韓国海難事故に因んで

本年4月16日に韓国の大型旅客船「セウォル」が、全羅南道珍島郡観梅島(クヮンメド)沖海上で転覆・沈没した事故では、当該旅客船自体の構造が有する問題点に始まり、航行上の重大な過失、船長を始めとする船員の無責任と判断の齟齬等が重なり救えるはずの人命をも救えず、更に、海難事故後の関係当局が何重にも犯した過失と怠慢と無責任が被害を拡大し、冷静に非常事態に対すべき政権に在る大統領以下の高官も数々の誤りを犯した、と思えます。

それらの事実は、完結に纏められたWikipediaに依り、報道を確認するだけでも呆気にとられるほどであり、他国のことではありますが、短い一生を終えた高校生たちの無念が偲ばれ、涙と慨嘆無しにはおられません。

http://ja.wikipedia.org/wiki/2014%E5%B9%B4%E9%9F%93%E5%9B%BD%E3%83%95%E3%82%A7%E3%83%AA%E3%83%BC%E8%BB%A2%E8%A6%86%E4%BA%8B%E6%95%85

2014年韓国フェリー転覆事故 Wikipedia

 

残念であったのは、事故後の早い段階で、他国からは、援助の申し出があったのに、その多くを韓国は受け入れなかったことです。 日本の援助申し出は、拒否されたのです。

「讀売新聞」4月18日の報道(現在では、記事リンクは抹消)によると、

安倍首相は4月17日、韓国朴大統領に対し、「日本は韓国にお悔やみとお見舞いの意を表明するとともに、日本が韓国に必要な援助を提供したい」と伝えた、とのことですが、菅義偉官房長官は17日の記者会見で、16日に海上保安庁は韓国海上警察庁に、捜索援助の申し出を打診したが、韓国側は、謝意を述べたものの、援助は受け入れなかった、とのことです。

日本も戦後間もなくの時期には、重大な海難事故が相次ぎ、爾後、安全対策に努めて来た経過があり、「海難の現況と対策について(平成 24 年版)」(海上保安庁)に依れば、平成 24 年の要救助海難に対する全体の救助率は 96%となっていて、海上保安庁の掲げた目標(平成 27 年までに 95%以上)を達成することができています。

海保の航空基地には、常時、緊急出動体制が組まれ、海難事故があれば航空機で救助可能な隊が編成されていて、更に、第三管区海上保安本部羽田特殊救難基地にあっては、特殊技能を有する選抜された隊員からなる隊が、常時、待機しています。 勿論、大型巡視船には、潜水士が所属しています。

これ等の隊が援助に出動していれば、と悔やまれてなりません。

 

http://nettv.gov-online.go.jp/prg/prg1439.html

海上保安庁 特殊救難隊 政府インターネットテレビ

http://www.j-cast.com/2014/04/18202615.html?p=all

旅客船沈没、日本の支援申し出を韓国辞退 「人命より反日なのか」とネット反発 J-CASTニュース 2014/4/18 18:12

 

さて、今回の海難事故での数々の齟齬の中でも、事故後の早い段階で、朴槿恵大統領が当該の事故について「殺人に等しい」と船長らを非難した、との報道に接した折には、異様な感慨を持ったものです。

云うまでも無く、現代の法治国家では、如何なる罪を犯した者であっても、法に定めた刑事手続に依らねば逮捕・勾留等は出来ず、ましてや、法に定めた刑事訴訟手続に依り有罪にならない限りは、無罪と推定されるのであり、事故後の早い段階で、殺人等と呼ばわるのは、政権にある者が口にすべきことではありません。

 

http://www.huffingtonpost.jp/2014/04/21/korea-ferry-murder_n_5184140.html

韓国沈没船の死者64人に、朴大統領「殺人に等しい」と船長ら非難

ロイターニュース編集部  |  執筆者: ロイター 投稿日: 2014年04月21日 15時09分 JST  |  更新: 2014年04月21日 15時09分 JST

 

更に、驚いたことに、未だ海難事故対応が終焉していない折に、突如として、行政機構の改編を宣言したことです。 韓国の行政機構改編の手続に関しては、詳らかではありませんが、大統領限りの宣言で行政機構が左右されるのでしょうか。 国家の行政機構は、法の定めに依るのであって、大統領限りの思い付きで左右されるものであれば、それは皇帝や王に依る専制支配と何ら異なることはありません。

ある海洋警察庁幹部が話した「海洋警察をなくしたところで、海上での業務は誰に任せ、どうしていくのかが分からない」と云う疑問に朴大統領は答えられるのでしょうか。

世界の諸国では、コースト・ガードと云う名称の組織が海上保安の任についているのが通常一般的であり、例えば、米国も日本も英語名では、コースト・ガード(Coast guard)と呼ばれる組織を有しています。

諸国のコースト・ガードには能力の相違があるのは当然で、自国のコースト・ガードの能力が劣れば、優れた能力を有する国のコースト・ガードに学べば良いのです。 現実の事故を観れば歴然で、韓国海洋警察庁に、日本の海保が有する特殊救難隊のような部隊があれば、もう少し違った結果が出ていたことでしょう。 問答無用で、解体するのは余りにも無法です。

 

http://www.yomiuri.co.jp/world/20140519-OYT1T50055.html?from=ytop_top

朴大統領「最終責任は私」…海洋警察庁を解体 2014年05月19日 11時15分 Yomiuri Online

 

http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20140520-00001271-chosun-kr

(朝鮮日報日本語版) 旅客船沈没:突然の解体方針に海洋警察職員らは放心状態

朝鮮日報日本語版 5月20日(火)10時47分配信 Yahoo!ニュース

 

韓国ばかりを謗るのは軽率です。 同じく、日本も深刻な状況にあるのですから。

内田樹神戸女学院大学名誉教授は、御自身のブログで「法治から人治へ」と題されて最近の政治状況の潮流の変化を憂慮されておられます。 それは、「官民挙げての憲法軽視は重大な『潮目の変化』の徴候である。 これは日本の統治原理が『法治』から『人治』に変わりつつあることを示しているからである。」とされ、「集団的自衛権行使について、それを政府解釈に一任させようとする流れにおいて、安倍内閣はあらわに反立憲主義的であり(彼が大嫌いな)中国と北朝鮮の統治スタイルに日ごと酷似してきている」と厳しく指摘されておられます。

どうやら、日本、中国、北朝鮮、そして韓国も、同じく、アジア的専制政治から未だに抜け切っていない状況にあるようです。 こうした同じ穴の貉が他国をあざ笑うのを、目糞、鼻糞を笑う、と先人は喝破しています。

 

http://blog.tatsuru.com/2014/04/18_1041.php

法治から人治へ 2014年04月18日 10:41 内田樹の研究室

 

(なお、ハンドリング・ネームの「とら猫イーチ」で筆名に替えて今日まで来ましたが、ハンドリング・ネームでは、聊か軽薄な感じを否めません。 投稿内容まで軽薄な印象を受けては残念ですので、思い切って、筆名である熊王信之に替えたいと思います。 当初から筆名で投稿しておけば良かったのですが、安易にハンドリング・ネームで投稿を重ねました。 申し訳御座いません。)

〈記事出典コード〉サイトちきゅう座http://www.chikyuza.net/
〔opinion4852:140521〕