IPPNWアレックス・ローゼン(Alex Rosen) 医師の論評: IPPNWドイツは日本の「乳歯保存ネットワーク」が取り組むスタディーに賛同する

原文(ドイツ語)へのリンク:  Suche nach Strontium-90 in Milchzähnen

乳歯中のストロンチウム90を探す

著者:アレックス・ローゼン(Alex Rosen) 医学博士(小児科医/IPPNWドイツ副議長)

(和訳:グローガー理恵)

フクシマ原子力災害によって、はかりしれないほど膨大な量の放射能が環境中に拡散された。放射性ヨウ素とセシウムによる汚染については、日本の当局によって度々言及されており、これらの放射性同位体は土壌、水、食物のサンプルをもとに定期的に測定されているが、放射性ストロンチウムによるヒトの被曝や環境汚染の事実は黙殺されている。

汚染マップは存在しない。ストロンチウムの測定は、せいぜいのところ時折、個々の研究グループによって行われるぐらいである。また、放射能汚染された食物の摂取によって人々が受ける被曝線量を算定するために使われる食物データベースには、ストロンチムの調査がまったくない。ストロンチウムに関して分かっていることは、福島の家畜の歯中や骨中に有意な量の放射性ストロンチウムが検出されたということである。*1)

そこで、日本の独立した科学者たちは、日本市民が受けた放射性ストロンチウム被曝の研究調査に取り組むことを自分たちの目標と定めたのである ― そうすることで、これまでずっと黙殺されてきた、汚染地域に住む住民における白血病や悪性骨腫瘍の発症リスクへの注意を喚起する―とくに、子どもたちの方が大人よりもはるかに高い発症リスクを抱えていることへの注意を促すことである。

今後何年かの間に、日本全国から乳歯が収集されることになっている。これは、乳歯中のストロンチウム濃度を測定するためである。ここで重要なことは、とくに汚染がひどい地域からの子どもたちばかりでなく、ありとあらゆる年齢層の日本全国からの人々も乳歯を提供してくれることである。そうすることで、ストロンチウム濃度の経年変化や地域差の分析ができるようになる。さらにまた、これらの乳歯調査の測定データは、個々の住民集団や年齢グループにおけるストロンチウム被曝の総量を評価するためのバイオマーカーとして使うことができるだろう。

また、乳歯提供の際には乳歯と共に、提供者の乳児の時の栄養 (母乳、粉ミルク、混合 )や 飲み水 (水道水、井戸水、ミネラルウォターなど)についての詳細、および提供者の生誕地から居住地転換についての記録も提供されることになっている。過去のストロンチウム・スタディーから、乳児が生後一年間に摂取する栄養が、体のストロンチウム被曝にはっきりとした影響をもたらすことが分かっている。日本では、この局面についても研究調査がなされるべきである。そうすることで、必要な場合には、乳児のための適切な勧告ができるからである。

歯中のストロンチウム検出は技術上、大変な時間と忍耐を要する、とても込み入った仕事である。そのため、この研究調査の発起人たちは、ストロンチウムの検出方法によく精通しているスイス・バーゼル州立研究所からの国際的ノウハウを取り入れることにした。目下のところ、日本で最初に集められた200本の乳歯はバーゼル研究所で調査されている。将来は日本において研究調査を実施することが計画されているが、そのためには先ず調査目的に適った測定研究所を設立して、スタッフも養成されなければならない。しかし、研究者チームは、最終的には研究調査の結果が、研究のために費やされたすべての苦労や努力を正当化してくれるであろうとの確信に満ちている。彼らは、住民のストロンチウム被曝の経年変化を記録するために、研究調査を数十年間にわたり実施していくことを計画している。ストロンチウムの物理的半減期は28.8年である。

この研究調査の目的は、ストロンチウム汚染の実際の程度/範囲を確認し、被曝した子どもたちの健康を守るために、影響を受けた自治体や県に提言することである。IPPNWドイツは、この乳歯研究調査を支援しており、「乳歯保存ネットワーク(PDTN) 」の 「呼びかけ人ネットワーク 」のメンバーでもある。” 呼びかけ人ネットワーク “ とは、乳歯スタディーが実際に遂行されるために、応援し助ける人々・団体のネットワークである。*2)

この重大な研究調査を実施するのが公的機関ではなく、独立した科学者たちであるという事実が、日本の政局について多くを物語っている:日本においては、全ての階層の国家機関が原子力産業の甚大な影響下にあり、彼らは政府から、できるだけ早く“フクシマ 問題 “を棚上げにして決着をつけるようにと要請されているのである。PDTNの科学者たちが取り組もうとしている研究調査は重要である。なぜなら、この研究調査は、放射能汚染地域に住む人々をその運命に任せることではなく、優れた科学によって政治や関連当局に圧力を加えることに寄与していくのであるから。

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訳注:

*1) 参考文献:二瓶英和, 福島第一原子力発電所警戒区域内被災家畜の歯中の放射性ストロンチウムとセシウムの測定, 東北大学 博士論文 2013年http://ir.library.tohoku.ac.jp/re/bitstream/10097/56584/1/Nihei-Hidekazu-2013-Tour03-334.pdf

*2) 乳歯保存ネットワークの詳細についてはホームページを参照:http://pdn311.town-web.net/

〈記事出典コード〉サイトちきゅう座http://www.chikyuza.net/
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