2022年10月25日東京新聞投書欄掲載原稿原文:「戦争終結が半年早ければ」への無念の思い

九月十五日発言の斎藤澪子さんは「戦争終結が半年早ければ」と無念を語っている。敗戦直前の六月に長兄が戦病死したのだ。二十八日の黒田昌宏さんもその思いに心を寄せる。お二人の悔やむ「半年」の重さは、私にも長年のしこりだった。

敗戦半年前の一九四五年二月十四日、敗戦を確信した近衛文麿元首相が戦争終結を決断するよう上奏文を提出したが、昭和天皇はもう一度戦果を挙げてからとして却下したという。このあとの敗戦に至る半年の無残をつくづく思う。

もしもこのとき天皇を中心とした宮中グループが戦争終結を決断していたなら、大切な人生がどれだけ救われたことか。夫を失った隣家は苦境に陥り、いつの間にか消息が分からなくなった。「歴史にイフはない」というが、どんな戦争にも無数の痛切なイフが潜んでいる。これらが封じているやり切れなさも、戦争責任の重量に加えたい。お二人ともども、多くの方の思いに私も連なっている。