青山森人の東チモールだより 第350号(2017年8月3日)
シャナナ、フレテリンの呼びかけに応じるか
またしてもシャナナ連立政権下の汚職疑惑で有罪が確定
8月1日、控訴裁判所は、AMP(国会多数派連盟、第一期シャナナ連立政権、2007~2012年)で公共事業省の長官と調整官を務めた二人に、ボボナロ地方自治体の道路建設をめぐる汚職にたいし、3年半の禁錮刑の実刑に加え、長官には200ドルを、調整官には150ドルの罰金刑をそれぞれ言い渡しました。またしてもシャナナ連立政権での政府高官による汚職疑惑に有罪判決で決着がついたのです。
ところで7月26日にベコラ刑務所に収監されたジョアン=カンシオ=フレイタス元教育大臣ですが、ベコラ刑務所の収容能力が限界にきているという理由で、その日の午後、エルメラ地方自治体のグレノ刑務所に移送されました。南半球に位置する東チモールはいま、猛暑が続く日本よりはるかに涼しくすごしやすい季節を迎えていますが、雨季に入れば首都はジメジメと暑くなります。標高の高いエルメラにある刑務所の方が少しはすごしやすいことでしょう。
「首相率いる党」という表現について
7月24日朝、東チモール議会選挙の途中結果を報じるNHKラジオのニュースで、「デ・アラウジョ首相のフレティリン」という表現がされました。また、共同通信の記事では「首相率いる党が第1党勝利宣言 東ティモール総選挙」(『東京新聞』(2017年7月24日)という見出しが出ました。どちらも違和感を抱かせる表現です。
ルイ=マリア=デ=アラウジョ首相はフレテリンの幹部ではあるが党を率いる人物とはいえず、「デ・アラウジョ首相が属するフレティリン」ならわかりますが、「デ・アラウジョ首相のフレティリン」とか「首相率いる党」という表現はフレテリン党内事情や東チモール政界の実情を反映していないと思います。党フレテリンを率いているのはマリ=アルカテリ書記長です。このたびのフレテリンの比例選挙名簿でもデ=アラウジョ首相の名前が第7番目に登場することからもこのことがわかります。
「首相」ということから「首相のフレティリン」「首相率いる党」という表現を機械的に使ったとしたら記者たちの怠慢です。どのような経緯でルイ=マリア=デ=アラウジョ氏が首相になったのか、あるいはデ=アラウジョ首相の政治活動を普通に検証すればわかることです。なかなか報道する機会が与えられないであろう東チモールでしょうから、総選挙によってせっかくニュース対象となった機会を最大限有効に活用するという記者根性を見せてほしいものです。東チモールを第二次世界大戦中の3年半占領した日本の責任を放置して、従軍慰安婦の名誉回復をしようとしない安倍政権を追及すればなおよいのですが……。
フレテリン本部前の看板。ル=オロ党首(左)とマリ=アルカテリ書記長(右)の顔がまさに党の看板である。デ=アラウジョ首相の顔が片隅にもない。日本の新聞記者のみなさん、「首相率いる党」とはとてもいえないのですよ。2017年8月1日。ⒸAoyama Morito
最終結果が発表される
CNE(国家選挙委員会)は7月29日(土)、議会選挙の集計結果を控訴裁判所へ引き渡しました。結果を引き渡された控訴裁判所は、8月1日、最終結果を発表しました。発表内容はこれまでCNEが公表してきた結果どおりです(前号の「東チモールだより」参照)。これによって議会選挙結果に法的根拠が与えられ、正式なものとなりました。
ところで控訴裁判所長はデオリンド=ドス=サントス氏のままです。今年の4月、当時のタウル=マタン=ルアク大統領が当時の控訴裁判所長の健康問題による辞職にもとなって、早急にデオリンド=ドス=サントス氏を新所長に任命したところ、政府与党からあまりにも早い任命に疑問の声が上がり、しまいにはこの任命にたいし不支持をするという国会決議まで採りました。任命権があるのは大統領です。5月に就任したル=オロ新大統領はこの件にたいし何かするのだろうかとわたしは注目していましたが、どうもせず、タウル前大統領が任命した控訴裁判所長はそのまま職に定着しています。
野党にまわらないであろうシャナナ
正式な選挙が控訴裁判所から出たので、1議席の差とはいえ、23議席を獲得したフレテリン(FRETILIN、東チモール独立革命戦線)の第1党という立場が正式となり、22議席を獲得したCNRT(東チモール再建国民会議)は2番目に甘んじることになりました。
いまフレテリンを中心とする連立政権が樹立される流れになっています。8議席獲得の第三党・PLP(大衆解放党)は野党になる姿勢を変える兆しはありません。7議席の民主党、5議席のKHUNTO(チモール国民統一強化)は連立政権からの誘いがあれば応じると報じられています。
水面下でおこなわれている多数派工作は、PLP党首のタウル=マタン=ルアク前大統領を巻き込めそうもないので、シャナナCNRT党首がフレテリン連立政権に参加協力するか否かに焦点が定まっています。
シャナナ党首だけがほしいというニュアンスを感じさせるフレテリンのマリ=アルカテリ書記長の言い方に、CNRT幹部は、党CNRTとシャナナCNRT党首とは切り離せないと反発しています。フレテリンにとって正直なところ、党CNRTはどうでもよくシャナナCNRT党首が重要であることは前にも述べましたが、おそらく他でもないシャナナ党首自身がそう考えているのではないでしょうか。
シャナナCNRT党首の動向が注目されていますが、シャナナ党首はメディアの前に登場していません。選挙結果をうけてマスコミの前で発言しないところが、シャナナらしい“奇行”のようにわたしには思えます。民衆に自分の意見を伝えることもどうでもよいと考えるようになったら、いよいよお仕舞いです。
ジョゼ=ラモス=オルタ元大統領は、「CNRTが野党になることはないだろう。なぜなら指導者シャナナ=グズマンは2011年から2030年にかけて国を発展させるという大きな夢と動機を抱いており、そのことを前進させたいからだ」と語っています(『東チモールの声』、2017年7月31日、下の写真)。「2011年から2030年にかけて」というのはもちろん南岸地域の大規模開発「タシマネ計画」を目玉とする「戦略開発計画」のことを意味します。ラモス=オルタ元大統領は、シャナナ=グズマン氏の目標…というよりは人格を言い当てていると思います。過去10年間進めてきた大規模事業を進めるのがシャナナ=グズマン氏のいまの人生そのものといえるでしょう。
「CNRTが野党になるのはありえない」。「東チモールの声」(2017年7月31日)より。この場合のCNRTとはシャナナCNRT党首のことを意味する。
したがってシャナナCNRT党首が、フレテリンから政権参加の呼び掛けがあるにもかかわらず、野党の席に着くことはありえないことで、シャナナ党首が政権に参加するのは、どのような地位に就くこととは別にして、間違いないことでしょう。そしておそらくシャナナ党首は首相という地位には興味がなく、背後から大きな権限をふるえる立場を望むことでしょう。水面下の交渉では、シャナナ党首がフレテリンと妥協して手にできる権限の範囲、連立政権の枠組み、どの政党を政権に招き入れるか……などなどが話し合われているものと推察されます。
~次号へ続く~
青山森人 e-mail: aoyamamorito@yahoo.com
〈記事出典コード〉サイトちきゅう座 http://www.chikyuza.net/
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