ハアレツ新聞:イスラエルのジャーナリスト・ギデオン・レヴィ氏の論評 『 ガザで起こっていることがジェノサイドでないとしたら、いったい何なのか?』

はじめに

《アルジャジーラの情報から(2024年1月21日付)》

          イスラエルのガザに対する戦争

ガザでは、少なくとも25,000人の人々が殺害された。これには、少なくとも9,600人の子どもたちと6,750人の女性が含まれる。これは、ガザで殺害されたのは、100人に一人である、ということになる。8,000人以上の人々が行方不明であり、これらの人々は瓦礫の下に埋もれているものと思われる。

[ Sourcewww.aljazeera.com/news/2024/1/21/gaza-death-toll-surpasses-25000-as-israel-escalates-assault ] 

ギデオン・レヴィ氏著の論評

イスラエルの著名なジャーナリスト・ギデオン・レヴィ氏は、パレスチナ人に対する理解とエンパシーを示す、数少ないイスラエル人ジャーナリストの中の一人である。レヴィ氏は最近、アルジャジーラ放送とのインタビューで「残念ながら、イスラエルでガザ戦争の停戦を求める人は少ないのです」と述べている。

1月11日と12日にハーグの国際司法裁判所で、南アフリカが告発した「イスラエルによるジェノサイド」に関する審理が行われたが、レヴィ氏は、この審理の模様をシニカルなタッチで描写した論評を書かれている。

論評の「ガザで起こっていとがジェノサイドでないとしたら、いったい何なのか?」というタイトルが、すでに物語っているように、レヴィ氏は、南アフリカが主張する通り、ガザで起こっていることはジェノサイド以外の何ものでもないのだ、と明確に指摘している。さらにレヴィ氏は、ハーグの法廷で展開されたイスラエル弁護団の主張を誉め称えるイスラエル・メディアの偏向的な報道ぶりを「イスラエルのジャーナリズムは、この戦争で最低点に達した」と評し、嘆いている。

このレヴィ氏の論評を抄訳してご紹介させていただく。

ギデオン・レヴィ氏について》        ギデオン・レヴィ氏  [Source: Youtube]

イスラエルのジャーナリスト・著述家。 イスラエルの新聞・ハアレツの編集者および共同発行人。彼の記事は、イスラエルによるパレスチナ自治区の占領に焦点をあてることが多い。イスラエル占領地の人権に関する記事で賞を受賞。2021年にはイスラエルのジャーナリズムの最高賞であるソコロフ賞を受賞。

レヴィ氏は、イスラエルのパレスチナ人に対する政策についての彼の見解は、ハアレツ新聞で働き始めたことによって、発展したという。彼は「ハアレツに入社してヨルダン川西岸地区で取材を始めたとき、私はまだ若く、洗脳されていた。入植者がオリーブの木を切り倒したり、検問所で兵士がパレスチナ人女性を虐待したりするのを見て、『これは例外であって、政府の政策の一部ではない』と思っていた。しかし、これらが例外でなく、政府の政策の実体であるということを理解するのに長い時間がかかった」と語っている。 [Source: Wikipedia]

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原文(英語)へのリンク:If It Isn’t a Genocide in Gaza, Then What Is It?

*訳注:】ハアレツ新聞のウェブサイトに掲載された原文の記事にアクセスするのが、ややこしかったため、抄訳は、主にスイスのネットメディア”Global bridge“に掲載された独訳文をもとにしている。Global bridgeの独訳文へのリンクは:https://globalbridge.ch/wenn-es-in-gaza-kein-genozid-ist-was-ist-es-dann/

さらに、レヴィ氏が言及している問題点について、もう少し詳しい情報が必要だと思われた箇所には、下に【*訳注】として簡単な説明を加えさせていただいた。

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ガザのナセル病院で: 怪我の手当てを待つ母親と子 [Belal Khaled/Anadolu Agency Source:Aljazeera]

ガザで起こっていることがジェノサイドでないとしたら、いったい何なのか?』

(If It Isn’t a Genocide in Gaza, Then What Is It?)

2024年1 (14

著者:ギデオン・レヴィ (Gideon Levy)

ハーグにおけるイスラエルの立脚点が正しくて正当であり、イスラエルがジェノサイドもしくはそれに類するような罪を犯さなかった、と仮定してみよう。 そうだとすると、それは一体何なのか? 私がこれらの文章を書いている間にも、制限なく、自制なく、我々が到底想像することができないような規模で続行されている大量虐殺を何と名づけるのか?

病院で死んでいく子どもたち、この世界に誰もいなくなってしまい孤児となった子どもたち【*訳注1】、絶え間ない爆撃の脅威から命からがら逃げる飢えた高齢の民間人を何と呼ぶのだろうか?法的な定義が彼らの運命を変えることになるのだろうか? 裁判所が起訴を棄却すれば、イスラエルは安堵のため息をつくだろう。それがジェノサイドでないのなら、我々の良心は再び晴れるのだろう。 ハーグ裁判所がジェノサイドでないと言えば、我々は再び世界でもっとも道徳的な人間となるのだろう。

この週末、イスラエルのメディアやソーシャルメディアは、ハーグで我々を代表した弁護団に対する称賛と賛辞で溢れていた。「なんとエレガントな英語で、説得力ある主張だろうか」と。 その前日、メディアは南アフリカ側の立脚点について、ほとんど報道しなかったのだが、南アフリカの申述は、イスラエル側の英語よりももっと優れた英語で伝えられ、いわんや、事実に基づいたものであり、プロパガンダに基づいたものではなかった。これは、この戦争でイスラエルのメディアが、最低点に達したことを再び実証している。彼らは、イスラエルの立場を強め、「ハマスの法律機関【*訳注2】」の立場を破壊することが自分たちの役目だと考えているのだ。

最も重大な国際法違反のために裁判にかけられている国について話してみよう。黒衣を着て白髪のかつらをつけた者やそうでない者たちが、イスラエルの通常の主張を陳述したが、その中には、例えば、107日の残虐行為の記述など、適正なものもあった。

他には、笑うべきなのか泣くべきなのか判断するのが困難な箇所もあった。例えば、ガザにおける状況についてはハマスのみに罪責任があるという主張である。イスラエルには何の関係もないことであるというのだ。 尊敬すべき国際的機関の前で、そのような事を述べるのは、裁判官の知性を疑っていることであり、彼らを侮辱していることになる。

そして、イスラエル弁護団の代表者であるマルコム・ショー教授による「イスラエル側の行動は、それ相応のものであり、武装勢力のみに対して向けられているものである」という陳述については、どう考えたらよいのだろうか? 何が真実なのか? そのような破壊行為において相応であるとは? それが相応だとすると、不相応とはどんなものなのか? ヒロシマということか?

無数の子どもたちが死んだというのに、「武装勢力に対してだけ」とはどういうことなのか? 彼は何を言っているのか?「ガザで誰が、まだ機能する電話を持っているというのか?そして安全な場所など、どこにもないこの地獄で、彼らはどこに避難すべきだというのか?」 そして、もっともひどいのは:「たとえイスラエルの兵士達が戦争犯罪を犯したとしても、そのことについてはイスラエルの法制度が決める」と言うのだ。 明らかにショー教授はイスラエルの法制度について何も聞いたことがないし、ましてや軍事司法制度と呼ばれるものについては、尚更わかっていないのだ。

[ショー教授] は、2008年から2009年にかけてあったガザ紛争【*訳注3】の”キャストレッド作戦”の後に、たった4人の兵士だけが起訴されたのみで、そのうちの一人だけがクレジットカードを盗んだ罪で刑務所入りした(!)ということを、まだ聞いたことがないのだ。 罪のない人々に手榴弾や爆弾を投げつけた、他の兵士たちが、起訴されることなんて全くなかったのだ。

そしてガリット・ラグワン博士による発言【*訳注4】はどうか?:「イスラエル国防軍は病院を安全な場所に移す」。 ということは、(ガザの)シファ病院が(イスラエルの)シェバ・メディカルセンターに移されるということか?(ガザの)ランティシ病院を(イスラエルの)ソロカ・メディカルセンターに移すとでも言うのか? 彼女が言っているガザの安全な場所とはどこなのか? そしてイスラエル国防軍はどの病院を移転させるというのか?

もちろん、これら全てのことが、イスラエルが大量虐殺を犯したということを証明することにはならない。これは法廷が決めることだ。 だが、このようなイスラエル弁護側の主張に我々は満足してよいのだろうか?ハーグ裁判の後に明らかにされることについて我々は安楽な気持ちでいられるだろうか?そしてガザ戦争の後に、我々は満足していられるのだろうか?

ー抄訳終わりー

以上

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*訳注1】 この世界に誰もいなくなってしまい孤児となった子どもたち:2024年1月22日のアルジャジーラ衛星テレビ局の報道は、ガザで孤児になった子どもたちの数は25千人以上になると伝えていた。[Source: Aljazeeraテレビの報道]

*訳注2】ハマスの法律機関 (legal arm of Hamas):  この表現の由来:2024年1月11日、イスラエル外務省は、南アフリカがハーグの国際司法裁判所でイスラエルをジェノサイドの罪で告訴したことに対して、『南アフリカは過激派組織 ハマスの法律機関 (legal arm)』であると非難した。[Sourcehttps://www.politico.eu/article/israe accuses-south-africa-of-being-the-legal-arm-of-hamas/ ]

*訳注3】2008年から2009年にかけてあったガザ紛争:200812月から2009年1月にかけ、イスラエル国防軍とパレスチナ自治区のガザ地区を統治するハマスとの間で行われた紛争。この紛争は、ヘブライ語でキャストレッド作戦とも呼ばれ、アラビア諸国ではガザ大虐殺と呼んでいる。この紛争の結果、パレスチナ人1,1661,417人、イスラエル人13人が死亡した。 ガザでは46,000棟以上の家屋が破壊され、10万人以上が家を失った。 [Sourc: Wikipedia]

*訳注4】ガリット・ラグワン博士による発言: スコットランドの新聞 “THE NATIONAL” の報道によると、審理におけるガリット・ラグワン博士の発言は下記のようになる:

『イスラエル法務省国際司法部の代行部長・ガリット・ラグアン氏は、ガザにおいて民間人犠牲者が多いのはハマスのせいだと非難し、ハマスが病院を軍事利用しているからだと主張した。彼女は、イスラエルは病院を爆撃しなかったが、病院の「周辺」での「交戦の結果」損害や被害が発生したと主張し、イスラエルがジェノサイド行為に関与したことを否定した。』 [Source:https://www.thenational.scot/news/24045887.icj-key-points-day-two-genocide-case-israel/ ]

〈記事出典コード〉サイトちきゅう座http://www.chikyuza.net/
〔opinion13509:240124〕