今年ももうこの季節か
11月に入るやいなや、首都デリ(ディリ、Dili)の雑貨屋や衣料品店など各種店々は、入り口にクリスマスツリーを立てるなどしてクリスマス商戦の準備を始めました。顧客の財布を緩めようとするクリスマスの雰囲気が徐々に醸し出されている今日このごろです。
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2024年11月16日、政府庁舎前の広場。
ⒸAoyama Morito.
政府庁舎前にも巨大なクリスマスツリーが設置された。
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政府庁舎前の広場にも人工的なクリスマスツリーが二体、立てられました。このくそ暑いさなか、クリスマスとはこれ如何に、という想いを捨てきれないのは北半球中緯度地方出身者の悲しいさがでしょうか。
2025年度国家予算は約26億ドル
さて、三月末が年度末となる日本とは違い、東チモールではクリスマス・年末商戦が始まらんとするこの時期が同時に年度末でもあることから、来年度の国家予算案の審議が国会で交わされる時期でもあります。
来年度つまり2025年度の国家予算の国会審議が11月6日から始まりました。発表された国会審議の日程表にはこうあります。
・10月21日~25日……公聴会
・11月6日~8日……予算一般審議
・11月11日~22日……詳細審議
・11月25日……最終投票
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2024年10月31日、ⒸAoyama Morito.
政府庁舎の柵に掲げられていた横断幕。
2025年度の国家予算の国会審議日程が提示されている。
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予算の一般審議でまず決が採られ、詳細審議では各省庁の項目ごとの予算について審議され各項目ごとに採決されます。そして最後に予算案全体について賛成か、反対か、棄権か、最終判断を国会議員にしてもらう最終投票が行われます。
結論からいいますと、11月25日に採決されると日程表に記述されている最終投票は11月20日に早くも行われ、2025年度国家予算案が可決されました。その総額は26億1700万ドルです。国会内分科会で予算案は微調整され、国会から大統領府に国家予算案が提出されました。ラモス=オルタ大統領がシャナナ=グズマン政権の国家予算案に拒否権を発動する理由は何一つありません。11月25日、ラモス=オルタ大統領はあっさりと2025年度国家予算案を発布しました。
野党二党の23議席が反対に回る
それにしても日程表に最終投票は11月25日にされると記述されているのに20日にされるとはどういうことでしょう?予算の国会審議では行政にたいする民衆の不満を野党が政府にぶつけて、与野党の議員が口角沫を飛ばし論争します。連日の激論に議員はもう疲れてしまい25日を待たずに最終決議に至ったのでしょうか? この質問をわたしは11月21日、タウル=マタン=ルアク(前首相、野党PLP[大衆解放党]の代表)にしました。タウル前首相によると、何らかの理由で審議が延びたばあい遅くても最終投票は11月25日にされるのであり、普通に延びても11月23日に最終投票されるはずであった、とのことでした(なお23日は土曜日であり、政府のホームページには11日からの詳細審議から最終投票までの審議日数は10日間まで、とあるので22日が正しいのではないかと思われる)。
11月20日になされた最終投票の結果は、賛成42、反対23、棄権ゼロ、でした。賛成票は、与党であるCNRT(東チモール再建国民会議)の31票と民主党の6票に加え、野党KHUNTO(チモール人国民団結美しき豊穣)の5票を集めた票数です。反対の23票は、野党フレテリン(東チモール独立革命戦線)の19票と野党PLPの4票を併せた票数です。
野党KHUNTOが加勢しなくても、与党二党だけで十分に全65席の過半数に達するので政府案は国会を通過することは明白でした。しかし、どうせ多数決だから結果は分かりきっているだろうと日本の軽視される国会討論とは違い、東チモールでは野党にとって国会の壇上に座る首相・閣僚・長官たちにここぞとばかり民の声を代弁して批判と非難を浴びせる絶好の機会となっている国会は熱気を帯びます。ときには国会議長の制止がきかないほどに過熱します。日本のように閣僚や議員が居眠りできるような国会ではありません。日本人として東チモールの活気ある国会風景はうらやましいかぎりです。
ところで最終投票がされる前に、予算一般審議と項目別の詳細審議ごとに数々の決が採られました。賛成が常に42票あるのは与党二党とKHUNTOの合計票として理解できます。わたしが不思議に感じたのは、野党の非賛成票が野党二党(フレテリンとPLP)の合計票23に達しないことがあることです。たとえば11月8日に予算一般採決では、賛成42、反対ゼロ、棄権22、でした。また農林家畜水産省への予算案採決が11月15日にされたとき、賛成42、反対9、棄権12、でした。9+12は21で、フレテリンとPLPを合計した23になりません。さらにまた11月18日、社会連帯包括省への予算案採決では、賛成43、反対19、棄権1、とフレテリンとPLPの誰か一人が賛成に回り、誰か二人が欠席という場合もありました。
このことについてもわたしはタウル=マタン=ルアク前首相に質問しました。なぜ野党の23票がまとまらないのか、一致団結して棄権するなら棄権票23と何故ならないのか、と。前首相の答えはこうです―――与党は予算案をなんとしてでも国会通過させるために団結するが、野党側はそれほど団結して統一した票を投じる必要がない。野党から一人や二人が採決するときに国会から外へ退場する議員がいる。票を投じるとなると、賛成・反対・棄権のどれかを選ばなくてならず、そうしたくない議員は退席するのだ―――。どうやら野党の場合、党の規制が緩やかなようです。
予算審議過程での採決では投票に参加しなかったり、場合によっては賛成票を投じたりする議員がいた野党二党(フレテリンとPLP)ですが、最終投票ではしっかりと全員23人が反対票を投じました。フレテリンとPLPは今後ともCNRTと対峙する姿勢を示したといえます。
注目された論議
とくに白熱した議論は、教師不足と契約教師の問題を抱える教育省、医薬品不足と病院・診療所で亡くなる患者が増えている問題を抱える保健省にたいする予算審議は注目されました。
11月15日、保健省予算の審議では,かねてから問題視されているエリア=ドス=レイス=アマラル保健大臣(東チモールだより 第517号)が壇上に姿を現し質疑応答がされましたが、保健大臣をかばった民主党のマリアノ=アサナミ=サビノ=ロペス副首相(社会調整/農村住居開発大臣を兼任)が、医療部門に政治を持ち込むから医療が問題を抱えるのだといい、野党から非難の集中砲火を浴び、国会は荒れました。国会議長は休憩をとって国会を鎮めようとしましたが、国会議長が席をたっても議員たちの怒号が飛び交いました。
同じ11月15日、教育省予算の審議もされました。医療問題と並行して危惧されている教師不足の問題が取り上げられました。ドゥルセ=デ=ジェスス教育大臣は教師不足の問題は認識しているといい、それをいま解決しようとしていると述べました。野党は、新規に教師を募集しても学校の教師不足は解消されず、学校の環境は改善していないと反発しました。
教える先生のいない科目をかかえている学校の生徒はかわいそうです。なぜ経験ある契約教師たちを即戦力として活用しないのか、わたしは理解に苦しみます。
ドゥルセ=デ=ジェスス教育大臣は元契約教師の法的な解釈について述べましたが、元契約教師の団体代表は大臣の発言について「嘘だ」と反発しています。
野党フレテリンの指導者・マリ=アルカテリは、契約教師たちに抵抗を続けるようにとエールを送っています。
国会でのシャナナの発言にタウル怒る
元契約教師の団体が教育大臣の発言に反発するなど、国会内の閣僚による発言内容が国会の外から反発をうけることはよくあることです。野党フレテリンの実力者・マリ=アルカテリは国会議員ではありませんが最大野党の指導者であることから、その国会外での政府批判はニュースで大きく取り上げられます。
いまや議席数で最小の野党となってしまったPLPのタウル=マタン=ルアク党首(元首相)も国会議員ではありませんが、国家予算の国会審議期間中、国会内の発言に反発した場面がありました。シャナナ=グズマン首相が11月15日にこう述べたのです――2018年の前倒し選挙でわれわれの連立勢力が勝ち政権に就いたが、2019年にCNRTは連立から去った。それはタウル=マタン=ルアク首相が財政問題についてわれわれに耳を傾けようとしなかったからである――。2018年の前倒し選挙でCNRTとPLPそしてKHUNTOの連立政権が誕生しましたが、2019年に行われた翌年度の国家予算審議では最大与党のCNRTが予算案の修正を求めるという行動に出て、修正された予算案が翌年1月に提出され審議されたのですがCNRTはなんと棄権票を投じ、この連立政権は崩壊しました(東チモールだより 第405~409号)。CNRTのシャナナ党首は当時なぜこのような行動をとったのか、一切の説明がありませんでしたが、突然、今になって、「首相がわれわれに耳を傾けようとしなかったから」と言い出したのです。最大与党がこのような理由で連立を去ったというのはおかしな話です。予算案作成時に圧力をかければよいのですから。「連立を去った」というのもおかしな表現です。国会予算審議で棄権票を投じて自らの連立政権を潰したのですから。
タウル=マタン=ルアクはシャナナ=グズマンのこの発言を自分にたいする間違った非難だとして、シャナナは横柄だ、もうシャナナにたいする尊敬の念は消え失せた、と猛反発したのです。これからも自分への間違った非難をするならもう黙ってはいない、非難されてうなだれて身をかがめると尻を見せるだらしない格好になるので、これからはしっかりと反論していくと怒り心頭に発したのです。ただしタウル=マタン=ルアクのこの怒りの表明は大きく報道されず、一部のSNSで少しだけ拡散された程度でした。
体質に変化なしの予算案
さて、ともかく総額約26憶ドルの来年度予算が国会を通過し、大統領によって発布されました。残念ながらこれまで通り石油に大きく依存する体質に何ら変りのない予算編成になっています。
「東チモールだより第479号」でわたしは民間団体「ともに歩む」の資料をもとに、財源の頼みの綱である「石油基金」の残高がゼロになる年を大雑把に予想したところ、2037年の終わりか2038年の初めとなりました。最近の「ともに歩む」の資料を見ると2036年の終わりごろには「石油基金」は底をつくという予想がされています。石油やガスという安易な財源だけに目と心を奪われて体質改善をしなければ、もうすぐ東チモールはたいへんなことになってしまいます。
青山森人の東チモールだより 第523号(2024年11月26日)より
e-mail: aoyamamorito@yahoo.com
〈記事出典コード〉サイトちきゅう座 https://chikyuza.net/
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