5月20日(土)明治大学自由塔にて澤藤藤一郎弁護士による講演「共謀罪――その危険な本質と狙い――」を聴いた。
「共謀罪」の趣旨を含む組織的犯罪処罰法の改正案が採決されるようだ。私=岩田は、澤藤弁護士の危機意識にあふれた話を聞きながら、同じような共謀罪であっても、人権重視の市民主義者・民主主義者によって好意的に受け止められることもあれば、今日や2006年・平成18年のように断固として拒絶される事もあるのだな、と言う深い感慨をいだいた。あやうきかな、あやうきかな。
かつて、『ハーグ囚人第一号の日記:タディチ事件――No.IT-94-1-T』(セルビア語)の部分訳を「ちきゅう座」に連載した。そして、2013年・平成25年に社会評論社より『ハーグ国際法廷のミステリー 旧ユーゴスラヴィア多民族戦争の戦犯第一号日記』として出版した。
日記の著者ドゥシコ・タディチは、拘禁刑20年の実刑判決を受けたが、彼が犯したとされる殺人の証拠や目撃証人に基づいて判決が下されたわけではなかった。彼自身は、日記の中で自分の無実を切々と訴えている。タディチ著・岩田訳著『ハーグ国際法廷のミステリー』に彼の弁護士が序文を寄せている。
「法律的観点から、タディチ裁判は、格別に異議深い。1999年の第二審判決において始めて、Joint criminal enterprise(共同犯罪企画事業)なる構成が利用されたからである。それは、それ以前全く利用されなかったし、それ以後起訴立件の根拠として70%強の諸ケースで使われるようになる(殆どセルビア人に適用される)。ドゥシコ・タディチは、決して証拠付けられることのなかった諸犯罪の故に20年の刑を宣告された。」(p.15)
しかも、旧ユーゴスラヴィア戦争犯罪法廷の設立規程の中に上記JCE(私は「共同犯罪企画事業」、多谷千賀子は「犯罪集団」、『女性国際戦犯法廷の全記録Ⅱ』は「共同の犯罪の企て」と訳す。)の明文規定は存在しない。まさしく、『女性国際戦犯法廷の全記録Ⅱ』にあるように「『共同の犯罪の企て』の責任は、刑事責任の一形態であり、上訴審裁判部が〔規程〕に黙示に示されていると判断した。これは、犯罪を実行する共同の犯罪の企てへの関与について個人としての責任を伴う。」(p.338、強調は岩田)
かかる黙示によって実効法とされたJCE罪=共謀罪がハーグ国際法廷で猛威を振るった。その初発がタディチ裁判であり、その時の国際法廷所長がアメリカ人女性ガブリエル・カーク・マクドナルドであった。
ハーグでJCE=共謀罪を「黙示」によって判例化した直後、2000年・平成12年の末に千代田区九段会館に姿を現し、裁判長として国際女性法廷の開廷を宣言した。
かつて国際女性法廷の記録をテレビ放映する事に怒った政治家安倍は、首相となるや、今日共謀罪=JCE罪の拙速強行実現に突っ走る。「黙示」も共謀罪の強行も常民社会の健康を害する。
平成29年5月23日
〈記事出典コード〉サイトちきゅう座 https://chikyuza.net/
〔opinion6690:170523〕