青山森人の東チモールだより 第349号(2017年7月29日)
政権を担うのはフレテリンかCNRTか
上位5政党の選挙結果
7月28日朝6時の時点で、全843ヶ所の投票センターでの集計が済んでいることから、事実上の選挙結果が出たといって差し支えないでしょう。CNE(国家選挙委員会)が時々刻々と重ねていく票集計を示すサイト(www.cne.tl)によれば、登録有権者総数は76万0907人、投票者数が58万3956人で投票率は76.64%で、議席を獲得する上位5政党の獲得票・獲得議席数などは次のようになっています。
フレテリン—16万8480票 (29.7%) —23議席
CNRT———-16万7345票 (29.5%) —22議席
PLP————-6万0098票 (10.6%)——-8議席
民主党———-5万5608票 (9.8%) ——–7議席
KHUNTO—–3万6547票 (6.4%) ——–5議席
(*)
フレテリン:FRETILIN=東チモール独立革命戦線
CNRT:東チモール再建国民会議
PLP:大衆解放党
KHUNTO:チモール国民統一強化
フレテリンの選挙用大型看板(左)。白髪の男性がマリ=アリカテリ書記長。写真の右奥に選挙結果を出しているCNE(国家選挙委員会)の建物があり、そこにつながる道路は通行止めにされ警察が警備にあたっている。 2017年7月26日。CAoyama Morito
海外での票の行方は
各地方自治体(政府は「地方」から「地方自治体」という名称に変更、「東チモールだより第337号」を参照)と海外で獲得した票数も細かく上記のこのサイトで見ることができます。これによると海外での有効投票数は千票あまりですが、一位フレテリンと二位CNRTの票差がわずか1135票であることを思えば、海外票の行方も相当に重要といえます。上位5政党による海外での獲得票数を見てみましょう。
【オーストラリア】
フレテリン—160
CNRT———–86
PLP ———–150
民主党———-11
KHUNTO——4
【韓国】
フレテリン—35
CNRT———52
PLP — ——-30
民主党 ——–7
KHUNTO—23
【ポルトガル】
フレテリン—124
CNRT———–48
PLP ————55
民主党———22
KHUNTO——2
【イギリス】
フレテリン—26
CNRT———32
PLP ———-20
民主党 ——–2
KHUNTO—-0
開発現場での票の行方は
ところで大規模事業・ZEESM(オイクシの経済特区)が進められる飛び地オイクシの選挙結果はどうだったでしょうか。ZEESMの最高責任者はフレテリンのマリ=アルカテリ書記長です。大統領選挙ではオイクシでのフレテリンの票が伸び悩んだ事実から、住民はZEESMを快く思っていないのではないか、少なくとも恩恵にあまりあずかっていないのではないかと推察することができました。大統領時代にZEESM事業を厳しく批判したタウル=マタン=ルアクPLP党首は、オイクシでは勝てると楽観視をし、PLPが政権につけばZEESMのマリ=アルカテリ最高責任者を解任させたいとも発言したと報道されていました。飛び地オイクシの選挙結果は以下のとおりです。
【オイクシ】(RAEOA:オイクシ/アンベノ特別地域)
フレテリン—14055
CNRT———10490
PLP ————2335
民主党 ——–2859
KHUNTO—-1271
開発推進側であるフレテリン・CNRTが反対側であるPLPを圧倒しました。これをもってして開発が住民に受け入れられていると限らないし、大金が渦巻く公共事業に住民の意思が選挙で反映させることが東チモールでも容易でないことをうかがい知ることができます。
次に、大規模開発の代表的存在である「タシマネ計画」(南部沿岸地方の開発計画、チモール海の天然ガス田からパイプラインがひかれることを前提に進められる大規模事業なので非現実的と批判されている)の対象地となっているコバリマ地方自治体を見てみましょう。「タシマネ計画」の中心地の一つとなるスアイがコバリマ地方自治体に含まれています。そして「タシマネ計画」の一環であるスアイ国際空港が選挙運動の始まった6月20日に完成し、落成式典が催されました。この空港が国際空港となることを夢見る「タシマネ計画」の責任者であるシャナナ=グズマン計画戦略投資相の熱き思いを反映して、「カイ=ララ=シャナナ=グズマン国際空港」と名付けられています。
貧しい住民を置き去りにした大規模事業を批判するPLPが、事業を推進するCNRTへの批判票をどれだけ獲得することができたでしょうか。
【コバリマ】
フレテリン—-7141
CNRT———-9172
PLP ————1974
民主党 ——–7353
KHUNTO—-3705
ここでもPLPは期待するだけの票は得られなかったといえるかもしれませんが、CNRTにしてみても、そうかもしれません。
見せかけだったCNRTとフレテリンの蜜月状態
わずか1135票差による1議席の違いとはいえ、1位か2位かで政治的な意味に大差が生じます。前号の「東チモールだより」でも書きましたが、2015年からなぜかフレテリンと蜜月状態にあったシャナナCNRT党首がなぜかいまフレテリンとは組みたくないらしく、かといってCNRTが第一党のフレテリン以外の政党と組んで発足させたAMP(国会多数派連盟)を蘇らせようとすれば、2006年に「危機」が勃発した翌年2007年の選挙のときと政治状況が違う今、フレテリン支持者でない人びとからも第二のAMPは受け入れられないと反発されることが予想されます。
せめてCNRTが第一党ならば、堂々と連立の組み方を主導できるでしょうが、わずか千票あまりの差によってそれができないCNRTは泣いていることでしょう。CNRTは大金を注ぎ込んだといわれ、それを勘定に入れると、まさに泣きっ面にハチかもしれません。
それにしてもシャナナ=グズマンCNRT党首がこれまでどおりフレテリンと組もうとしないのはなぜでしょうか。2015年2月にシャナナ首相は辞任し、首相や外相など重要な閣僚地位をフレテリンに分け与えたのは一体なんだったのでしょうか。いきなり梯子をはずされようとしているフレテリンのマリ=アルカテリ書記長にむしろ同情したくなってしまいます。
フレテリンを内閣に招き入れたのは、うるさい野党を丸め込んでより大きな権力を得たいシャナナ前首相の戦略といわれています。このことは容易に理解できます。しかし、いまシャナナ党首がフレテリンと組みたくないというのはなかなか腑に落ちません。蜜月状態といわれたCNRTとフレテリンの仲はあくまでも表面的なことで、実情ではフレテリンはあまりシャナナCNRT党首の期待に応じなかったのかもしれません。
シャナナCNRT党首にとって権力を保持し、そして拡大することが基本路線であり、過半数をとれなかったら野党にまわるというのは心にもない発言といえます。フレテリンのマリ=アルカリ書記長にしてみれば、シャナナ=グズマンは一緒にいてくれれば自分たちの政権安定のためになる利用価値の高い人物なのです。フレテリンにとって問題なのはシャナナCNRT党首であって、党CNRTはどうでもよいのです。
第7次立憲政府樹立までまだ時間がある
かくのごとき政治的駆け引きは古今東西よくある普通のこと、なにも特別なことではありません。ただし、東チモールの置かれている状況としてわたしたちがよく憶えておかなければならないのは、外国(日本を含め)の侵略・占領による傷が癒えていない国であること、そしてこのままの大規模開発路線を続ければ頼みの綱である「石油基金」が枯れて経済破綻が起きてしまう国であることです。このことを踏まえて政治指導者たちが選挙後の多数派工作にいそしんでいるのならまだしも、プチブルジョワ根性で国民不在の多数派工作にいそしんでいるとしたら、東チモールの政治は衰えてしまうことでしょう。
いま水面下では前大統領のタウル=マタン=ルアクPLP党首を連立政権の顔にしようとする説得工作が続けられている模様です。しかしタウル=マタン=ルアク党首は、PLPは建設的・道理的そして教育的な野党になると明言しています。タウル=マタン=ルアクPLP党首の毅然とした態度が貫かれれば、東チモール政治の前途に少しは光明を見出すことができるでしょう。選挙の正式最終結果が発表されるまでまだ1週間以上の時間があります。はたしてどのような政府が樹立されることでしょうか。
「女性の投票には価値がある」。首都の街角でみつけた選挙ポスター。2017年7月27日。CAoyama Morito
~次号へ続く~
青山森人 e-mail: aoyamamorito@yahoo.com
〈記事出典コード〉サイトちきゅう座 http://www.chikyuza.net/
〔opinion6839:170730〕