1937年へのタイムトラベル

著者: 川端秀夫 かわばたひでお : 批評家・ちきゅう座会員
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【解説】
このエッセーは2015年の15日に私のブログに掲載された作品です。読み直してみてとても懐かしい気持ちになりました。それはこの文章の内容からくるものです。小文ではありますが読んで頂く方も同様に懐かしい気分に浸れることと思います。楽しんで頂けば幸いです。

【本文】
読んだ本の感想ではなくこれから読む本の期待感を述べるというのはブログでなければできない趣向でありそれも一興かと思う。 

橋川文三が「ある時代の雰囲気を知るにはその当時の総合雑誌を読むのが一番いい」と語っていたのを思い出す。その言もあって、昨年中に古書店で買い求めた『改造』1937年1月号を正月休みの帰省の際に持ち帰り読み始めたのだが、昭和12年の正月にタイムスリップしたような感じが味わえてたいそう面白かった。まだ読んでいる途中なので内容について感想など書ける段階ではないのだが印象を少し。              

当時の総合雑誌のレベルの高さにまず驚かされる。現在発行されている総合雑誌で云うと『文藝春秋』が一番ボリュームが厚いが、それ以上の充実した記事内容であり、質・量共にその時代の知識人を網羅しているといっていいほどである。
目次参照)     
 

総合雑誌だけあって、単に時局的な記事にとどまらず、創作欄が充実しているのが目立つ。現在では古典となったような小説が並んでいる。読み終えた範囲でいえば、文学者の創作の方がその他の学者・知識人の論文等よりも、時代の真相をとらえる点において格段の完成度に達しているように感じられた。

これは編集者の言だが、「創作欄は新年号として、完璧なる顔触れである。先ず、長らく待望と期待の的であった横光氏の帰朝後第一作を掲載し得たことを読者と共に欣びたい。時局紛糾中の欧羅巴の旅を終え、爾来、黙々として此の一作にのみ心血を注ぎ幾多の問題を含む快作、熟読を希ふ」とある。                                       横光利一(1898-1947)

同じく編集者の弁として時局認識は次のように捉えられている。「突如支那に起こった張学良軍の一大クーデター事件に依て統一完成途上にある隣邦支那は再び軍閥抗争の国と化するか、或は赤化勢力の浸透の為に更に複雑なる様相を呈するか、事件の緊急批判の為締切後に拘らず、大西、波多野、山用、山本、山上五氏の徹底的の究明をのせた」とある。

張学良の蒋介石監禁(いわゆる西安事件1936年11月)をきっかけに国民党と中国共産党は合作した。抗日民族統一戦線が結成されてその後の大日本帝国崩壊の遠因を形作ったのである。しかしそのような未来はこの雑誌の執筆者達はこの時点では誰ひとりとして知る由もなかった。

1937年の1月と云えば今から78年前になる。昭和12年の1月にタイムスリップした平成27年の私のお正月であった。

【参照】
横光利一の小説「厨房日記」は世界戦争前夜の欧州の転換期の様相を活写しており、横光が小説の神様と呼ばれたことを納得させる傑作です。青空文庫に掲載されていて読むことができます。
こちらです☛https://www.aozora.gr.jp/cards/000168/files/2156.html

〈記事出典コード〉サイトちきゅう座 https://chikyuza.net/
〔opinion13260:230927〕