4・14(土) 世界資本主義フォーラム 「21世紀型金融危機における断絶と継承」

2018年4月14日(土)の「世界資本主義フォーラム」での吉村報告について、内容紹介します。

内容紹介
前回の報告「『ドル本位制』下の金融危機」(2016年04月30日『世界資本主義フォーラム』での報告)では、①以前の拙稿(「世界貨幣と国際通貨」SGCIME編『金融システムの変容と危機』2004)で明らかにした変動相場制以降の「ドル本位制」の構造を、その歴史的生成にも関説しながら概観すること、②拙稿公表以降に出来した2007年以降のサブプライム金融危機が、先の「ドル本位制」の構造のもとで、どのような諸因から勃発したのかを検討すること、を内容として報告した。
前回の報告以降の展開としては、トランプ政権の誕生(2017年)など時代を画する変化と思える事例が生起したものの、こと国際金融の構造ということに関する限り、アメリカ・ドルの一強支配という前報告で明らかにした方向性は、些かも揺らいでいないように見える。中国は実体経済において躍進著しいものの、国際金融におけるそのプレゼンスはドルのはるか後塵を拝し、また資本流出を警戒して資本規制にたいする基本的姿勢に変化が見られないことからも明らかなように、今後ともこの構造に大きな変化はないように見受けられる(少なくとも今のところは)。
しかし2008年のサブプライム金融危機から10年の歳月が過ぎ、トランプが大統領選挙中に強調したアメリカ経済の悲惨さとは裏腹に、アメリカ経済は今のところ堅調に推移している。この景気を、株価上昇によるバブルと見るかどうかについては、すでに楽観論と悲観論とが展開されているようだが 、その周辺では、ビットコイン・バブルとその後の展開など、いわゆる仮想通貨(暗号通貨)の存在をはじめとして新たな金融現象が出現している。これらの新しい事象は、今後の経済の変貌を占う意味でも重要な意味を投げかけているようにも思える。
そこで今回の報告では、21世紀初頭の現時点における「金融の肥大化」=「金融化」の諸相を考える意味で、以下のような内容を報告したいと思う。
(1)まず前回の報告で明らかにした「ドル本位制」下の通貨体制を振り返って確認しておきたい。前回も説明したが、ここで「ドル本位」とカギ括弧を付けていうのは、何も文章を修飾して気取った風を演出しているためではない。古来、貨幣とは金や銀などの貴金属商品であったが、この点が債務相殺を制度化した「ドル本位制」のもとでどのように変化し、また変化していないのかを問題にしたいためである。ドルによる「決済」が、たとえば金による決済と異なるのは、それが論理的には債務による債務の相殺でしかないという点であり、この点では、今日の通貨体制を指して「最終決裁なき国際通貨体制」 と呼ぶこともある意味では的を射た表現であるというよう。近年の金融肥大化は、変動相場制への移行という歴史的な変化という条件を抜きにして検討することはできない。
(2)本報告では、こうした通貨体制の歴史的な変化の認識の上に立ち、近年人口に膾炙するいわゆる経済の「金融化financialization 」と呼ばれる事態を、マルクス経済学原理論の観点から検討する。一口に「金融化」と言っても、そこでは、①1970年代後半以降のコーポレート・ガバナンスにおける株主主導への変化、②同じく70年代後半以降、変動相場制のもとで現われた金融諸商品の族生、③同様に変動相場制下で促進された実体経済を凌駕する金融部門の肥大化等々、さまざまな諸現象が同じ「金融化」という言葉のもとに併せて議論されている場合が多い。その限りでは、「金融化」という用語が指す内容は、現時点では、同様に論者によってかなり多様に用いられている「グローバリゼーション」という語とおなじく、多義的なものと捉えるしかない 。本報告では、最も広い上記③の、狭義の銀行信用の範疇を超えた金融部門の肥大化(金融媒介機関の比重増大)という意味、ないし②の金融工学の発展に促された金融諸商品の族生等の意味での「金融化」を捉えながら、理論と現状という二つの焦点から、今日の「金融化」の諸相を概観したい。
(3)最後に、上記の現実的展開は、マルクス経済学の貨幣論・信用の理論内容にどのような問題を投げかけているのかを考察したい。2007年以降、アメリカを中心に出来した、いわゆるサブプライム金融危機は、例えばマルクスが『資本論』において検討した19世紀型の信用恐慌に対して、①その直接の契機となったのが、住宅金融の証券化をはじめとする、様々な金融資産とそのキャッシュフローを証券化した証券化商品の価格崩落であり、証券化の手法の開発に伴って長期性資金の受け皿となった金融商品の族生の中で発生した点、②その場合これら証券化商品の創出と流通には、伝統的な商業銀行ではなく、証券化にかかわる多数の金融媒介機関――ヘッジファンド、投資銀行、そして投資銀行が設置したSPV(特別投資事業体 Special Purpose Vehicle等の導管体)その他のいわゆる「シャドーバンキング」――が介在しており、こうした貯蓄性の長期資金を媒介する信用媒介機関の比重が増大している点、という2点において、「金融化」現象のもとで勃発した21世紀型の新しい形態の金融恐慌ということができる。金融媒介機関の比重増大・証券市場を中心とする金融危機の勃発等々、こうした新たな「金融化」現象は、商業銀行による信用創造(その裏側にある決済業務)を重視してきたマルクス派の信用論ないし信用恐慌論分析が、現実経済の発展の前に陳腐化し有効性を失っていることを示すものなのか。この点を改めて検討することにする。
(以上)

[1] 昨年あたりから、バブルを警戒するものが増えてきた。目にしたものでは、たとえばRandall W. ForsythThe Greatest Investment Bubble”(https://www.barrons.com/articles/the-greatest-investment-bubble-1512791501)、

[2] 平勝廣[2001]『最終決済なき国際通貨―「通貨の商品化」と変動相場制の帰結』日本経済評論社

[3]「金融化」の文脈でしばしば言及されるエプスタインも、同様な点を指摘している。Epstein,G.A.[2005],Introduction: Financialization and the World Economy‘ in Epstein, G(eds), Financialization and the World Economy, Edward Elgar, p.3.

 

上記の3点を簡単に報告することを予定としていますが、当日は皆さんの質問や関心に応じて、ある点は軽く触れ、ある点はやや詳しく考察するなど、適宜変更していくつもりです。

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●主催 世界資本主義フォーラム
●日時 2018年4月14日(土) 午後2時~5時
●会場 本郷会館 東京都文京区2-21-7 電話 03-3817-6618
http://www.city.bunkyo.lg.jp/gmap/detail.php?id=10136
アクセス 地下鉄本郷三丁目から徒歩5分 (下の案内図参照)
◆東京メトロ丸ノ内線「本郷三丁目」より徒歩5分。
*丸ノ内線「本郷3丁目」駅からの行き方:春日通り方面出口から出て左へ。大横町通りに出たら右折し、100メートル行くと三菱UFJ銀行のATMあります。ここを左折すると三河稲荷神社。その隣です。
◆都営大江戸線「本郷三丁目」3番出口より徒歩6分
●報告 吉村信之(信州大学) 「21世紀型金融危機における断絶と継承」
アメリカの「双子の赤字」にもかかわらず,「ドル本位制」がつづくのはなぜか?この謎について、吉村信之氏は2016年4月のフォーラムで報告した:「なぜ、金・ドル交換停止後もドル基軸通貨体制がつづくか――宇野 経済学から見た国際通貨システム」。
今回はそのつづきとして、「21世紀における金融危機と恐慌」を報告してもらう。サブプライム金融危機、グローバル・インバランス、銀行の信用創造機能と実体経済との関係の変化等が、手がかりになろう。
また、こうしたグローバル金融資本主義解明のための経済理論として、マルクス経済学の貨幣論・信用論・恐慌論の進化・発展の道筋についても、フォーラムで論議したい。
●どなたも参加できます。資料代 500円
● 問合せ・連絡先 矢沢 yazawa@msg.biglobe.ne. jp  携帯090-6035-4686

〈記事出典コード〉サイトちきゅう座http://www.chikyuza.net/
〔study960:180409〕