初期マルクスと『資本論』とは「対称性」で連続する
内田 弘(専修大学名誉教授)
上に表記した題で、現代史研究会で報告することになりました。皆さんのご意見をたまわりたいと希望します。
初期マルクスは何時始まるのか、そのとき『資本論』に連続する如何なるモメントをつかんだのか。これが当日のテーマです。
報告者の1人であるわたしは、通常「初期マルクスが始まった」といわれる1843年秋パリではなく、1841年の学位論文「デモクリトスの自然哲学とエピクロスの自然哲学の差異」の準備過程に、初期マルクスを定めます。マルクスは生涯を通して宗教批判と経済学批判を主題とします。その主題は「差異論文」にすでに存在します。その準備過程で、ユダヤ教批判であるスピノザの『神学・政治論』を独自な順序でノートし、「貨幣制度と民主主義制度の同型性」を確認しています。アリストテレス『デ・アニマ』も独自な順序でノートし「物象化論」の端緒を記しています。それらは「差異論文」を中心に「真偽問題」として総括できます。宗教=貨幣が全面的に支配する世界、真偽が転倒する世界の内部に生きる人間は、そこから如何にして脱出する道筋を発見できるか、これがマルクスの生涯を貫徹する問題です。
「差異論文」の主題は、実は、真偽問題を批判基準とするカント哲学批判です。カントは自分の認識論を基準に4つのアンチノミー[①始元・限界、②全体・部分、③自由・必然、④有神・無神]を提示しますが、結局それは「仮象(Schein)」であるとして退けます。マルクスは、いやちがう、そのアンチノミーは、《原子[空虚(原子)]:[(原子)空虚]原子》という「対称性と連続性」の円環に止揚され、その展開の究極で自壊すると指摘しています。
一方の『資本論』の主題は、商品交換の原理が全面的に支配する資本主義の世界を明らかにすることです。使用価値の異なる財の交換関係が「対称性(symmetria)」に転態することで、商品交換が可能になると、『資本論』の始めで指摘します。『資本論』の編成原理は「対称性」です。『資本論』第3部の最後「三位一体的範式」で、資本主義の世界を「真偽が転倒した世界」、「仮象・物象化の世界」と特徴づけています。「差異論文」における「対立(アンチノミー)の止揚形態は対称性を成す」という認識はその後も持続し、『資本論』に継承され、①価値形態→②商品物神性→③交換過程の3つの項を置換する独自の編成原理に実現します。
このようなことをお話しします。わたしの論文「『資本論』の《不変の対称的構造》」(『情況』2013年5・6月合併号)を事前にご覧いただければ幸いです。この論文を大幅に改稿し英訳した論文(Constant Symmetrical Structure of Marx’s Capital)がイギリスのジャーナル「CRITIQUE 65」(2013年10月末刊行予定)に公表されます。
第279回現代史研究会
日時:10月5日(土)1:00~5:00
場所:明治大学駿河台校舎・リバティタワー1133号(13階)
テーマ:「初期マルクスから『資本論』へ」
講師:的場昭弘(神奈川大学教授)
内田弘(専修大学名誉教授)
コメンテーター:日山紀彦(東京成徳大学教授)
参考文献:的場昭弘訳・著『新訳 初期マルクス ユダヤ人問題に寄せて/ヘーゲル法哲学批判序説』(作品社2013.2)
内田弘著「専修経済学論集112号」所収論文など、著書多数
日山紀彦著『抽象的人間労働論の哲学』(御茶の水書房)
〈記事出典コード〉サイトちきゅう座 http://www.chikyuza.net/
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