韓国の社会派娯楽映画の傑作――『モガディシュ 脱出までの14日間』

 せっかくの連休なので久しぶりに映画館で映画を観る。当初、観るつもりだった映画がすべて午前とか夜しかやっておらず、消去法で、韓国映画『モガディシュ 脱出までの14日間』を観ることにした。事前知識ゼロ。韓国映画だから、そんなに駄作はないだろうという判断基準だったが、結果的には大正解だった。
https://mogadishu-movie.com/
 舞台は1991年のソマリアの首都「モガディシュ」。ソマリアで内戦が本格化する年だ。当時、韓国はまだ国連に加盟しておらず、1988年のソウルオリンピックを経て国連加入に向けて外交攻勢を強めていた。
 しかし、北朝鮮も以前からアフリカ外交を展開しており、両国はソマリアでもお互いに足を引っ張りあい、けん制し合い、激しい外交戦を繰り広げていた。そんな時、反政府デモが武装蜂起に発展し、反乱軍は首都モガディシュにまで侵攻する。ソマリア政府を支援してきた各国大使館は攻撃と略奪の対象になり、北朝鮮の大使館も反乱軍によって占領され、大使とその家族(幼い子供たちを含む)、大使館員は武装勢力がひしめく街頭に着の身着のままで放り出される。
すぐにどこかに避難しないと、全員が略奪と殺戮の対象とされる。やむなく、北朝鮮の大使たちは、政府軍の兵士によって守られていた韓国大使館に逃げ込むことにする。ほんの昨日までお互いに激しく対立しあっていた両者間の反発と反目はそう簡単には克服されない。しかし、事態はいっそう深刻化する。韓国大使館を守っていた政府軍兵士たちがさっさと見捨てて出ていったのだ。
 ただちに国外に退去しなければ全員の命が危ない。反目しあっていた南北大使と大使館員たちは、お互いに協力し合って国外脱出を試みる。「目標はただ一つ。全員が生きてこの国を出ることだ」と韓国大使は宣言する。
 ここから手に汗握る脱出劇が展開されるのだが、その過程はハリウッド映画を凌駕する迫力である。政府が全面的にバックアップして作られている韓国映画は、質的に世界トップクラスである。ハリウッド的な娯楽要素を十分に持ちながら、ハリウッド映画にはない深い社会的メッセージが込められている。
ソマリアの内戦と南北朝鮮の対立とが二重写しになってストーリーは展開するが、そこに込められたメッセージは、朝鮮半島は、再びソマリアのような道を歩むのか、それともお互いに助け合った南北大使館員たちのような道を歩むのかということだろう。
 けっして楽天的なものではないラストも非常に印象的だが、それを語るとネタバレになるので、語らないようにしよう。最後に、ストーリーは基本的に史実に基づいている。

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