青山森人の東チモールだより…恩赦・減刑法は違憲

恩赦・減刑法の改正で恩赦の政治的濫用が懸念

去年の12月12日にジョゼ=ラモス=オルタ大統領によって、与党CNRT(東チモール再建国民会議)と連立政権を組む民主党の主要幹部・アントニオ=ダ=コンセイサン、通称〝カロハン〟(以下、カロハン)がインドネシア駐在の東チモール大使に任命されましたが、カロハンがかつて通商産業大臣に在任中(2012年~2015年)に法律で禁止されている経済活動に参加したとして起訴され審議された第一審の裁判で今年の1月8日、カロハンは5年の実刑を言い渡たされました(東チモールだより 509号)。

インドネシアの東チモール大使に任命される時点でカロハンは判決を待つ被告の身であったのにもかかわらず、ラモス=オルタ大統領が重要な隣国であるインドネシアの東チモール大使に任命したことにより、この件はたんなる汚職疑惑事件から、シャナナ首相による〝司法改革〟にからむ政治問題となってしまいました。ラモス=オルタ大統領が判決を待つ身の被告をインドネシアの東チモール大使に任命したのは、たとえ被告が有罪になっても大統領は去年12月に発布された新しい恩赦・減刑法をすぐに適用するつもりだったかのではないかという疑念を生じさせたからです。

かつてシャナナが率いた政権で起こった汚職事件で起訴され有罪判決を受けてしまった主要閣僚らに大統領が恩赦・減刑法の改正版を適用し、さらにこれから有罪判決を受ける閣僚らにも恩赦・減刑を大統領がむらみやたらに与えることで、シャナナ首相が自ら主導する政策を円滑に実行しようとしているのではないか、これがシャナナ首相にいういわゆる〝司法改革〟ではないかという疑念が去年12月から起こっている出来事から沸いてきます。

ラモス=オルタ大統領は、去年11月に国会を通過した大統領の有する恩赦・減刑の権限を定めた法律の改正法を12月に発布するとすぐにこれを適用すると発表しました。恩赦の対象となったのは7年の禁錮刑を下されたエミリア=ピレス元財務大臣と禁錮刑4年のマダレナ=ハンジャン元保健副大臣でした(東チモールだより 第506号参照)。

海外に逃亡して刑に服していない人物にさえも大統領恩赦が与えられるのならば、有罪判決を受けたばかりの被告への恩赦も決してあり得ない話ではないという憶測を生みます。もしもそんなことができるようになってしまうと、汚職などで有罪判決を受ける政府要人に大統領が片っ端から恩赦を与え政府を支えるということが可能になってしまい、法の平等性が崩壊してしまいます。

恩赦・減刑法の問われる合憲性

野党三党は当然ながら上記のような〝司法改革〟に反発します。ラモス=オルタ大統領がエミリア=ピレスらに恩赦を与えると発表した去年12月15日のすぐ後の21日、控訴裁判所にこの新しい恩赦・減刑法の合憲性を諮るよう控訴裁判所に求めました。そして検事総長と「人権正義調査機関」(国の独立した人権擁護機関)も、恩赦・減刑法にたいする合憲性を審査するよう控訴裁判所に求めたと、今年2月上旬に控訴裁判所のデオリンド=ドス=サントス所長が発表しました。国会議員・検察庁・独立人権機関がこの恩赦・減刑法の合憲性/違憲性の判断を控訴裁判所に求めたのでした。

カロハン側が控訴、大使から解任

一方、有罪判決を受けたカロハン被告側の弁護人は1月15日、正式な判決文を書面で受けると控訴の構えを示しました。控訴裁判所でこの件の審議が継続されるということは、被告の刑が確定されていないこと意味するので、大統領がカロハンに恩赦を与えるという類の話ではなくなったはずです。

しかしなおもラモス=オルタ大統領は控訴裁判所でカロハンの刑が確定した場合、恩赦・減刑法に照らし合わせてみると語り、カロハンに恩赦を与える意思を示すかのような発言をしています。野党フレテリン(東チモール独立革命戦線)のアニセト=グテレス議員は1月16日、「アントニオ=カロハンとその同僚は大統領選でラモス=オルタが当選するために尽力し、ラモス=オルタは大統領となった。ラモス=オルタはカロハンに謝礼をしようとしているようだ」と批判しました(『インデペンデンテ』、2024年1月17日、インターネット版)。

そして2月1日、カロハン被告側は控訴しました。さすがに控訴裁判所で審議される汚職事件の被告がインドネシアの東チモール大使という地位に就いては外交上問題があるのでしょう、2月13日、ラモス=オルタ大統領はカロハンをインドネシアの東チモール大使から解任しました。大統領の失態です。

恩赦・減刑法は違憲

そして注目されるは控訴裁判所の恩赦・減刑法の合憲性/違憲性の判断です。かくして控訴裁判所は2月19日、改正された恩赦・減刑法は第6と7条そして9条が憲法に抵触するとして違憲であると判断を下したのです。

与党CNRTから選出された女性初の国会議長・フェルナンダ=ライは恩赦・減刑法の全体が違憲と判断されたわけではないと指摘し、エミリア=ピレス元財務大臣とマダレナ=ハンジャン元保健副大臣にたいする恩赦について判断するには時間がかかるという見解を述べました(『タトリ』、2024年2月20日)。

野党は、控訴裁判所の判断によりエミリア=ピレスとマダレナ=ハンジャンへの恩赦は違憲ということになり、大統領は二人にたいする恩赦を取り消すべきであると反応しました。

控訴裁判所はあくまでも恩赦・減刑法は違憲であると判断したのであり、エミリア=ピレスとマダレナ=ハンジャンへの大統領恩赦について何らかの判断を下したわけではありません。今後、この恩赦の適用についてどのような〝攻防〟が展開されるのかが注視されます。

カロハン、国会議員に復帰

さて、第一審の判決で5年の刑を言い渡された元通商産業大臣のカロハンは控訴したので、この件は控訴裁判所(東チモールでは最高裁判所)に審議の場を移すことになりました。3月4日、カロハンはなんと国会議員の席に戻りました。去年の議会選挙で獲得した民主党の6議席にのなかに元々カロハンの名前が割り当てられたので、他の党員に議席を譲りインドネシアの東チモール大使に就任しましたが、この度、東チモール大使の職を解かれたので再びカロハンは国会議員に復帰したというわけです。

カロハンは、「わたしは国会議員としての義務を果たすために戻ってきた。恩赦を求めに戻ったのではない」と述べました(『タトリ』、2024年3月4日)。

今後アントニオ=ダ=コンセイサン=カロハンは国会議員として汚職の嫌疑を晴らすために控訴裁判所で争うことになります。

 

青山森人の東チモールだより  512号(2024311日)より

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