「がんばろう共産党」のスローガンでは党組織を再生できない、日本共産党第4回中央委員会総会報告を読んで、共産党はいま存亡の岐路に立っている(その47)

日本共産党第4回中央委員会総会(4中総)の報告を読んでいたとき、朝日新聞の「『がんばろう神戸』から30年 エールは今」(1月13日)というルポルタージュ記事が目に留まった。趣旨は、「がんばろう神戸」のスローガンが阪神・淡路大震災で被災地から社会に発信されて間もなく30年になる。「がんばろう」という言葉への受け止め方がどう変化したのか。災害の現地に探った――というもの。神戸だけでなく、東日本大震災の石巻市や能登半島地震の穴水町の声も拾った記事だが、私にはこの声を読み解いた2人の研究者のコメントが深く心に残った。

――「がんばろう神戸」のスローガンを目にしたのを機に、言葉と社会の関わりを研究してきた帝京大学の大川清丈教授(比較社会学)は、「高度成長やバブルを経て、『がんばれば報われた時代』が終わりかけていたとき、阪神大震災が起きた」と解説する。「苦難の共同体」は、「がんばろう」の有効性を一時的に復活させた。「だが、その後は、がんばっても報われない『失われた30年』だった」と読み解く。

――大阪大学の村上靖彦教授(哲学)は、「『がんばろう』の言葉は、個々の困難な状況を見えなくして、我慢を強いる作用を近年まとってしまった」と指摘。社会の格差が広がるなか、「がんばろう」のもつ「丸投げ度」が年々重くなっていると感じている。「いま必要なのは、個々の切実さに根ざした、もっと肌感覚に沿った言葉ではないでしょうか」。

なぜ、2人の研究者のコメントが心に残ったかというと、「がんばろう神戸」のスローガンと共産党の4中総全体に流れる「がんばろう共産党」のスローガンが余りにもよく似ているからであり、また私の受け止め方も2人の研究者とまったく同じだったからである。志位議長の中間発言は、党活動の基本的構えとして、一つは「選挙勝利の活動と党づくりの活動の一体的追求」、もう一つは「毎月の党勢拡大の前進と党の総力をあげての世代的継承の一体的追求」をあげている。少々長くなるが、具体的にはどういうことかを抜粋しよう。

――決議案にもありますように、従来、私たちの声が届いていた範囲の活動の繰り返しでは、国民の中に起こっている新しい変化を党の前進に実らせることはできません。総選挙のたたかいを振り返りますと、広大な無党派の人々、若い世代の中に私たちの声が届いていない、声が届いていないから日本共産党ははなから選択肢に入らない。そういう人々には、これまでの活動の繰り返しでは私たちの声が届かない。それにくわえて、名簿が少ない、細っていく、電話がかからない、などの問題があります。
それでは、新しい層への結びつきをどうやって広げていくか。ここで「要求対話・要求アンケートで新しい結びつきを広げる」という新しい活動方法に挑戦し、これを選挙活動と党づくりを一体的にすすめる「大きなカナメ」の活動として位置づけようじゃないかということを決議案では打ち出しました。

――もう一つの一体的追求は、党勢拡大の問題です。毎月の党勢拡大の前進と党の総力をあげての世代的継承の一体的追求です。ここでまず大事なことは、決議案が毎月毎月の前進のために独自追求をはかることが絶対に不可欠だと強調していることです。「要求対話・要求アンケートで新しい結びつきを広げる」という戦略的大方針は、党勢拡大でも新しい大きな前進の条件をつくることになります。しかし、それだけで自動的にこの課題がすすむことはありません。独自追求が絶対必要になります。これを欠いたら、あっという間に党は大きく後退してしまいます。
同時に、世代的継承の問題は党の現在と未來にとって文字通り死活的に重大な課題となっています。世代的継承のとりくみは、本当に緒についたところで、このままでは党の未来は開けないという状況の中で、どうやってこれを毎月毎月の拡大と一体的にすすめるか。ここでの一体的追求については、「二つのカギ」という提起をしています。

――一つ目の「カギ」は、世代的継承について何よりも大事なことは、担当者や担当部門まかせにするのではなく、党機関や党組織の長が先頭に立って党をあげてのとりくみにしていくことです。もう一つの「カギ」は、短期の目と中長期の目、両方の目で党の活動にとりくんでいくということです。短期の目で執念をもってがんばることなしに前進は絶対にかちとれません。同時に、中長期の目を大事にする。世代的継承のとりくみは、すぐには党勢拡大に実らないことも多い。しかし、とりくみを通じて人間的信頼関係ができた、結びつきができた、これは一つひとつが財産になります。
決議案は結びの部分で、選挙勝利と党づくりを一体的に前進させる「最大の保障」となるのは、全支部・全党員がたちあがる運動にすることにあると訴えています。これが決議案全体をやりぬく「最大の保障」なのです。それ以外に道はありません。

この部分だけを読めば、「その通り」だと言えるのかもしれない。だが、決議案には次のような厳しい現実も指摘されている。

(1)自力の不足の深刻化が党活動の量的レベルのみならず質的レベルにまで影響を及ぼしている。総選挙は前回比で党員数は93.2%、日刊紙読者は88%、日曜版読者は84.9%でたたかったが、宣伝・組織活動はそれ以上に落ち込み、「選対体制がつくれない」などの事態も生まれている。
(2)総選挙では、得票目標決定支部は7割、3中総の討議支部は6割、読了党員は2割強にとどまった。
(3)党大会以来、党員拡大は毎月2千人の入党者を迎えることを目指してきたが、昨年1年間で4400人を迎えただけで現勢での後退が続いている。読者拡大でも党大会時の現勢から後退傾向になっており、前進の軌道に乗せられていない。世代的継承は、青年・学生党員ではこの1年あまり現勢をほぼ維持しているが、青年・学生・労働者、真ん中世代の党員拡大は、党大会で決めた「5カ年計画」の目標の水準には大きく届いていない。

また「しんぶん赤旗」の発行を守るためとして、次のような訴えも出されている。
――いま、「赤旗」の経営が大変厳しい事態にあります。日刊紙は、年間十数億円の赤字であり、日曜版の読者数も後退が続いています。「赤旗」の発行を守るために、現在、日刊紙、日曜版、電子版合わせて80数万人の「赤旗」読者を100万人にするために力を貸してほしい。もう一つは、今年1年間に10億円の「赤旗」支援募金をお願いしたい。

このような党組織、党活動の厳しい現実と、「あれもこれも」と指令を出す志位議長の中間発言との間には〝天と地〟と言っていいほどの大きなギャップがある。従来の党活動の延長では、広大な無党派や若い世代に共産党の声が届かないことは事実だが、だからと言って、現在の党組織・党活動の自力からして「要求対話・要求アンケートで新しい結びつきを広げる」という新しい活動方法を提起することが果たして適切なのか、実現可能なのか、疲弊させるだけではないのか――という疑問が拭えないからである。

「3中総の読了党員が2割強」「総選挙での選対体制をつくれない」という疲弊した党組織の現実を無視して、志位議長が「選挙勝利と党づくりを一体的に前進させる『最大の保障』となるのは、全支部・全党員がたちあがる運動にすることにある」「それ以外に道はありません」と絶叫するのは、これまで何度も指摘してきたように、劣勢な戦況を無視して〝バンザイ突撃〟を繰り返して全滅した日本軍の戦法にほかならない(『失敗の本質~日本軍の組織論的研究~』中公文庫、表紙には「大きな声は論理に勝る」「データの解析がおそろしくご都合主義」とのキャチコピーが掲載されている)。

このような「それ以外に道はない」といった退路を断つ戦法は、冷静な判断をする参謀が(誰も)いなくなった組織の司令官が陥る「罠」や「落とし穴」であって、司令官が無能であり独善的であればあるほど「罠」や「落とし穴」は大きくて深くなる。今回の4中総は「全会一致」で決定され、異論を唱える中央委員がただの一人もいなかったというのだから、党中央そのものが深くて大きい「罠」「落とし穴」の中にすっぽりと嵌まっているのだろう。

共産党の党勢の推移を振り返るとき、30年前の第20回党大会(1994年7月)から現在まで、党員は36万人から25万人弱へ、赤旗読者250万人から80数万人へと右肩下がりで減少してきている。しかも党員の年齢構成(2024年現在)は、65歳以上の高齢者が3分の2近くを占めているというのだから、活動量は当時に比べて飛躍的に落ちていると言わなければならない。大川教授の言を借りれば、高度成長やバブルを経て「がんばれば報われた時代」が終わった今、「がんばろう共産党」は党勢を一時的に復活させたが、その後は、がんばっても報われない「失われた30年」になった――ということではないか。

村上教授が指摘する「がんばろう」という言葉の解釈にも重いものがある。この言葉は「個々の困難な状況を見えなくして、我慢を強いる作用を近年まとってしまった」とあるように、志位議長の中間発言は党組織が直面している個々の困難な状況を見えなくして、党組織にただ我慢を強いるだけの言葉に転化している。「いま必要なのは、個々の切実さに根ざした、もっと肌感覚に沿った言葉ではないでしょうか」との教授の指摘は、志位議長にはどうやら通じないらしい。

東京都議選と参院選が真近に迫っている。4中総全体を覆う「がんばろう共産党」の言葉がどれだけ効果を発揮するかは、選挙結果が仮借なく示してくれるだろう。主権者である国民そして有権者が判断を下す選挙結果は、政党活動に対する総合評価であって決して恣意的なものではない。国政選挙や地方選挙での敗北の原因をもっぱら自力不足や選挙戦術の拙さに転化し、党中央が新しい戦略戦術を打ち出せば選挙戦に勝利できるなどというのは〝幻想〟にすぎない。進路変更が効かない船はいずれ氷山にぶつかって沈没する運命が待っているだけなのである。(つづく)

初出:「リベラル21」2025.01.16より許可を得て転載

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