3・8千葉地裁へ 市東さんの請求異議裁判――三里塚の過酷執行と日本の農業廃業緊迫

著者: 林 一輝 はやしかずてる : 市東さんの農地取り上げに反対する会
タグ: ,

最高裁で判決が確定すれば、後は無いと思ってきた。だが、「上告が棄却されても、まだ次がある」場合があることを、三里塚の市東孝雄さんの農地裁判で初めて知った。
2016年10月25日、最高裁第3小法廷(大谷剛彦裁判長)は、祖父の代から100年耕した農地を守ろうと闘う市東孝雄さんの上告を棄却した。この不当判決は、成田空港会社による農地取り上げを可能にするものだったが、現在、その執行手続きは停止し、新たに「請求異議裁判」が始まっている。要するに農地は今も耕されており、法廷闘争が粘り強く続いているのである。

●戦後最大の土地収用事件
法律は、請求権を確定させるための手続き(判決手続き)と、それを実現する手続き(執行手続き)とを区別している。仮に確定判決を受けたとしても、強制執行の請求権に問題がある場合には、請求異議を申し立てることができる。市東さんの場合、空港会社の請求には著しい権利濫用の疑いがあるのだ。
一つ目の問題は、政府・空港会社の公約破りである。1994年10月11日の成田空港円卓会議で、政府・空港公団(現・空港会社)は、暴力的な空港建設の過去を公式に謝罪し、「今後あらゆる意味で強制的手段をとらない」と公約した。市東さんに対する強制執行は政府レベルのこの約束を踏み破ることである。
そしてなによりも、公約破りの土地収奪は、農民から生きる希望を奪い、生存権と尊厳を徹底的に蹂躙する。小泉よねさんに対する第二次強制代執行(71年9月20日)は法が禁止する過酷執行そのものだったが、市東さんの場合も同質であり、収奪規模においてはよねさんの時をはるかに上回る。

●小泉英政、加瀬勉、学者3人の証人採用攻防
「市東さんの農地取り上げに反対する会」は昨年11月、「憲法と農業──農民の人権は守られているか」をテーマとしてシンポジウムを開いた。
そこで専修大学の内藤光博教授(憲法学)は、上記のことを「二重の意味での権利濫用」と指摘し、試論としながら「農業・営農権」を基本的人権の中に位置づけるべきことを展開した。石原健二さん(農業経済学)は、これを裏支えするように全国の農家が直面する現実を紹介した。出された資料によると、農産物自由化と企業の農業参入によって、ここ25年のうちに農家の55パーセントが廃業に追い込まれている。「明治から此の方日本に食料自給の理念がなかった」「これが基底になければ、生存権的財産権としての農地も農民の尊厳も成り立たない」と石原さんは言う。
緩やかに潜行してきた日本の農家(小規模家族農業)の廃業と企業による農地のエンクロージャーは、いまや公然化し激しく進行している。そして三里塚は、この死に向けられる日本農業を象徴し、これに激しく抗っている。
高度経済成長さなかの“1968”が象徴する近代化批判と“過激行動”の中心に三里塚もあった。それから半世紀が過ぎようとしているが、そこで出されたものは根源的であって、それは今も人間社会のあるべき姿を問いかけている。
3月8日、請求異議裁判の第5回が千葉地裁で開かれる。小泉英政、加瀬勉、3名の学者(内藤光博=憲法学、石原健二=農業経済、鎌倉孝夫=経済学)らの証人採用をめぐって、緊迫の裁判はいよいよ最大のヤマ場に入った。ぜひ傍聴を!

第5回請求異議裁判 3月8日(月)10時30分開廷
千葉地裁601号法廷
* 傍聴希望者は10時までに地裁集合

〈記事出典コード〉サイトちきゅう座http://www.chikyuza.net/
〔opinion7388:180223〕