ギリシャで緊縮推進派と反緊縮派の議席数を逆転させたプレミア議席制度の弊害

紅林進です。  

経済危機の負担、犠牲を労働者、民衆に押し付ける「緊縮策」か、それに反対するかどうかで争われ、先月5月に行われた ギリシャの総選挙(一院制、定数300)では、「緊縮策」反対の「急進左翼連合」が躍進し、第一党となった緊縮政策推進の中道右派「新民主主義党」(ND)は結局、連立政権を組むことに失敗し、6月17日、再選挙となった。今回の選挙でも「急進左翼連合」は得票と議席を伸ばし、3%以上得票し議席を得た政党の得票率でみると、「緊縮推進派」は計42・0%に対し、「緊縮反対派」は計52・1%。 今回も、得票率では、「緊縮反対」が多数を占めました。  

しかし同国の選挙制度は、比例代表制を採っているにもかかわらず、第一党に50議席を加算するという「プレミア議席制度」を採っているため、第一党になった、「緊縮推進派」の「新民主主義党」(ND)は、29・7%の得票率で、129議席も獲得し、同じく「緊縮推進派」の中道左派・全ギリシャ社会主義運動(PASOK)の33議席と合わせると、「緊縮推進派」の両党だけで、過半数の162議席となってしまいます。  

民衆の投票行動による「得票率」という民意が、「プレミア議席制度」のために歪められ、「緊縮」推進・反対の民意が、議席に逆転して反映されてしまうという不合理が起こっています。  

「ギリシャ再選挙 緊縮派が議席過半数に 得票は反対派が52%」
(『しんぶん赤旗』 2012年6月19日(火)) 参照
http://www.jcp.or.jp/akahata/aik12/2012-06-19/2012061901_02_1.html  

第一党に追加議席を与える「プレミア議席」(ボーナス議席)制度は非常に問題だと私は思っています。  

今回のギリシャの総選挙でも、得票率では反緊縮派諸政党の得票合計が過半数なのに、この「プレミア議席制度」のお蔭で、「緊縮推進派」政党 が
過半数の議席を獲得するという逆転現象が起きています。民意を逆立ちさせる役割を果たしています。その意味では、比例代表制を採りながら、相対多数の第一党を不当に利するという意味では小選挙区制と同じような役割を果たしていると言えるでしょう。  

このギリシャよりひどいのが、イタリア国会の現行の選挙制度です。

イタリアの現行の選挙制度は、上下両議院ともに完全比例代表制ですが(1993年に選挙制度の大改正が行われ、一度は小選挙区と比例代表の並立制に定められたが、2005年12月に再改正され、完全比例代表制が復活した)、下院は得票率が首位となった政党(政党連合)が340議席(定数の約54%)に達しなかった場合、340議席が無条件に与えられ、また上院においては、各州ごとに得票率首位の政党(政党連合)に、その州に配分れる議員の55%が与えられるという、極端な「プレミアム議席制度」を採用しています。(ウィキペディアの「イタリアの政治」の項より一部引用)
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%82%A4%E3%82%BF%E3%83%AA%E3%82%A2%E3%81%AE%E6%94%BF%E6%B2%BB  

このイタリアでの「プレミアム議席制度」は第一党に過半数はおろか、絶対多数の議席を与えるとんでもない選挙制度です。  

イタリアには、ムッソリーニのファシズム期にも、1923年法律第2444号(いわゆる「アチェルボ法」)で、25%以上の最大得票をした候補者名簿が三分の二の議席を獲得するという選挙制度を導入し、ムッソリーニの独裁を強化した前歴があるにも関わらず、ムッソリーニ・ファシスト政権をレジスタンスにより国民自らが倒したイタリア国民が、再び(実は、1953年にも、当時のデ・ガスペリ首相が、1953年法律第148号(いわゆる
「インチキ法」)により「プレミアム議席制度」を導入しているので、三度目であるが)、このようなとんでもない選挙制度を導入し、いまだに続けているとは残念です。  

なお現在も続く、2005年12月に成立した、この「多数派プレミアム制を伴った比例代表制」を規定した法律第270号「下院及び上院の選挙規程の改正」)は、当時のベルルスコーニ政権(第2次)が、翌年に控えた総選挙を前にして、与党の党派的利害に根差して制定したものとの指摘もなされていますが、皮肉にも、翌年2006年4 月総選挙では、野党の中道左派連合「ルニオーネ」(「オリーブの木」の後継)にベルルスコーニの与党は敗北し、ベルルスコーニは政権を失うとともに、プレミアム議席の恩恵も手にすることができなかった訳です。 
http://ja.wikipedia.org/wiki/2006%E5%B9%B4%E3%82%A4%E3%82%BF%E3%83%AA%E3%82%A2%E7%B7%8F%E9%81%B8%E6%8C%99  

またこの「プレミアム議席制度」は、朴正熙独裁政権下の韓国でも、その独裁の強化のために利用されました。
 

(参照)  

芦田淳 「イタリアにおける選挙制度改革」(国立国会図書館 調査及び

立法考査局『外国の立法』 230(2006. 11)所収) 
http://www.ndl.go.jp/jp/data/publication/legis/230/023006.pdf#search=’  

諸外国の選挙制度―類型・具体例・制度一覧―
国立国会図書館 ISSUE BRIEF NUMBER 721(2011. 8.25.) 

http://www.ndl.go.jp/jp/data/publication/issue/pdf/0721.pdf#search=’  

三輪和宏「諸外国の下院の選挙制度」『レファレンス』671 号 国立国会図書館 調査及び立法考査局
http://dl.ndl.go.jp/view/download/digidepo_999787_po_067106.pdf?contentNo=1  

国立国会図書館のデジタル化資料 – 諸外国の下院の選挙制度(資料) 
http://dl.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/999787   

諸外国の上院の選挙制度・任命制度
三輪 和宏(政治議会課憲法室)
2009 年12 月 国立国会図書館 調査及び立法考査局
http://www.ndl.go.jp/jp/data/publication/document/2009/200901.pdf#search=’ 

西平重喜『各国の選挙-変遷と現状』、木鐸社、509~510頁、第Ⅱ部  各国の選挙法 大韓民国 第3共和制の選挙法。

IPU PARLINE database on national parliaments, IPU (Inter-Parliamentary Union) http://www.ipu.org/parline-e/parlinesearch.asp
※各国の議会制度、選挙制度についての世界で最も網羅的なデータベース。