イスラエル問題をめぐっては諸々の論点がある。だがここではそれらには触れず、問題の根本だけ述べる。諸々の論点をめぐるレトリックではなく、ごくごく単純なことである。
直近の情勢は、実に悲惨きわまりなくはらだたしい。戦争犯罪人ネタニエフとそれを支援するトランプは、当人同士で勝手に合意した20項目提案なるものをうちだした。だがこれは提案ではない。圧倒的な暴力とそれによる大虐殺・ジェノサイドによって、のむかのまないかと相手を脅迫する一方的な通告である。のまないならさらなる大虐殺で「地獄を見るぞ」(トランプ)と恫喝している。
◆大量虐殺を可能にするのは人種差別主義=植民地主義
そして、この恫喝が行われるなかでも、ガザにおけるホロコーストはやむことなく続いている。ガザはパレスチナ人の大量の血で染まっている。大量の血は、無慈悲な爆撃、砲撃によるガレキと粉塵、流された血をけっして放映しないマスコミによって隠蔽されている。ガザの子供は頭を吹き飛ばされた親の遺体を運んでいる。自らも爆撃によって体をバラバラに引き裂かれ肉片にされている。6万6千人の死者以外にも破壊されたビル・施設のガレキの下には大量の死者が埋まったままだ。そして、この大量虐殺は世界中が眺めるなかで平然と行われている。ここからはっきりと浮かび上がってきたものは何であろうか? 彼らシオニストはパレスチナ人を「けだもの、人間動物」と蔑んでいる。
それはイスラエルがかかえる本質すなわち人種差別主義=植民地主義だ。それがあからさまに現れたのだ。まさに無法者国家、ならず者国家である。
同時に浮かび上がってきたのは欧米がかかえる深い病理である。「ユダヤ人問題」はなんら克服されておらず、であるからこそ、とりわけ欧州は思考停止状態にある。この思考停止状態が無法者・ならず者国家をやりたい放題にさせ、目の前の大虐殺にもかかわらずイスラエルへの軍事支援を続けさせてきたのである。
◆問題解決の本筋はイスラエル解体――この当たり前を確認せよ
では、21世になっても世界で唯一植民地を拡大するイスラエルについて、この民族浄化をめざし大虐殺を平然と行うイスラエルについてどう考えるか? イスラエル問題解決の本筋は何か?
単純なことである。このならず者国家を解体することである。それが問題解決の本筋中の本筋である。これがいかに非現実的であると思われようとも、この本筋中の本筋が基本になければ問題の根本解決につながっていかない。戦争機械イスラエルの70年以上の存続、いや一層の軍備拡大という既成事実が押し付けられても、それだからこそイスラエル解体の声をあげなくてはならない。
◆ホロコーストと非道きわまるイスラエル建国は欧米、ロシアの責任
イスラエル解体にあたっては、「ユダヤ人問題」をつくり出し、ナチによるホロコーストを引き起こし、それによって非道・不当なイスラエル建国にいたった責任をとらせること、これが基本になる。
その責任をとるべきは、もちろん欧米とロシアである。何といおうが、「ユダヤ人問題」をつくりだしたのは欧州とロシアなのだ。そしてイスラエル建国に指導的役割を果たし、その後も植民地主義のイスラエル支配層を支えたのは米国である。その責任を負うのは当然である。責任を明確化しない「パレスチナ・イスラエル2国家共存」は欺瞞である。
◆欺瞞・虚偽は単純な問いですぐわかる
この欺瞞は最も単純な問いですぐわかる。
「パレスチナ人にホロコーストの責任はあるか?」 答えは「ない」。
「ホロコーストに責任のないパレスチナ人が、なぜホロコーストの責任のツケを払わなくてはならないのか?」 答えは「払う必要はない」。
このきわめて単純な応答を否定できるものはいない。しかし、この単純な応答それ自体が浮上しないように抹消してきたのが、欧米の思考停止である。そして思考停止がどこから来たかと云えば、世界は欧米から成りたっており、それ以外は世界ではないというヨーロッパ文明中心主義からである。だからこそ「世界にふくまれない」パレスチナへの汚らわしいツケの押し付け・強制が可能になったのだ。
◆解体イスラエル国民三分の二は欧米が、三分の一はロシアが引き取れ
解体したイスラエル国民は欧米とロシアが引き取るべきである。国民950万人のうち、パレスチナ人約200万人を除く750万人を引き取り移住させて、面倒を見るべきは欧米とロシアである。おおまかに750万人の三分の二は欧米が、そしてロシアが三分の一を引き取るのが適当であろう。これによってイスラエル問題、ユダヤ人問題は解決する。これが暴論にきこえるのは初めから不当・非道な既成事実を認めてしまっているからだ。もともと、これらイスラエル国民は欧米各国に居住していた者達が侵略・移住して形成された。それはパレスチナ・アラブ人を弾圧、虐殺、追放して(ナクバ)土地を収奪して形成された。これが問題の根底である。だから双方が元の居住地域に帰るだけのことである。中東の平和はこれによってこそもたらされる。これが根本だ。
◆責任の所在 欧州、ロシア、米国
ヨーロッパとりわけドイツはホロコーストへの責任を深刻ぶった哲学的言辞で表明してきたが、今回のガザ大虐殺によってその欺瞞がはっきりした。真の反省があるならば、その反省にのっとりイスラエル国民をひきとりユダヤ人問題が解決したことを示すべきであろう。英仏についていえばその帝国主義がそもそもの問題の発端をつくったのだ。EUはここで真価を発揮すべきだろう。欧州各国への責任の配分=引き取り人数の決定である。これによって欧州のユダヤ人問題解決の度合いが示される。
ロシアは周知のごとくポグロムである(ちなみにかってのロシアにはユダヤ人の大半が住んでいた)。 ロシア支配地域におけるポグロムがシオニズムを生みだした。だが、シオニズムは近代ナショナリズムに汚染されたものでしかなく、その本質はユダヤ教の教えに背いた単なるナショナリズムにすぎない。シオニズムは反ユダヤ教=反ユダヤ主義なのだ。そしてロシア出身シオニストの指導層は恥ずべきイスラエル建国で中心的役割を果たしたのである。この流れをつくった元凶はロシアのポグロムである。
米国は欺瞞的な国連のイスラエル国家承認でリード役となった。そしてイスラエルを「民主主義国」として中東における帝国主義的橋頭保にしてきた。それを支えてきたのが「ハルマゲドンを希求する」おろかな米国福音派である(選挙目当てのトランプは福音派を煽っている)。米国福音派(一応プロテスタント)は、ハルマゲドンによるメシアの再臨・救済を希求する。だがそのためには「ユダヤ人」のパレスチナ帰還が必須だとする。まさに狂信的イスラエル擁護派だ。AIとまがいものの宗教的狂信が共存する恐るべき社会。その罪は重い。
◆合意を強制しても遠からず破綻する――本筋中の本筋は頭をもたげる
現在ネタニエフとトランプは、大量虐殺を何らいとわない暴力によって、ことを決着させようとしている。世界の無力感につけこんで、ネタニエフ・トランプの「合意」はガザを事実上二人が支配し、無力・無能なパレスチナ自治政府を文字通り操り人形にし、国連の介入を排除してやりたい放題の体制を確立しようとするものである。このような合意を日本政府が支持することなど許されるはずがない。
しかし、とりあえずの「解決策」が押し付けられたとして、どうなっていくか?
押し付けられたとしても、それは遠からず破綻する。破綻するのは歴史が示す通りである。軍事的「解決策」が既成事実として強制されても、欺瞞的な「政治的」解決策が強制されても、それがかかえる矛盾により遠からず破綻する。本筋中の本筋が正義=自然であるかぎり、それはいかに抑圧されても頭をもたげてくるからだ。だからこそイスラエル建国から戦争、紛争、軋轢が70年以上も続いてきたのだ。それは今後も変わらない。
◆ロシア・プーチンと中国・習近平の沈黙は――沈黙で有利に
ロシア、中国について云っておけば、ロシアがガザについて沈黙しているのは、プーチンにとってガザ大虐殺などたいしたことではないからだ。一例をあげれば、プーチンはチェチェンの「テロリスト」を多数殺害してきたし、チェチェン独立戦争ではチェチェン大空爆によって独立派を数万人殺した。その後はシリア内戦での空爆、そしてウクライナ戦争である。なにより彼はスターリンのロシアの系譜を踏むアジア的専制の後継者なのだ。また中国と同じだが、欧米がガザ大虐殺で非難されればロシアのウクライナ戦争への非難は相対的に弱まるのである。
中国共産党の沈黙も同様である。中国共産党は米国との本格的覇権争いにのりだしており、これまたガザ大虐殺による米欧への非難の高まりは、これ幸いである。いわゆる「米国の威信」が大幅低下し、同時に欧州の政治的影響力も「ダブルスタンダードだ」という非難により、大幅低下している。これらは「中華民族の偉大な復興」をめざす習近平にとって誠に喜ばしいことである。習近平も毛沢東の系譜を踏むアジア的専制の後継者なのだ。(習近平、プーチン、金正恩はいずれもアジア的専制の後継者だ。先日、そのそろい踏みがなされた)
◆世界史的趨勢は欧米からアジアへ――普遍的価値の実現は世界革命によってこそ
世界史的趨勢としては、欧米中心の世界が崩壊しつつあり、あきらかに経済的・政治的中心はアジアにシフトしている。しかしこの趨勢は中国共産党=アジア的専制の主導によるものだ。
それでは、現在のこの趨勢についてどのようにかんがえるべきなのか?
15世紀からヨーロッパによる世界植民化が始まった。これがヨーロッパ中心の世界のはじまりだった。それまではヨーロッパは田舎もの、野蛮人であった。それが逆転していったのだ(ついでだが、ギリシャ文明はエジプト文明の亜周辺で形成された。それがイスラム世界を通じて田舎者・ヨーロッパに伝わった)。ヨーロッパは中南米、アフリカ、北米の先住民の大量虐殺、土地の収奪、奴隷化によって植民地を拡大し、さらに東方にまで進出し世界を支配していった。資本主義と一体となったこの支配は20世紀の後半まで続いた。この支配=収奪なしにヨーロッパ文明はない。イスラエル建国もヨーロッパによる植民地主義、その支配、収奪のなせるわざである。
以上の歴史について欧州、米国は謝罪すべきである。イスラエルの解体もその一環となるべきである。日本も朝鮮、中国大陸、東南アジアへの侵略を真に謝罪すべきである。日本は中途半端な謝罪をしているが欧米はほとんどしていない。(ここに日本の右翼を存在させる理由がある)
従って、欧米のいわゆる普遍的価値は虚偽・虚構でしかないが、だが弁証法的止揚から、それを真の普遍的価値にすることを考えるならば、まずは15世紀からの侵略を謝罪するしかない。謝罪によってこそアジア的専制の無力化も可能になる。
しかし、謝罪は不可能だろう。植民地化と収奪は、上記のように資本主義の発展・変容と一体であるからだ。真の普遍的価値は世界革命=社会主義・共産主義革命を通じてのみ実現する。もちろんその過程ではプーチン体制や中国共産党のアジア的専制も打倒される。
以上
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〔opinion14458:251005〕