前回⇨330の続きです。
本日発売のシュピーゲル誌のインタヴューで、文韓国大統領府の鄭義溶(チョン・ウイヨン)国家安保室長が、北朝鮮核問題に⇨仲介の意思を表明したメルケル首相に「非常に感謝している」と述べています。
鄭氏は文大統領の外交ブレーン中枢で 元ジュネーブ代表部大使であった外交官です。
この閣僚級の人物の発言は重要なので、一部(下記写真の約三分の一)を訳出しておきます。
見出しは「私たちは首相に大変感謝しています」です。
Der Spiegel Nr.38-16.9.2017 S.92 |
シュピーゲル:アンゲラ・メルケル連邦首相が、北朝鮮との危機で仲介の申し出をしましたが、果たして役立つでしょうか?
鄭:私たちは私たちを援助したいと望むメルケル首相に非常に感謝しています。私たちは提案を歓迎します。この朝鮮半島の危機はグローバルな意味のある懸案です。ドイツはすでにイランとの核問題協定の話し合いに積極的な役割を果たしました。
シュピーゲル:この協定はモデルになり得るでしょうか?
鄭:この両方の事例は簡単に比較することはできません。しかし私たちは、イランと交渉で得られた経験から学ぶことができます。
シュピーゲル:交渉まで行き着くことにあなたはどれだけ確信をお持ちですか?
鄭:私は、北朝鮮が核実験とロケット発射を停止しない限り、 私たちは交渉を始めることはできないと考えています。
(以上訳責:梶村)
前回の読者のコメントで触れましたが、一昨日の9月14日に行われた記者会見で、私は専門家にこの件を質問しています。上記位の鄭氏の考えと共通する内容で、なぜドイツが仲介役にふさわしいのかについて、その背景を知るために要旨を挙げておきましょう。
これはドイツ外国人特派員協会がドイツの次期政権の外交課題について、民間のシンクタンクである⇨ドイツ外交政策協会(DGAP)の研究者二人を招いて行われた会見です。
Dr.Christian Mölling (Mitte)Berlin 14.9.2017 Foto:T.Kajimura |
梶村:北朝鮮核問題でメルケル首相は仲介意思を表明したが、それをどう評価しますか?
DGAP研究副主任⇨クリスチアン・メリング博士:
メルケル首相の提案は真剣な(ernst)ものです。ただ、イランとの交渉の経験でもわかりますが、まずは北朝鮮の核開発での地位が現状(status quo)として固まるまで待たねばならない。そうなって初めて仲介に向けた交渉は始めることができます。
梶村:ではなぜ仲介の役割をするについて、例えばフランスでなくドイツとなるのでしょうか?
メリング博士:これに関しては、ドイツには三つの有利な特徴があります。
1)ドイツは核兵器を保持していない非核国家です。
2)南北コレアと同じように国の分断を体験しています。
3)その間もドイツには長く核軍縮政策を続けた伝統があります。
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北朝鮮は先日の水爆実験と、昨日のグアム島まで届く弾道弾実験の成功で、かなり彼らの目的を達して満足感を示し始めています。すなわち政治力学での地位の現状が固まり、交渉開始の打診が行える最初の機会が近づいていると判断できるかもしれません。
ドイツ外務省の水面下での動きが気になるところです。
そんな時、今日の聯合ニュースの報道によれば韓国の文大統領は安倍首相との電話会談で、⇨北への人道支援の趣旨説明をしたとのことです。
文在寅大統領と安倍晋三首相が電話会談を行った。安倍氏と電話で協議する文大統領(左、青瓦台提供)と安倍首相(右、資料写真)=15日、ソウル(聯合ニュース) |
それによれば:
会談で安倍首相は人道支援の時期を考慮するよう要請。これに対し文大統領は「この問題は国連世界食糧計画(WFP)と国連児童基金(ユニセフ)が北の乳幼児や妊婦に対する事業支援を要請してきて検討することになったもの」と説明。「原則的に乳幼児と妊婦への支援は政治的な状況と関係なく扱わなければならない事案と考えている」と強調した。
とのことです。
この安倍晋三は北朝鮮制裁のためには、民主主義政治の最も基本的で普遍的な義務でもある乳幼児や妊婦への国連の人道支援も遅らせるのが当然であると文大統領に要請したとのことです。
安倍氏は、大変な危機の時であるからこそ、このような支援をすることも話し合いと交渉への糸口の一つになることが理解できないのでしょう。
こんな人物が日本の首相とは。全くもっての恥ですね。隣国北朝鮮の弱者を無視することが、いずれは自国民を無視することにつながることが理解できない。日本の近代史から何一つとして学んだことがない首相の哀れな歴史観と人道感覚。電話で話す文大統領の気持ちなど全く理解できないでしょう。
こうして国家が没落していくのです。情けない限りです。日本は二度目ですね。
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ところで、余談ですが、以上を書いていてふと思い出したことがあります。
上記のシンクタンクDGAPはベルリンの動物園に近い古い建物にあるのですが、ベルリンの壁が崩壊して20周年になる2019年11月に、壁崩壊で始まった欧州同盟の拡大を回顧し、また将来をどう考えるかについて、ドイツのヴァイツゼッッカー元大統領とチェコのハーヴェル元大統領がこの研究所で対談したことがあります。
1989年の壁崩壊のチェコの民主化に際して、この両者の友情と信頼の絆が東西欧州統一に大きな貢献をしたことは、今や歴史の一コマです。
この対談は⇨「私たちはまだ模索の途上だ」と題されて記録されています。欧州の大政治家の視野の広さがよくわかります。
私も傍聴したのですが、20年後のこの二人の友情と信頼がどのようなものかを目の当たりにしたものです。
この欧州統一で大きな役割を果たした二人の大統領のどちらもすでに故人となりました。その時の写真がありますのでご覧ください。左はヴァイツゼッカー夫人です。
Weizsäcker,Havel Berlin DGAP 1.Okt.2009 Foto:T.Kajimura |
初出:「明日うらしま」2017.09.17より許可を得て転載
http://tkajimura.blogspot.jp/2017/09/blog-post_17.html
〈記事出典コード〉サイトちきゅう座 https://chikyuza.net/
〔opinion6952:170917〕