戦争準備をやめ、軍縮への大転換を ―― 安保法制10年にあたって


1.安保法制は日本の姿を変えた
2025年9月16日
平和構想研究会
2015年9月19日、国会の内外で反対と抗議の声があがる中で、安保法制(安全保障関連法案)は強
行採決された。それから10年が経過する。
この10年間に、日本は、確実にその姿を変貌させてきた。
安保法制は、集団的自衛権の行使をはじめ、憲法が禁じたはずの戦争の準備を「解釈改憲」によって解禁し、日本を「戦争できる国」にしようとする法整備であった。
以来、軍事費の増大と米国製兵器の「爆買い」、各地の基地機能の強化、沖縄・辺野古や琉球弧での基地建設の強行、外国軍との共同演習の増加など、戦争への準備が進められてきた。
この流れを加速させたのが、2022年12月、岸田政権のもとで閣議決定された「安保3文書」である。これにより、法的に「戦争できる国」から、実際に「戦争する国」へと準備が進められてきた。重要土地規制法、経済安保推進法、防衛生産基盤強化法、経済安保情報保護法、能動的サイバー防御法などが次々に整備され、スパイ防止法の制定さえ企てられている。また、日英伊で共同開発する次期戦闘機の第3国輸出や豪州への軍艦輸出など、殺傷武器の輸出も解禁された。

2.急速に進む臨戦態勢づくり
現在、沖縄・九州各地、山口や広島、京都などの西日本で、自衛隊と米軍の基地機能の強化やミサイル配備、弾薬庫の増設などが急速に進められている。そして、熊本と静岡を皮切りに「敵基地攻撃」ミサイルの全国配備が始まろうとしている。
宮古諸島や八重山諸島からなる先島地域では「台湾有事」を念頭に全島避難の計画がつくられ、避
難シェルター建設も計画されている。さらに、日本各地の民間空港・港湾においても、軍事利用を前提とした整備が始まっている。
しかし、戦闘が始まってしまえば避難計画の実行は困難であるうえ、シェルターも直撃弾による被害を防ぐものではない。基地近隣の住民に被害が出ることを事実上前提として、臨戦態勢づくりが進められているのだ。
9月11日には、陸上自衛隊と米海兵隊による国内最大規模の実動訓練「レゾリュート・ドラゴン25」が沖縄県内と九州、北海道などで始まった。石垣島に米海兵隊の無人地対艦ミサイルシステム「NMESIS(ネメシス)」と短距離防空システム「MADIS(マディス)」が初めて展開されるほか、岩国にはトマホークを搭載できる米陸軍の中距離ミサイル発射装置「Typhon(タイフォン)」が初展開される。防衛省が借り上げた民間船も患者輸送訓練のため初めて使用される。
「西太平洋の有事において最前線は日本が担う」とヘグセス米国防長官が明言しているとおり、まさに米国との集団的自衛権の行使を前提として、南西地域における戦争準備が進められている。

3.大軍拡と戦争準備は平和と生活を破壊する
このような急速な軍拡と戦争準備は「抑止力を高めるため」と説明されているが、実際には、中国や北朝鮮との関係悪化を助長し、むしろ戦争のリスクを高めている。各地の基地は攻撃対象となり、戦争となれば犠牲となるのは市民である。
軍事費の際限なき増大は、物価高騰や賃金停滞により多くの市民の生活が逼迫する中で、本来なら
ば市民生活を応援するために使われるべき社会福祉や医療、教育などの関連予算を圧迫している。
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しかし、2025年度の防衛関連予算の総額は過去最高の9兆9000億円に達し、GDP(国内総生産)比
はすでに1.8%にまで至った。2026年度はさらなる増額が準備されている。米国のトランプ政権は、さらなる軍拡と米国製兵器の購入へ圧力をかけてきており、アジアの同盟国は軍事費をGDP比5%に増やせと公然と求めている。
その一方で、国立大学への運営費交付金は削減されており、日本は、公的支出における教育費の占
める割合がOECD(経済協力開発機構)加盟国中4番目に低い水準である。基礎的な教育・研究がおろそかにされたまま、武器購入や軍事研究にばかりお金が回されているのだ。
政府は「安保3文書」を前倒しで改定することも計画している。日本の軍拡がさらに進めば、それは周辺国を刺激し、アジアでの、そして世界的な軍拡競争をも引き起こす。

4.転換は可能だ
大軍拡と戦争準備の悪循環は、断ち切らなければならない。軍縮への大転換が必要である。平和外
交を基軸として、アジア地域の緊張を緩和し、戦争を防ぐ道を進むべきである。世界の国々が自国中心主義に陥り、国際法を無視した動きに走っている今だからこそ、日本はそれと一線を画した平和政策を内外に打ち出すべきである。
かつての侵略戦争への反省をもとに、日本の市民が80年間にわたって育んできたこの国の平和主義
は、今その真価が問われている。
その転換のための足がかりは、主に3つある。
第一に、明確な平和主義を定めた日本国憲法の前文および憲法9条の存在である。日本政府の進め
る戦争準備は、国権の発動たる戦争と武力の行使・威嚇を「永久に放棄」したはずの憲法に明らかに反している。米国は国防総省を「戦争省」に改称しようとしているが、「戦争放棄」を憲法で掲げる日本が、そのような米国と完全に共同行動をとれるはずがない。
第二に、憲法9条と平和主義の歩みを支持し、武力ではなく平和的な紛争解決を求める強い世論の存在がある。この世論を背景にした住民運動・平和運動の存在が、戦争準備への歯止めとなっている。今年2月には「戦争止めよう!沖縄・西日本ネットワーク」が発足した。8月の与那国町長選で、これ以上の自衛隊強化に慎重姿勢の町長が当選すると、これに配慮して「レゾリュート・ドラゴン25」で予定された訓練の一部が取りやめになった。
第三に、外交関係においては、近隣諸国との緊張関係を改善し安定的な関係を構築することこそが
求められる。台湾海峡においても朝鮮半島においても、危機を回避し武力紛争を発生させないことが肝要である。そのための外交努力は、政府、自治体、民間レベルで多層的に展開可能である。
東アジアで再び戦争を行なうことを、私たちは拒む。
戦争への道を阻んでいた外堀はすでに埋められ、内堀も埋められつつあるが、まだ軍縮への大転換
は可能である。安保法制の10年にあたってその意志をあらためて確認し、軍縮と平和外交のための政策論議を呼びかける。
以上
平和構想研究会 https://heiwakosoken.org/ 
連絡先 shudantekijieiken@gmail.com

〈記事出典コード〉サイトちきゅう座 https://chikyuza.net/
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