6月6日に公表されましたIPPNW作成による「UNSCEARフクシマ報告書の批判的分析1)」の最初の序文 (4ページ)に、こう書かれてあります。:
( 仮訳 ) 「2011年、IPPNW役員会において、我々の目標である「核兵器なき世界」を目指すために、IPPNWのスタンスを、もっと包括的に広げるべきであるとの案が、満場一致で可決された。もっと包括的なスタンスとは: 「核連鎖 」の中に存在する軍事部門と民間部門間の強い相互依存性に対し、IPPNWが立ち向かい取り組んでいくことである。また、我々が、原子力を段階的廃止 (フェーズアウト )していかないのなら、「核兵器のない世界」を実現させることは不可能であるということもある。」
1980年に設立されたIPPNW (核戦争防止国際医師団会議)は、その名の通り、核戦争を医師としての立場から防止する活動を行うための国際組織です。しかし、上述されてありますように、2011年のIPPNW役員会において、「核兵器なき世界」を目指すためにIPPNWのスタンスをもっと包括的に広げるべきであるとの提案が可決され、IPPNWは、全地球的な規模で核問題を考え、核連鎖に関する一部だけを対象とするのではなく、核連鎖全体を対象に立ち向かい取り組んでいこうとの活動方針を打ち出したのでした。原子力問題に取り組んでいくこともIPPNWの重要な活動となったわけです。
その中で、とりわけフクシマ核災害の健康被害問題に真剣に取り組んでくれているのが、IPPNWドイツ支部の医師たちなのではないかとの印象を私は受けています。私のまわりのドイツ人も、日本政府とは違って、フクシマを忘れるようなことはなく「フクシマはどうなってるの? 大丈夫なのかい?」といった質問をよくしてきます。
一方、ドイツは脱原発したのだから、原発問題などとは無関係の国であるといった考えを持っている方々が結構多いのではないかと推察しております。しかし現実はそうではなく、ドイツでは未だに9基の原発が稼働中であり、2022年の末になって、やっと全ての原発停止が完了する予定であり、完全な脱原発へ到達するまでには、まだまだ長い道程が残っています。因みに現在稼働中の原発と、その予定された閉鎖年を付け加えますと下記のような長いリストになります。
1) 2015年 閉鎖予定 – Grafenrheinfeld原発 (バイエルン州)
2) 2017年 閉鎖予定 – Gundremmingen B 原発 (バイエルン州)
3) 2019年 閉鎖予定 – Philippsburg II 原発(バーデン=ヴェルテンベルク州 )
4) 2021年 閉鎖予定 – Brokdorf 原発(シュレースヴィヒ=ホルシュタイン州)
5) 2021年 閉鎖予定 – Grohnde原発 (ニーダーザクセン州 )
6) 2021年 閉鎖予定 – Gundremmingen C 原発 (バイエルン州 )
7) 2022年 閉鎖予定 – Emsland (ニーダーザクセン州 )
8) 2022年 閉鎖予定 -Neckarwestheim II 原発 ( バーデン=ヴェルテンベルク州)
9) 2022年 閉鎖予定 – Isar 2原発 (バイエルン州 )
IPPNWドイツ支部を始めドイツに存在する数多くの環境保護団体は、チェルノブイリやフクシマの核大災害がもたらした影響結果が物語っているように、原子力は余りにも有害であり危険であるから、ドイツにおける全ての原発を即停止すべきであると訴え続けています。
そして、6月 11日、ドイツの放射線防護委員会 (SSK)が、原発事故発生緊急時における災害防止の勧告書を内務大臣会議に提出しました。IPPNWドイツ支部は、この放射線防護委員会によって新規された災害防止の基準は余りにも緩く不十分である」と厳しく批判しています。その批判論評がIPPNWドイツ支部サイトに掲載されてありますので、それを和訳してご紹介させて戴きます。
プレスリリース - 2014 年6 月11日
名目だけの見せかけ安全対策
新規の災害防止勧告
(和訳: グローガー理恵)
IPPNW医師団は、今日、ボンで開始される内務大臣会議において決議されることになっている、放射線防護委員会(SSK)によって提出された新規の災害防止基準を批判する。
「(核事故発生後)24時間以内に避難する区域を10kmから20kmに拡大すること、これは、放射線医学の観点から言って、不十分過ぎます」と、IPPNW前議長、アンゲリカ・クラウセン ( Angelika Claußen)医学博士/女医は述べる。IPPNW医師団にとって、SSKの勧告は「大言壮語」以外の何ものでもない。
– SSKによって新たに計画された避難区域圏内には、何十万人という住民が住んでいる。これだけの人数の住民を避難させることは、その実行にあたる当局にとっては、絶望的なほどに荷が重すぎる課題となるだろう。
– SSKによって新たに推奨された避難区域圏の範囲は、未だに狭すぎる。ドイツ連邦放射線防護庁は、(原発から)100~170km圏を避難区域としており、ましてや応用生態学研究所 ( Öko-Institut)は、幅50km、距離600kmの範囲を避難区域として勧告しているのである。
– SSKが推奨する避難および強制移住への介入基準値が高すぎる。SSKの勧告によれば、(原発事故から) 7日内に被曝線量が100ミリシーベルトになってから初めて避難がなされることになっている( フクシマの場合は20ミリシーベルト、チェルノブイリの場合は10ミリシーベルトである )。SSKが推奨する介入基準値に従うのなら、日本やウクライナよりも、何千人も多い人々が被曝犠牲者となる危険に冒されることになるのである。
– SSKは「急性放射線病」のみを考慮している。発がん、奇形、遺伝的損傷、死産、心臓血管系疾患、免疫機能障害などの長期的影響に関して、これまで、よく研究されてきたのだが、SSKは、これらの長期的影響について考慮していない。
同様に、IPPNWにとって愕然とさせられることがある。: SSKによれば、想定可能な超大規模の原発事故 ( 独語:Super-GAU )が発生した50時間後には既に、放射性粒子の放出が終わっているというのである。「これは、間違っていると分かっていながら、なされた勧告です」と、IPPNWのラインホルト・ティール(Reinhold Thiel)医師はコメントする。チェルノブイリでは事故発生から11日後に、フクシマでは事故発生後25日目2)に、放射性粒子の放出がおさまった。日本ではフクシマ原発事故後、年間被曝線量【20 ミリシーベルト】以上の区域が「居住不可能な区域」と定められた。多くの放射線防護者たちは、この(年間20ミリシーベルトという) 被曝線量の限定値でも危険すぎると見ている。一方、WHO(世界保健機関 )は、ある境界値より低い放射線量であれば医学的に憂慮する必要はなしと言えるような「閾値」はないということを認めている。
IPPNWは、SSKの勧告が、全ドイツの(原発から)100km圏の地帯に住む子供たち、青少年たち、妊婦たちのためにヨウ素剤を備蓄するとして推奨範囲を広げていることは、確かに正しい方向への一歩であると見なしてはいるのだが、しかし : 大人全員のためにもヨウ素剤が備蓄されるべきであるというのが、IPPNW医師団の見解である。
さらに、ヨウ素剤は、ある中心拠点に貯蔵されるのではなく、オーストリアの範例に従い、前もって各家庭に供給しておくべきである。「すなわち、放射能線量が人々に届く前に高い服量のヨウ素剤が投与されるべきです。そうすることによってのみ、ヨウ素剤が甲状腺がんを予防することになるのです」と、IPPNW役員会委員のドェルテ・ジーデントプフ (Dörte Siedentopf)女医は述べる。「想定可能な超大規模の原発事故(Super-GAU)の後に発生する放射線障害の全てを包括するような放射線防護剤は存在しません。」
唯一の効果的な放射線防護は、直ちに全ての原子力発電所の稼動を止めて閉鎖すること、それと並んで、もう既に始まったエネルギー革命(Energiewende)3)を為し遂げていくことである。
以上
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1 ) 英文「IPPNWによるUNSCEARフクシマ報告書の批判的分析」へのリンク: http://www.fukushima-disaster.de/fileadmin/user_upload/pdf/english/Akzente_Unscear2014.pdf
2 ) (訳注) 事故発生後25日目: 訳者は、 原文通りに「フクシマでは事故発生後、25日目に放射性粒子の放出がおさまった 」と訳しました。しかし実際は、フクシマ原発からの放射性粒子の放出は、おさまることなく今も続いているのが現実です。
3 )エネルギー革命 (独語: Energiewende – エネルギー転換とも呼ばれている ) : 化石エネルギー、原子力などの従来のエネルギー源依存から脱し、クリーンな再生可能エネルギーによる持続可能なエネルギー供給を推進し実現させていくことを意味する。再生可能エネルギーには、風力、ソーラーエネルギー (太陽熱発電、太陽光発電 )、バイオマス (ランドフィルガス、バイオガス)、水力、地熱、海洋エネルギー (波力発電、潮力発電、海洋温度差発電、塩分濃度差発電、海流発電)が含まれる。(Wikipedia 参照)
〈記事出典コード〉サイトちきゅう座http://www.chikyuza.net/
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