東京・江東区で政治家の不祥事続発は、なぜ?  やはり「政治とカネ」。御三家「2世」による覇権争いも

はじめに――国会議員、都議、区長、区議と、連続不祥事の余波は続く
 東京の隅田川と江戸川と東京湾に挟まれた「ゼロメートル地帯」の江東区.。臨海部の豊洲、有明などにはタワーマンションが林立し、マンションやアパートなどの集合住宅の世帯が区全体の8割以上を占め、人口は増え続けて54万人余の大都市である。
 政治の面では、保守系の区長がずっと続いており、1975年の区長公選制移行以来、小松崎軍次(6期)、室橋昭(4期)、山﨑孝明(2023年まで4期)と半世紀で区長は3人だけ。2023年4月の区長選で保守が分裂したものの、当選は保守系だったが公選法違反事件で辞任し、12月の次の区長選は、小池都知事の都民ファーストの会が自民党と組み、都の現職部長の候補が当選した。

 1年で2回も区長選挙(2023年4月、12月)とは前代未聞。余波は続いており、特に区議会はあと少しの欠員で「補欠選挙」の可能性もありそうだ。

御三家「2世」の駆け引きと勢力争いはまさに「三国志」
 江東区では、3つの保守系陣営が勢力争いや区長獲得の駆け引きを繰り広げてきたことから「御三家」による「三国志」などと揶揄されてきた。
 「御三家」とは封建時代さながらだが、柿沢家=元外相の柿沢弘治氏(長男・柿沢未途氏)、木村家=元衆院議員の木村勉氏(長女・木村弥生氏)、山崎家=元区長の山崎孝明氏(長男・山崎一輝氏)を指す(順不同)。そして、どこの「2世」も期せずして“時の人”になった。
 彼らの関係が分かりにくくなってきたのは、柿沢未途氏の動きによる。彼は23年4月の区長選でライバルともいえる木村弥生氏の支援に回った。さまざまな政党に所属してきたことで有名な柿沢未途氏は、自民党への入党を希望していたが、山崎一輝の父、孝明氏の反発で、2人の関係にはしこりがあったという話がある。そして、柿沢家と木村家が手を組んで山崎家に対抗する構図ができあがったということのようだ。

不祥事に、少なくとも10人の名前。代議士も、区長も、区議も
 江東区で最近の有名になった不祥事には、保守系の政治家や国会議員、区長、区議など少なくとも10人が登場するが、浮かび上がってくるのはやはり「政治とカネ」。以下に不祥事議員・政治家らの罪状や有りさまを紹介する。(原則として敬称略)
(注)区長選、都議補選で当選ならずの山崎一輝に関しては、区内にある都立のゴルフ場の優先利用問題で情報公開請求が出されているが、公開がないままのため、この小論では扱わない。

▼秋元司=元衆院議員。ワイロ受領で有罪も、議員辞職せず
 2004年の参院選で自民党公認、初当選。12年から衆院議員を務め、カジノを含む統合型リゾート(IR)事業参入を目指す中国企業側から、現金や旅費など計約760万円の賄賂受領の容疑で内閣府副大臣だった19年12月に逮捕され、自民党を離党した。保釈中の20年には、贈賄側に計3500万円の提供を申し出て、裁判での偽証を依頼。
 収賄と組織犯罪処罰法違反(証人買収)の罪に問われた東京高裁での控訴審判決(24年3月22日)では懲役4年、追徴金約760万円とした一審・東京地裁判決を支持し、無罪を訴えた控訴を棄却。議員辞職はしていない。
 収賄の有罪判決が確定しない限りは立候補できるため、衆院東京15区の補欠選挙(4月28日投開票)に無所属で立候補し、落選。
 なお、秋元事務所は江東区役所の真正面のビルの1階。この光景が江東区の現在の様相を象徴していると、批判的な区民は多い。

▼豊嶋晃弘=秋元の元政策秘書。収賄罪の共犯
 秋元の収賄罪の共犯に問われ、無罪を訴えていたが、一審で懲役2年、執行猶予4年の判決への控訴も、東京高裁は24年3月に棄却した。

▼柿沢未途=元衆院議員、元法務副大臣。公職選挙法違反の有罪確定、公民権停止
 23年4月の江東区長選挙(1回目)をめぐり、区議会議員など10人に選挙運動の報酬として約280万円を提供したり提供を申し込んだりしたほか、インターネットに木村弥生前江東区長への投票を呼びかける有料広告を掲載させたとして、公職選挙法違反の買収などの罪で、今年3月21日、懲役2年、執行猶予5年の有罪が確定。
 公職選挙法の規定で、5年間、公民権が停止され、すべての選挙に立候補できなくなる。2月1日に議員辞職。

▼木村弥生=元衆院議員、元区長。23年4月、この年の1回目の区長選で初の女性区長として当選するも辞職
 元衆議院議員の木村勉の長女、木村弥生は同年4月の区長選で当選したものの、元区議への現金100万円や、投票呼びかけの有料ネット広告動画掲載の公選法違反容疑で捜査を受け11月に辞職、今年6月に東京地裁で有罪判決。。
 それまで現職の山崎孝明区長は5選を目指し立候補を表明していたが、23年3月末、体調不良を理由に引退し、告示4日前に亡くなっている。
 (注)木村弥生・前区長の辞職に伴い2度目の区長選は、23年12月に行われ、自・公・国民・都民ファ推薦の東京都の部長、大久保ともかが当選。

▼千田(せんだ)昌寛=区議、日本維新の会。区議選で公選法違反、区議辞職
 23年4月の江東区議選の選挙運動期間中にフェイスブックなど3種類の交流サイト(SNS)で投票を呼びかける有料広告を掲載したとして、公選法違反の疑いで今年3月に書類送検。議員辞職はしていない。

▼西垣誠、米沢和裕、星野博=自民の3区議。区長選の買収事件で辞職勧告されたが辞職せず
 23年4月の江東区長選を巡る買収事件で、江東区議会は今年2月21日、前法務副大臣で元自民党衆院議員の柿沢未途被告側から現金を受け取ったとして、公選法違反(被買収)の罪で在宅起訴された区議3人の辞職勧告決議を賛成多数で可決した。勧告に法的拘束力はなく、3人はいずれも辞職しない意向を表明し、起訴後に自民党を離党し、新会派「江東清風会」を結成した。
 決議案は「自民・参政・無所属クラブ」と、公明、共産の3会派が合同で提出。本会議での採決前に弁明があり、西垣区議は「起訴は暴挙であり怒り心頭」、米沢区議は「区民には誠心誠意説明したい」、星野区議は「自民党議員からの陣中見舞いは慣例」とそれぞれ訴え、裁判が続いている。

▼重松佳幸=元区議。公選法違反で区議辞職
 前区長(木村氏)が公職選挙法違反で辞職に伴う23年12月の区長選で公選法違反の疑い(個別訪問)があったとして、江東区議会の自民党系会派に所属していた重松が今年(24年)1月に書類送検。7月16日付けで区議辞職。

入札情報漏らし。議会有力者らに逆らえない区職員
▼榎本雄一=議長もつとめた元区議。あっせん収賄で区議辞職
 8期連続で当選し、議長を5回務めたベテラン議員。江東区発注の清掃管理業務の委託契約の指名競争入札を巡り、区職員に情報を漏らすよう働きかけた見返りに一つの業者から現金30万円を受け取ったとして、あっせん収賄の罪に問われる。2023年9月、東京地裁は懲役1年6月、執行猶予3年、追徴金30万円の判決。22年10月に区議辞職。
 榎本裁判では、入札情報を漏らしたとされる元経理課長が、日常的な区議側からの働きかけの一端を明らかにした。榎本被告への漏えいについて「不正なことだと分かっていたが、議長先生に何度も聞かれた。追い詰められた」と語った。

入札の指名業者推薦、「区議の3分の1が働きかけ」の証言も
 働きかけ議員の数について、元経理課長は20年度に区議(定数44)の10数人に当たる「3分の1程度」から働きかけがあったと証言した。
 裁判傍聴者の一人は、「榎本は皆がやってきたと証言し、悪びれていない」「職員は有力者の言うことを断れない状況が続いてきたのではないか。氷山の一角か」と、感想を話してくれた。

入札情報漏れを受け、江東区が幹部職員にアンケート
 榎本事件の後、江東区は部課長級職員92人を対象にしたアンケートの結果を公表(22年10月)。1割を超す10人が、この3年間で議員から契約に関する秘密情報を漏らすよう要請されたことがあると答え、契約関係以外では、この3年で「議員から威圧的な働き掛けや不当な要請があったか」との問いには、21人が「ある」と回答。区の指名競争入札などに関する秘密情報が「入札前に外部に漏れていると感じた(またはうわさを聞いた)ことがあるか」という質問には、7人が肯定した。

 私は思う。議員は行政を監視して律する立場にあるにも拘わらず、秘密情報を聞き出して不正に使うなどは言語道断。水面下で保守系議員を中心に悪しき慣例となっているのであれば、徹底してウミは早く取り除くべきではないか。

区議の欠員は現在4人。「不祥事」4人が辞めれば補欠選挙
 区議の欠員は現在、計4人。「辞職」は重松佳幸の1人。(榎本は22年10月に辞職しており、今の区議会の欠員とは無関係)
 そして、各選挙への立候補に伴う区議の「自動失職」が3人。23年12月の区長選への立候補による失職は、酒井なつみ氏(その後の衆院15区補選当選。立憲)、三戸安弥氏(その後の都議補選当選。無所属)。都議補選(今年7月)立候補は、大つきかおり氏(共産)。議会活動など活発で有能と誰もが認める、いずれも女性の区議が3人もいなくなっていることに、江東区民は目を向けるべきだと、私は思う。
 区議会が単独で補欠選挙となるのは、欠員が定数(江東区は44人)の6分の1以上であることが必要で、江東区では8人以上。不祥事を起こした元自民3人(西垣誠、米沢和裕、星野博)と、維新の千田昌寛の計4人の区議が辞職すれば8人になるのだが…。

 私が以前に商店街関係の自民区議(複数)に聞いたことがあるが、「ボス」クラスではないからなのか「お金に汚いと言われている(同僚)議員はいる。仕事も忙しく、区議を辞めたいが、員数合わせもあるので辞めさせてくれない」という嘆き節も出た。国会議員も都議も、区議も首長も税金が原資の歳費を受け取っている政治家であることは間違いない。世の中を明るく過ごしやすくするという理念や矜持は無いのか!と言ってやりたい。

 以上、呆れよりも憤りの蛇足。「辞めぬなら辞めさせようか暑し空」

初出:「リベラル21」024.09.10より許可を得て転載
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〈記事出典コード〉サイトちきゅう座 https://chikyuza.net/
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