青山森人の東チモールだより…日本は震災、東チモールは水災

東チモール政府、日本に連帯の意思を表明

1月5日、アジオ=ペレイラ内閣長官は東チモール政府を代表して、元旦に発生した能登半島の大地震の被災者と日本政府に連帯の意思を示し、「日本の国民と政府へ誠実な哀悼をこめて、救済活動をしているすべてのみなさんに敬礼をします」と述べました。

人命軽視の姿勢が目に余る岸田政権ははたして東チモールからの連帯表明を受けるに値する政権なのかはおおいに疑問ですが……。

今年初の災害級の大雨

日本の惨状を慮ってくれる東チモールは東チモールで、1月9日(火)、首都デリ(Dili、ディリ)はたいへんな大雨に見まわれてしまいました。

去年の年末から引き続いて今年に入ってしばらくの間、雨らしい雨が降りませんでした。おやおや、雨季なのにどうしたものやら、これも気候変動の一端か、大雨は困るが雨が降らないのも困る、湿気を一時的に和らげてもらうためにひと雨ほしい……と勝手なことを想っていたら、1月5日に今年初めて雨らしい雨が降り、7日と8日に、それぞれその日の雨が今年一番の本格的な雨となりました。8日(月)に始まった新年度に影響を被る学校も出たと思いきや、9日(火)、ドカ~ンと大雨が降ってしまいました。

1月9日午後2時ごろから降り出した雨は降り出しから勢いが強く、すぐに危険な雨だなと予感を抱かせました。1時間ほどで首都の中心部の主要道路は冠水し、2時間たつと交通に障害がでて、一部の住民は危険な浸水状態に陥りました。強い雨は午後5時ごろまで続き、5時半~6時ごろでようやく小康状態になり、そして止みました。このわずか3時間のあいだで避難を余儀なくされた住民がでたのです。

浸水によって首都機能のうけた障害の例として、裁判所で裁判ができなくなったり、公共放送RTTL(ラジオTV東チモール局)がニュース放映に支障をきたしたりしたことなどがあげられます。

一方、政府の市民擁護局は住民をカイコリという所にある同局建物に避難させました。これまで市民擁護局は自然災害や火事で被災した住民に救援物資を配る活動をするというイメージがありましたが、今回は住民を抱きかかえて救助活動をする映像が流され、そのイメージが変わりました。報道によれば9日に市民擁護局に避難したのは132人とのことです。おそらく実際はもっと多数の住民が避難を必要とされたことでしょう。また今回の避難民は川の氾濫から逃れたのではなく、首都の町に迫る山の斜面による流水に影響をうけた住民であるようです。

東チモールの市民擁護局に避難した人びとの様子と能登半島の地震による避難住民の様子が重なります。しかし両者には大きな違いがあります。東チモールの場合、避難者のうち子ども・若い人たちが多数(132人のうち17歳未満が76人)を占めるのにたいし、日本は高齢者が多数を占めているという点です。

あっという間に冠水した幹線道路。

ホテルチモール前にて2024年1月9日午後5時ごろ。

ⒸAoyama Morito.

 

与党民主党の幹部が有罪判決

民主党幹部のアントニオ=ダ=コンセイサン(通称〝カロハン〟)は通商産業大臣に在任中(2012年~2015年)、法律で禁止されている経済活動に参加したとして起訴され審議されていた裁判で、1月8日、5年の実刑が言い渡されました。

アントニオ=ダ=コンセイサン=カロハン通商産業大臣(当時)は、2015年7月30日、ボボナロ地方のアタバエという所でおこなわれる塩事業をウーゴ アモール(Hugo Amor)社に発注しました。カロハン通商産業大臣と通商産業省の当時の顧問・アポリナリオ=ドス=サントス=アスンサンとウーゴ アモール社のドミンゴス=ゴウベイア社長の3人は、民主党創設時からの仲間でした。2015年8月、塩事業者は通商産業省に35万ドルを事業費として要求し、この要求額はほぼ受け入れられ、2015年11月、財務省から塩事業者へ二度に分けて合計30万3489ドル80セントが支払われました。ところが受け取られた金額の領収証二枚の合計は28万8009ドル42セントでした。また他の地方における塩事業でウーゴ アモール社は塩倉庫建設代として3937ドル72セントに変更するなど数々の余計な要求をして、合計1万7587ドル72セントの損害を国に与え、会社側は不正な利益を得て、通商産業省の大臣と顧問がこれに関わったというのがこの汚職事件のあらましです(新聞『東チモールの声』、2024年1月9日を参考にした)。

1月8日の判決において、不正な経済活動に参加した罪で元通商産業大臣のアントニオ=ダ=コンセイサン=カロハン被告に5年の禁錮刑、通商産業省の元顧問・アポリナリオ=ドス=サントス=アスンサン被告に4年の禁錮刑がそれぞれ言い渡され、ウーゴ アモール社の社主ドミンゴス=ゴウベイア被告は有罪にはなりませんでしたが、国へ1万7587ドル72セントの賠償金支払いを命じられたのです。

なぜ大統領は被告を大使に任命したのか

アントニオ=コンセイサン=カロハンは現在CNRT(東チモール再建国民会議)と連立を組む与党・民主党の幹部です。またかつてはPLP(大衆解放党)の支援を受けて大統領選挙に立候補した人物です(東チモールだより 第343号)。さらに去年の12月12日、ジョゼ=ラモス=オルタ大統領から新任大使として任命をうけた6人のうちの一人です。カロハンの赴任先はインドネシアです。駐インドネシアの東チモール大使となった人物が5年の実刑をうけてしまったという異常事態を引き起こしたのはジョゼ=ラモス=オルタ大統領です。2023年10月、4年の禁錮刑を検察側から求刑され判決を待つ状態であったアントニオ=コンセイサン=カロハン被告を、なぜラモス=オルタ大統領は判決が下る前にインドネシアの東チモール大使に任命したのでしょうか。そもそもの大きな疑問です。あるいはラモス=オルタ大統領はただシャナナ=グズマン首相の要求を呑んだだけなのでしょうか……?

ところで去年10月、ラモス=オルタ大統領は息子のロロ=オルタを東チモール経済にとって最重要国である中国の東チモール大使に就任させました。なるほど、ラモス=オルタとシャナナ=グズマンの間にはこうした合意があってラモス=オルタはシャナナ=グズマンの唯々諾々の大統領になることを受け入れたのかなぁと下衆の勘繰りをしたい衝動にかられます。

インドネシアの東チモール大使となったアントニオ=コンセイサン=カロハンは国の要人であり模範的人物であらねばならないのに実刑をうけてしまったという事態は東チモールの信頼を失墜させた、これはラモス=オルタ大統領が引き起こした事態だと法律家から非難されています。しかし5年の実刑はあくまでも第一審の判決です。被告側が控訴すれば第二審の裁判が行われることになり、カロハンの有罪が確定したわけではありません。あるいは、司法改革を声高に訴えているシャナナ首相が何かウルトラCを用意しているのかもしれません。

それにしても政府要人であった被告二人に5年と4年の実刑とは厳しい判決です。東チモールの裁判のように日本の裁判も裏金づくりに精を出している政治家たちを容赦なく厳罰に処してほしいと夢想するのはわたしだけでしょうか。

 

青山森人の東チモールだより  509号(2024114日)より

e-mail: aoyamamorito@yahoo.com

〈記事出典コード〉サイトちきゅう座  https://chikyuza.net/
opinion13493240116