほしい
予想ははずれたようですが、わたし個人としては、シャナナ=グズマン氏が選挙結果をうけて、謙虚に下野して、大規模開発計画を中心とした過去10年間の政策を顧みてくれればうれしいことです。
解放闘争の最高指導者シャナナ=グズマン氏はインドネシアで囚われの身であったとき、1998年大晦日、ジャカルタのチピナン刑務所から1999年新年のメッセージを発信しました。その中にこうあります。
「われわれは自分たちの民族解放闘争を通して、世界中の解放闘争の歴史を研究する必要以上の時間を得た。多くの独立国は“国の運命を管理する権利”の何たるかを理解していないことを示している。指導者たちは深刻な社会・政治の問題と悲しむべき経済的苦難に直面している。こうした国々では独立は平和と理解をもたらさなかった。こうした国々では独立は住民の生活を改善しなかった。
インドネシア自身が第三世界の政策を映し出している。貧困と惨めさが大都会ジャカルタの美しいビルの陰に隠れている。……」(拙著『東チモール 抵抗するは勝利なり』[1999年、社会評論社]、P221より)。
国の予算を一般庶民の生活改善にまわさないで大規模開発を優先させた過去10年間のシャナナ連立政権を振り返れば、チピナン刑務所からのメッセージはまるで現在のシャナナ自身へ宛てたものではないかという感傷に浸ることができます。いま首都の街には三階建ての建造物は珍しくなく、四階建て、それ以上のビルも建てられています。しかし日常の暮らしに困っている人々の生活改善は置き去りにされています。解放闘争の最高指導者だったシャナナももう71歳、原点回帰するのも悪くはないとおもいます。
いまや首都のあちらこちらに3階以上の建物が見られるようになってきた。
2017年8月8日、首都のコルメラ地区にて。©Aoyama Morito
高層ビルの陰に隠れる貧困と惨めさは、シャナナ連立政権下で現われてきた。
2017年8月2日、財務省ビル。©Aoyama Morito
梯子をはずされるのかマリ=アルカテリ書記長
第一党となったフレテリン(FRETILIN、東チモール独立革命戦線)のマリ=アルカテリ書記長はCNRTの出した結論について、他党の決定についてとやかくいえる立場ではないがシャナナ党首と連立政権について話し合いをするために呼びかけを続けると述べています。CNRTには興味はなく、シャナナ党首だけの協力がほしいという言い方がいよいよ鮮明になってきました。しかしどうやら、いまの流れでいけば、CNRT抜きの連立政権をフレテリンは率いるかもしれません。
それにしても「東チモールだより 第349号」でも書きましたが、あれほど蜜月のような仲良しに見えたCNRTとフレテリンの両党の関係がこれほど疎遠になれるとは、随分と不自然です。これが政治の世界というものなのでしょうか。わたしにはこれが一番摩訶不思議なことです。2015年2月に首相を含め重要閣僚の座をシャナナCNRT党首から与えてもらったフレテリンにしてみれば、シャナナCNRT党首と連立政権を組むことをあてにするのはごく自然なことで、政権の主導権を渡され、はい、さようなら、というのであれば、まさに梯子をはずされた思いをマリ=アルカテリ書記長は抱いていることでしょう。
フレテリンの比較的人気の高いフランシスコ=グテレス=“ル=オロ”党首はシャナナCNRT党首の応援もあって大統領になってしまったので、国会で政権を率いることができません。連立政権を率いるのはマリ=アルカテリ書記長ということになります。その性格、とくに物の言い方は嫌われる傾向にあり、2006年、当時のアルカテリ首相は「危機」を防ぐことはできず、辞任を強いられました。いまもかれが嫌われる政治家であるといえば誇張になるかもしれませんが、人気の面では不調であることはいえます。となると、フレテリンが率いる連立政権にシャナナCNRT党首が参加しなければ、その政権運営は難航することでしょう。そうなればフレテリンの鎧のように堅固な30%前後の支持率が弱体化するかもしれません。それがシャナナ=グズマン氏の真の狙いなのでしょうか……?
~次号へ続く~
青山森人 e-mail: aoyamamorito@yahoo.com
〈記事出典コード〉サイトちきゅう座 http://www.chikyuza.net/
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