中国経済――世界の工場から外資企業の撤退へ

        ――八ヶ岳山麓から(501)――

 中国共産党は12月9日の中央政治局会議に引き続いて同月11~12日 来年の経済政策方針を決める「中央経済工作会議」を開いた。
 両会議は、2024年の経済運営は外圧の増大と国内の困難の増大という複雑で厳しい状況下ではあったが、全体的に安定し、経済・社会発展の主要目標・任務は達成しつつあると評価した。
 その一方で、「中央経済工作会議」は外部環境による悪影響が深刻化し、多くの困難と課題に直面しており、内需の不足、一部企業の経営難、国民の雇用・収入増加が思うように進まず、経済へのリスクは依然存在するとした。 

 これをふまえて、2025年の経済の基本方針としては、経済の安定成長を維持すること、雇用促進と物価安定、国際収支のバランス、民衆の収入増を図る。積極的な財政政策に加え、「適度に緩和的」な金融政策により、財政・金融ともに緩和を進めるとした。
 その重点は、消費を強力に拡大し、投資効率を高め、全面的に内需を拡大する。中低収入層の収入増と負担減をはかり、都市と農村の基礎年金の増額、医療保険の財政補填の水準を高める。そして設備更新策と買い替え促進策の範囲拡大などによる内需拡というものであった。
 もちろん、科学技術革新により新たな質の生産力の発展を導き、現代化された産業構造を構築する。基礎研究、コア技術の開発強化、人工知能(AI)や未来産業の育成のほか、過度な競の是正なども挙げられた。

 中国政府は、経済対策を強化するための財源として、24年から新たに1兆元(23年のGDP比で約0.8%に相当)の超長期特別国債の発行枠を設けた。しかし、デフレ傾向から脱出できていない。実質GDP成長率は、2024年1~3月は前年同期比+5.3%だったが、4~6月は同+4.7%まで減速し、後半のなりゆき次第では通年目標の「+5%」は危ないものとみられている。
 最大の要因は、長期化する不動産不況だ。不動産販売床面積は、22年から23年にかけて前年割れとなり、不動産投資は24年1~11月の対前年比は10.4%減少した。外資企業による中国への投資は、対前年同期比27.9%減、さらに地方政府の土地使用権売却は22.9%減となった。
 国家統計局は、11月の経済統計を発表したが、若者(16~24歳)の失業率は依然高く16.1%。消費者物価指数CPIは対前年同期比0.2%上昇はしたが、伸び率は鈍化している。鉱工業生産指数PPIは2.5%の下落で、26ヶ月連続している。地方政府は、教育・医療・治安・水道・電気、さらには公共交通までを賄わなければならないが、不動産不況から来る財源不足のために、かなりの地方でそれは困難になっている。伝えられているところでは、教員・公務員の賃金の遅配・未払いのため、ハンストも生れている。中国経済は、数値が示すよりも、もっと深刻なデフレに落ち込んでいるのではないだろうか。

 ありていにいえば、中共中央がGDP成長目標を5%と決めたとき、省・市・県・郷鎮の各レベルの地方政府は、よほどのことがない限り、5%未満の数値を上級に上げることはあり得ないのである。中央統計局は、地方からの数値に水増しがあることを承知で、しかるべき数値を公表している。
 というのは、前国務院総理の故李克強は、かつて公表されたGDPよりも信頼できる数値として「電力消費量、鉄道貨物輸送量、銀行融資残高(いわゆる李克強指数)」を挙げたことがあるが、統計の正確さは今日でも根本的に改善されているとは思えないからである。

 失業統計を例にとると、先の若年層の失業率は、3カ月ぶりに低下したという。だが、この数字こそ怪しい。農民工はこの統計の対象ではなく、都市に仕事がなくて帰郷した学生は失業とはみなされない。だとすれば、全国の失業者はこの2倍あるいは3倍に上るかもしれない。というのは、どこの国でも労働者の大部分は中小企業が雇用するものだが、中国ではコロナ禍による都市封鎖のために倒産した600万が、はかばかしく復活していない。これは都市の裏通りを歩くと誰でもわかる。
 さらに細かいことをいうと、大学官僚は行政成績を上げるために、学生の失業数値を下げようとして企業からの就職証明書なしには、学生に卒業証書と学士号を与えないとする。学生はしかたなく企業に頼み込んでニセ証明を出してもらう。企業のほうもこれを心得ていてニセ証明書を有料で発行する。
 大学官僚は、それでも未就職学生が多い専攻学科に対しては、次年度募集定員を減らすか募集をやめると通告する(中国では教師よりも大学の職員=官僚の方が地位が高い)。教師らはそうされてはたまらないから企業に学生のニセ就職証明書の発行を頼みこみ、就職成績を上げようとするのである。

 しかし、統計以前に中国経済の不況を確実に示す指標がある。外国資本の中国撤退である。関志雄氏の10月の論文「加速する外資企業の中国撤退」から拾うとこんな状況である(https://www.rieti.go.jp/users/china-tr/jp/)。
 中国国内における乗用車販売台数に占める中国ブランドのシェアが上昇する一方で、外国ブランドのシェアは急激に減少している。スズキは、2018年に「昌河鈴木」と「重慶長安鈴木」の二つの合弁事業を解消し、中国市場からの撤退を決断した。韓国の現代自動車は、北京第1工場を2021年に売却し、重慶工場も2023年12月に重慶市政府系企業に売却した。河北省の滄州工場も近く売却する方針である。
 日本製鉄は、2024年、日系メーカー向け自動車用鋼板を提供する中国の宝山鋼鉄との合弁会社から撤退すると発表した。
 フランスのカルフールは、近年、中国のeコマース大手の急成長や現地小売チェーンとの競争激化により、市場シェアを失い続けている。2019年カルフールは中国の蘇寧易購集団に中国事業の株式の80%を売却した。テスコは2020年合弁会社の持ち株すべてを華潤創業に売却し、中国市場から完全に撤退した。
 ロッテ百貨店は、海外展開の軸足をインドネシアとベトナムに移した。三越伊勢丹ホールディングスも、中国事業を大幅に縮小している。同社はかつて6店舗を運営していたが、現在、天津市の商業施設「仁恒伊勢丹」のみとなっている。

 関氏は「(外資の中国撤退は)外資企業にとって、中国が生産基地としてだけなく、市場としての魅力も薄れていることを反映しているという。その背景に「米中対立に加え、経済成長の鈍化に伴う消費の低迷、賃金をはじめとする生産コストの上昇、安全保障に関わる規制強化、現地企業との競争の激化、グローバル・サプライチェーンの再構築、そして排外感情の高まりなどがある」という。
 そして、「中国における外資撤退は、電子機器などの輸出型産業にとどまらず、情報技術(IT)、自動車、小売といった内需向け産業にも及んでいる。こうした中で、中国に代わる投資先としてASEAN諸国やインドといった新興国が注目されている」
 
 では、中国当局は、どうすればよいのか。わたしのように情報も少ない素人でも感じるところはある。
 庶民の財布のひもを緩めさせ消費性向を高めるためには、賃上げと年金・医療など福祉制度の充実、地方政府の赤字を解決するためには不動産市場の立て直し、国家の赤字対策には財政制度の再編、さらにトランプの関税政策には対米関係の緊張緩和、なによりも国有企業への優遇策を減らし、民営企業に余計な手出しをしないことである。
 
 しかし、李克強のような経済のよくわかった人物がいないといわれる習近平政権の現状では、言うは易く行うは難い。中国がこのまま日本型の「失われた30年」に陥るとすれば、中国依存度の高い日本経済は必ず深刻な打撃を受ける。その対策は、しかるべき企業はすでにやっているだろう。今さら私ごときが云々すべきではないが。
                             (2024・12・22)

 

 

初出:「リベラル21」2024.12.24より許可を得て転載
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