一昨日の8月8日、シュピーゲル電子版を始め、ドイツの主要メディアが一斉に報じましたが、最新の世論調査で、今年はドイツ市民の95%が再生可能エネルギーへの転換の促進に賛成していることが明らかになっています。
これはベルリンの再生可能エネルギー機関が世論調査機関に委託して2007年度以来、毎年行われている社会のネルギー転換の受容度を調べる最新の先月2017年7月の最新世論調査の結果で、8月8日付で公表されたものです。回答者は1016人です。
以下その結果のグラフを引引用してみましょう。
まずは、「再生可能エネルギーのさらなる利用と強化は・・」
大いにあるいは非常に重要である;65%
重要である:30%
余りあるいは全く重要ではない:4%
判らない無回答:1%
であり、95%が再生可能エネルギーの強化に賛成しています。これは2014年の調査で利用と強化が重要とした回答が92%であり、2015、6年度が両年度ともに93%であったところからさらに増加傾向にあります。
次に、そう答えた理由についてですが、
「あなたは以下の質問に同意しますか?」(複数回答も可能)との質問への回答で、
再生可能エネルギーは・・・
私たちの子供と孫に安全な未来をもたらす。75%
気候を守る。72%
ドイツを外国からの(エネルギー源)輸入から独立させる。62%
市民にエネルギー供給への参加のチャンスを与える。59%
発電コンツェルンに対する競争をさらに促進させる。47%
中小規模企業の経済力を強化する。43%
長期的に市消費者の負担を軽減させる。35% との割合で同意しています。
すなわち再生可能エネルギー転換によるエネルギー供給の安全性と未来性、並びにその市民参加の民主制にドイツ市民は高率で賛同していることが読み取れます。
そして、 再生可能エネルギーの整備促進法による賦課金(EEG-Umlage)が適切な負担であるかについての質問です。
電力分野での再生可能エネルギーの整備は電気料金で賄われています。現在では典型的な3人世帯は、年間消費量が3500キロワット時で、電気料金を毎月約85ユーロ支払っています。その内の約20ユーロが 再生可能エネルギーを促進する賦課金です。
あなたはこの再生可能エネルギーへの負担は・・・?
少なすぎる。8%
適度である。48%
多すぎる。37%
わからない、無回答。7% と回答しています。
つまりここでは、圧倒的な95%が再生可能エネルギー促進に賛成してはいますが、全体の37%が毎月20ユーロ(約2600円)の賦課金は負担が重いと回答しています。
結論として、ドイツの世論は再生可能エネルギー政策のさらなる促進に賛成する割合がすでに最大限近くまで増えていますが、他方で約三分の一ほどは負担が重いと感じていることがわかります。三分の一の市民がこのアンビバレンツを抱えているとうことでしょう。
とはいえ、この37%の市民の大半が「確かに負担は重いがエネルギー転換には賛成する」というのが この世論調査の結果と言えましょう。
ちなみに、参考としてドイツの再生可能エネルギー発電は昨2016年度は伸び率は下降しないまでも停滞状態の消費電力の約31・5%となっています。 しかし、先月7月2日の連邦再生可能エネルギー同盟BEEによる本年度の中間予想では、今年はかなりの伸び率の上昇が見られ、最大35%となるとの予想があります。
すなわちドイツ政府の2050年までに80%の再生可能エネルギー発電を達成するとの公式目標の、43%を本年度は実現しそうだというのが現時点の情勢です。
そしてこのような圧倒的な再生可能エネルギー促進を支持する世論を背景に、ちょうど本格的に始められている来月9月24日の連邦州銀選挙へ向けた選挙戦でも、当然ながらキリスト教民主並びに社会同盟、社会民主党、緑の党、左派党は全てデタイルの違いはあれ、再生可能エネルギー促進を選挙公約で表明しています。ただ一つ極右政党「ドイツのための選択肢・AfD」だけが、反対して原発稼働促進を唱えています。
さて、これがドイツの再生可能エネルギーの現状ですが、いささか気になることがあります。
最近日本語のネットでは「ドイツのエネルギー転換が『大失敗』だったと明らかに・実は環境のためにもなっていなかった」と言った見出しのトンデモ情報が散見されます。
これなどは現在では滅多に見れない、世論調査に見られるアンビバレンツを最大に強調する少数意見のたった一つの報道記事を、これぞとばかり引用して揚げ足をとり、上記のようなドイツの世論を真っ向から否定する印象を持たせようとする典型的な偏向情報のひとつと言えましょう。この手の宣伝をしているのはドイツでは上記の極右政党だけです。
このような見出しと論調がもし事実であるならば、ドイツ人の95%が騙されて高い電気料金を支払っている愚か者になってしまいます。これほどドイツ市民を馬鹿にした日本メディアによる恥知らずの言論も珍しいですね。おそらく、背後には日本の原発村のゾンビがいるのでしょう。
ここで22年前に日本の大手メディアである文藝春秋社の雑誌の「ガス室はなかった説」との報道に、私も激怒して徹底的に活字で叩き、歴史修正主義者に名誉毀損で訴えられ挙げ句の果て勝訴し、日本の裁判所が初めて「ガス室は史実」と認定した体験が思い出されます。
これ以降、「ガス室はなかった」とする説を広めるメデイアは日本では、おかげでなくなりました。どんな極右でも公然とこれを口にすることはできなくなりました。この記録は出版されており、現在では心あるジャーナリストたちの古典的資料となっています。この争いは当時ドイツのメディアでも広く報道されたものです。
現在の「ドイツのエネルギー転換大失敗説」はまだそれほどのものではありませんが 放置しておくと日本の世論に似たような被害をもたらし、日本の国際的評価を大きく損じかねないと危惧する次第です。
ちょうどこの世論調査が広く報道された時に目につきましたので指摘しておきます。いずれにせよこの手の日本メディアにおける偏向情報には注意しましょう。
日本の主要メディアが、ドイツではここ10年間は当たり前とされる世論のバロメーターを無視して報道しないからこそ、この手の文字通りの偽情報が公然とまかり通るのです。したがって日本の主要メディアの怠慢にその責任の一端があることをドイツ特派員諸君は認識すべきでしょう。
というのも、昨年の訪日時に、あるところの集まりで話をしたら、「ドイツは脱原政策のために電力の輸入国となり、フランスの原発電力を買っている 」といったフクシマ事故直後の数ヶ月のデータだけをもとに、当時針小棒大に宣伝されたデマ情報が、日本では未だに広く信じられていることを知り驚いたことがあります。
事実はちょうどその正反対でドイツは欧州では長い間最大の電力輸出国で、最近ではその30%以上が再生可能エネルギーによる電力なのです。
こんなことはかなり前からすでに多くの専門家があちこちで指摘しています。新しいものも探せば沢山ありますが、以前からのよく知られているものをいくつか挙げておきます: ドイツなしでは成り立たないフランスの電力。 原発停止でもドイツはフランスへの電力純輸出国。
ここで指摘されている事実を見れば。「ドイツのエネルギー転換大失敗説」も構造が同じ偏向情報であることがよくわかるでしょう。
このような極端な偏向情報をまかり通りさせ放置して平気でいる日本の主要メディアの無責任ぶりも異常です。まっとうな言論機関の役割を放棄しているとしか思えません。
とにかくファクト・事実を否定ないしは無視するするこのような極端な情報には注意しましょう。
日本のメディアはアメリカの惨めな状態にすっかり似てきています。大半のアメリカ人が世界の情報には疎い田舎者であることに、なにも日本のジャーナリストがおもねる必要はありません。
初出:梶村太一郎の「明日うらしま」2017.08.11より許可を得て転載
http://tkajimura.blogspot.de/2017/08/blog-post_11.html
〈記事出典コード〉サイトちきゅう座 https://chikyuza.net/
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