ストラスブールの欧州議会 CC BY-SA 3.0
撮影:J. Patrick Fischer 氏
少々遅ればせながら、6月9日にドイツで行われた2024年欧州議会選挙の結果について触れさせていただく。
ドイツでの投票率は64.8%だった。党派別の得票率結果は下のようになる:
党派別の獲得 得票率(%) と 括弧内は前回選挙(2019年)との比較
1. CDU/CSU[キリスト教民主同盟/社会同盟]:30%(+1.1ポイント)
2. AfD [ドイツのための選択肢]: 15.9% (+4.9ポイント)
3. SPD [社会民主党]: 13.9% (−1.9ポイント)
4. Grüne [緑の党]: 11.9% (−8.6ポイント)
5. BSW [ザーラ・ヴァ–ゲンクネヒト同盟]: 6.2%(+6.2ポイント=今回 初出馬)
6. FDP [自由民主党]: 5.2% (−0.2ポイント)
7. Linke [左翼党]: 2.7% (−2.8ポイント)
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5年毎に行われる欧州議会選挙は、国民が国の政治に満足しているか否かのバロメーターを示す場であるとみなされているようだが、今回の選挙においては、ドイツ連立政権を成す3政党(社民党、緑の党、自民党)すべてが、前回の選挙結果を下回る得票率を出していて、緑の党にいたっては前回選挙と比べて得票率マイナス8.6ポイントと非常に冴えない結果であった。 ということは、おそらく、多くのドイツ市民が連立政府の政治に不満を懐いているということなのだろう。
それに対して、注目すべきは、2019年の選挙では得票率が第4位だった、極右とみなされている政党・AfD(ドイツのための選択肢)が、今回の選挙では得票率15.9% (前回選挙と比べてプラス4.9ポイント)を得て、第2位のランキングに伸し上がったことであり、この1月に設立されたばかりの新党・BSW(ザーラ・ヴァ–ゲンクネヒト同盟 )〔*注] が、初出馬でありながら、6.2%の得票率を獲得したことだろう。
〔*注] BSW(略称)ー 独語:Bündnis Sahra Wagenknecht-Vernunft und Gerechtigkeit ー ザーラ・ヴァ−ゲンクネヒト同盟=理性と公正のために
2024年1月に設立されたドイツの政党。 ドイツ連邦議会議員であると同時に、テレビ討論会への出演や出版活動によって、ドイツで知名度の高い政治家・著述家であるザーラ・ヴァ−ゲンクネヒト氏の名前を前面に出した新党。 ヴァ−ゲンクネヒト氏は2023年10月に左翼党(Die Linke)を離党しており、彼女以外の新党設立メンバーの大半も、かつては左翼党に属していた。BSWは、ウクライナ紛争の解決策としてロシアとの和平交渉を強く求めている。 BSWは、労働問題や経済問題では左派だが、移民問題や文化問題では保守的と見なされている。
BSWが欧州議会への初出馬で6.2%の得票率を獲得したことに喜ぶヴァ−ゲンクネヒト党首〔source:tagesschau]
2024年 欧州議会選挙にあたりドイツの有権者に対して行われた世論調査
今回の欧州議会選挙にあたり、政治的見解や選挙関連の世論調査に携わっている ”Infratest dimap“ が、有権者に対して世論調査 を行っている。その調査結果の中から、ドイツ市民の日頃の懸念を知る上でヒントになるのではないかと思われる部分をご紹介させていただく。 [infratest 09.6.24から]:
2024年 欧州議会選挙にあたり 深く懸念していることは…..
◾ 74% ー 今後、犯罪が激増すること (2019 年の選挙と比べて22%増)
◾ 66% ー 気候変動が自分たちの生活を破壊すること (11%減)
◾ 61% ー ドイツでイスラム教による影響が強くなりすぎること (14%増)
◾ 58% ー 特定のテーマに関する意見で排斥されること
◾ 56% ー ドイツでの生活が急激に変化するだろうということ(15%増)
◾ 53% ー ドイツに来る外国人が多すぎること(19%増)
◾ 50% ー もはや自分の生活水準を維持できなくなること(20%増)
[Source:tagesschau]
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上記の懸念事項を見て、お分かりいただけるように、74%の回答者が、今後、犯罪が増加することを懸念しており、61%の回答者がイスラム教の影響や移民の増加を懸念しているということである。
《選挙の10日前に起こったナイフ襲撃事件》
欧州議会選挙を10日後にひかえた5月31日、そのような市民の懸念が現実化されてしまったような事件が起こった。 マンハイムのマーケット広場でアフガニスタンからの移民によるナイフ襲撃事件があったのである。この襲撃事件は、ドイツにおける新しいモスクの建設/イスラム化に反対する市民運動「パックス・ヨーロッパ」の会長・ミヒャエル・シュトゥルツェンベルガー氏を狙ったものだった。ナイフ襲撃により警察官一人が致命傷を負い、他の5人が重傷を負った。
おそらく、今回の欧州議会選挙におけるAfDの躍進には、このアフガニスタンからの移民によるナイフ襲撃事件が要因の一つとなって寄与しているものと推察できるのではないだろうか。
《さらに8月23日、ゾーリンゲンで刃物襲撃事件が》
さらに、8月23日、ゾーリンゲン市内中心部で開催されていたゾーリンゲン市創設650周年祭りの最中に、一人の男が路上で多数をナイフで襲撃し、3人が死亡、8人が負傷し、重傷を負った人もいるという殺傷事件が発生した。警察は24日、実行犯と疑われる男を含め計3人を逮捕した。うち1人の容疑者は26歳のシリア人で、彼は2023年には、彼が最初に足を踏み入れたEUの国であるブルガリアに強制送還されなければならなかったのだが、送還されることはなかったという。 この送還の失敗はドイツの移民難民制度が機能していないということであり、現在ドイツでは国の安全と移民政策についての激しい議論が巻き起こっている。
《9月に行われるチューリンゲン州、ザクセン州、ブランデンブルク州での州議会選挙》
9月には旧東独のチューリンゲン州、ザクセン州、ブランデンブルグ州で州議会選挙が行われるが、このゾーリンゲンでの移民による刃物襲撃事件が再び、反移民政策を唱えるAfDにとってプラスポイントとなるだろうと推察される。
最近の世論調査によれば、AfDが、これらの3州で過半数を占めることはないだろうが、第一政党になる可能性は高いという。それぞれの州におけるAfDの支持率は、およそ30%ぐらいとのことである。
何れにしても、ドイツでは、エスタブリッシュされた政党がゆったりと構えていられないような状況になっていることは確かなようだ。
以上
〈記事出典コード〉サイトちきゅう座http://www.chikyuza.net/
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