6月に公表されました福島県健康管理調査の中間報告書によりますと、18歳未満の子供達を対象に実施された集団検診で、12人が甲状腺ガンに罹患していることが確認されました。
この事に関して、IPPNW理事会メンバーのアレックス・ローゼン博士が小児科医としての見解を述べていらっしゃいます。ローゼン博士の見解は一貫してデータ/科学的論拠に基づいていますが、特に印象深いことは、彼がエンパシーを持って、甲状腺全摘出手術を受けなければならない子供達のこと、その家族が直面していかなければならない厳しい現実について言及されていることです。最後に、ローゼン博士は結論として、子供達を放射線から防護することは社会全体の責務であり、日本当局はこの責務に真剣に立ち向かっていかねばならないと訴えています。
なお、このスタディーを翻訳することに、ローゼン先生から快諾を得ることが出来ましたことをお伝えしておきます。
原文はIPPNWドイツ支部のサイトに掲載されています。そのリンクです。:
福島の集団スクリーニングで12人に甲状腺ガンを発見
著者: アレックス・ローゼン(Alex Rosen) 医学博士-IPPNW理事会メンバー
(日本語訳:グローガー理恵)
2013年7月6日
6月、福島県は福島健康管理調査(Fukushima Health Management Survey)の新しい中間報告書を公表した。簡潔に要約すると、これは今までの中で最も重要な調査結果となっている。: 調査結果は、検診対象者である計175,499人の18歳未満の子供達の内76,230人(43.4%)に、疑わしい甲状腺の異常‐すなわち結節や嚢胞‐が検出されたことを示した。
直径5mmを超す結節もしくは直径2cmを超す嚢胞のあった子供達1,140人(0.6%)が、二次検査へ出頭された。福島医科大学病院において、これらの子供達を対象にした更なる超音波検査、血液検査、尿検査が行われ、必要と判断された場合には細針生検がなされた。
2013年の5月末までに、これらの1,140人の子供達の内、二次検査を終了したのはただの421人だけで、その内の145人に細針生検が実施された。
細針生検を受けた145人の子供達の内、28人にガンの疑いのある細胞が発見された。これまでに、その28人の中から、13人の子供達が甲状腺摘出手術を受けている。 その内12人に甲状腺乳頭ガンが確認され、1人は良性腫瘍であると判断された。生検(生体組織検査)でガンの疑いがあると診断された残りの15人の子供達は、今までのところ、未だ甲状腺摘出術を受けていないので、彼等が実際に甲状腺ガンに罹患しているかどうか確実に言うことはできない。
全部で、719人の子供達が未だ二次検査を済ませていない。ここで特に憂慮すべきことは、郡山における状況である。: 郡山では、最初の一次検査で疑わしい甲状腺異常が検出された442人の子供達が二次検査へ出頭となった。しかしながら、今迄のところ、これら442人の子供達の内、ただの5人だけが二次検査を終了したのみである。そして、これら5人の内2人が悪性の甲状腺ガンに罹患していることが確定された。この事は、郡山の(未だ二次検査を終了していない)残りの437人の子供達が検査を受けたら、更に何件の甲状腺ガン罹患の診断が下されるのであろうかとの疑問を呈示してくる。
また、ここで忘れてはならないことがある。: それは、福島県にある他の34の市町村からの158,783人の子供達が未だに最初の一次検査を受けていないこと、そして今後数週間において初めて、これらの子供達を対象にした一次検査が実施されることになっていることである。
上に記述したように、 福島県における甲状腺検査は未だ完了していない。したがって、我々は現在のところ未だ、子供や青少年における実際の甲状腺ガン罹患数の全体像を持ち合わせていない。既に存在している数字だけを基に判断すると、これまでに、100,000人の子供/青少年の内15.4件に癌の疑いがあるとの生体組織検査の結果が確認され、100,000人の内6.8件に甲状腺ガンの診断が既に下されたことになる。現在の時点では、このような予期しなかった高い甲状腺ガンの罹患数がフクシマ最大想定事故に起因しているのかどうかは、未だ確実には言い切れない。
-日本の国立がん研究センターによれば、2000年から2007年における子供と青少年の甲状腺ガンの発生率は、100,000人当たり0.35件(男:100,000人当たり0.21件、女の子供および青少年: 100,000人当たり0.49件)であった。1)
-米国もしくは英国のような他の国々でも、似たような甲状腺ガン発生率のデータが出されている。: ここでは研究調査が、100,000人当たり0.02件から0.03件の発生率を示している。2)
これら発生率のデータは、年間に一般住民において新たに発生した罹病数を記述している。したがって、これらのデータと、多数の症状のない子供や青少年を対象に超音波検査し、先ず何年か後になってから初めて、臨床症状を引き起こしたであろうとされるガンが発見される可能性もある福島県健康管理調査の集団スクリーニングの結果とを、直接に比較することはできない。
集団スクリーニングによって発見された罹患の率が、一般住民における(病気の)症状を通して普通は明らかになる罹患の率よりも高いとき、これを所謂「スクリーニング効果(Screeningeffekt)」と呼ぶ。日本の科学者達はこれまでのところ、フクシマにおける予期できなかった高い甲状腺ガン罹患率は、この「スクリーニング効果」のせいであるとしている。この(日本の科学者達の)仮説が確証されるのか、若しくは、チェルノブイリ最大想定事故後のように、多年にわたって、継続的に甲状腺ガン罹病率が増えていくのか、後年になれば明らかになっていくことだろう。
チェルノブイリの場合は、最大想定事故から凡そ4年経ってから、甲状腺ガン罹患率の著しい増加があったことが明らかになっている。フクシマ原子力災害の後、そのような短い期間で既に、甲状腺ガンが発見できたという事実は、もしかすると、日本にはもっと優れた診断装置が備わっているからであると説明できるのかもしれない。チェルノブイリによって放射能汚染された、当時はソビエト連邦であった地帯(複数)には、高解像度の超音波診断装置を使った集団スクリーンは存在しなかった。したがって、チェルノブイリ事故の後も、もっとずっと早い時期に最初の甲状腺ガンが発生していたのだが、単にそれが診断されることがなかったという可能性も確かにある。
全体的に、チェルノブイリ原子力災害によって引き起こされた影響/結果と、フクシマ原子力災害によって引き起こされた影響/結果を比較することには問題がある。何故なら、両災害のシナリオが重要なパラメーターにおいて異なっているからである。例えば、日本の子供達の食事は多量の魚類や海藻類を含んでいるため、明らかにチェルノブイリ周辺住民の食事よりもヨー素成分に富んでいる。また、フクシマ・メルトダウンによって放出されたヨー素131の量はチェルノブイリからの放出量よりも少なく、放射能塵の大部分は日本の陸地には降下せず、太平洋へと降下したが、放射能塵は海洋食物連鎖を汚染していった。同時に、再三繰り返して指摘せねばならないことは、日本当局が被災した子供達に対して防護ヨー素剤を投与することを拒んだことである。
したがって、フクシマの子供達が受けた放射性ヨー素の被曝線量を適切に推定することは非常に難しい。一方、2011年5月に文部科学省は、福島県にある数多くの幼稚園/保育園や学校の校庭・遊び場の塵埃のなかに、著しく高まった数値のヨー素131を検出した。3) また、果物、野菜、水道水、魚にも、明らかに高まった数値の放射性アイソトープが検出された。- 部分的には最初の爆発(複数)から3ヶ月経ってからも検出されている。4)
そのため、福島県の子供達は長い期間に亘り、まき散らされ舞い上がった放射性塵や放射能汚染された食物を通して、高まったヨー素‐131の被曝線量に曝され、その結果、甲状腺ガンを発病するリスクが高まったと推定することができる。更に、福島県外に住む子供達も同様に放射性ヨー素に接触することになったのであるから、集団検診を福島県だけに限定することは、不適切であり不十分であるということも考慮されなければならない。 また、チェルノブイリ最大想定事故を通しても同様に、放射性降下物で汚染された地方において、かなりの数の甲状腺ガンが発生している。
ここで、心に留めておかなければならないことは、甲状腺ガンに罹った子供達が受ける摘出手術とは、甲状腺が全摘出されなければならない複雑な手術であり、かなりの危険性を伴ったものであると謂うことである。更に、摘出手術を受けた子供達は、定期的に血液検査を受ける方法によって正確に調整された甲状腺ホルモン剤を一生、服用していかなければならない。また、そればかりではなく、甲状腺ガンが再発するケースは稀でないため、アフターケア検診を定期的に受けなければならなくなる。それ故に、甲状腺ガンは、良い治療選択があるにもかかわらず、甲状腺ガンを患った子供達を持つ家庭にとっては、決して容易なことではない。
放射線防護すること、とりわけ放射線感受性が大人よりも遥かに高い子供達を放射線から守ることは、社会全体の責務であり、日本当局はこの責務に敢然と立ち向かっていかねばならない。
以上
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1) ソース: 国立がん研究センター、がん情報サービス-Center for Cancer Control and Information Services, National Cancer Center, Japan. Katanoda et al. “An updated report of the trends in cancer incidence and mortality in Japan.” Japanese Journal of Clinical Oncology, 2013; 43: 492-507; http://ganjoho.jp/pro/statistics/en/table_download.html
2) ソース:Vaisman et al. “Thyroid Carcinoma in Children and Adolescents―Systematic Review of the Literature”. Journal of Thyroid Research, Volume 2011; Wiersinga et al. “Thyroid cancer in children and adolescents–consequences in later life.” J Pediatr Endocrinol Metab. 2001;14 Suppl 5:1289-96; discussion 1297-8; Harach et al. “Childhood thyroid cancer in England and Wales.” Br J Cancer. 1995 Sep;72(3):777-83; „Thyroid cancer incidence statistics.“ Cancer Research UK, www.cancerresearchuk.org/cancer-info/cancerstats/types/thyroid/incidence/uk-thyroid-cancer-incidence-statistics#age)
3) ソース:文部科学省-MEXT, “Calculation Results and Basis regarding Internal Exposure – Studied in Summarizing the “Tentative Approach”, May 12th, 2011; http://eq.wide.ad.jp/files_en/110512release1_en.pdf
4) ソース:WHO, „Preliminary dose estimation from the nuclear accident after the 2011 Great East Japan Earthquake and Tsunami“. May 23rd, 2012, Table A8.2, p. 106; http://whqlibdoc.who.int/publications/2012/9789241503662_eng.pdf
〈記事出典コード〉サイトちきゅう座 http://www.chikyuza.net/
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