IPPNWドイツ支部 アレックス・ローゼン小児科医の論評 フクシマから6年:原子力災害は今も進行中

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Sechs Jahre Fukushima: Die Atomkatastrophe besteht fort

著者:アレックス・ローゼン(Alex Rosen)小児科医/IPPNWドイツ副代表)

〈和訳:グローガー理恵〉

2017年3月10日

フクシマ原子力災害が始まってから6年経った今も、日本の人々は、福島第一原発事故によってもたらされた結果とともに生きている。福島第一原発で破損された原子炉(複数)は相変わらず、制御不可能な状態にある。 最近は福島第一の2号機原子炉格納容器内で、ヒトが数分間浴びたら即死してしまうような非常に高い放射線量が計測された。ロボットも、それだけ高い線量のある原子炉内では機能することができない。溶融した炉心(コリウム)を取り出すことは、チェルノブイリと同様に、何十年もの間、不可能であると推測されている。そのような状況のもとで、将来、地震/津波/暴風のような自然災害が発生したとすれば、廃墟となった福島第一原発が、その地帯全域を多大な危険に晒すことになる。

毎日毎日、何トンもの放射能汚染された冷却水が地下水/海水に流れ込み、地下水や海洋の放射能汚染をますます悪化させている。また、陸地の除染作業も行き詰まり、せっかくの作業も断続的に起こる暴風/降雨/洪水のために無駄に終わっている。放射性ごみは絶え間なく増え続け、山のように堆積されていく。そのため、最近、選抜された市町村において建設資材の放射能汚染制限値が引き上げられた。これは、放射能濃度が高い土を公共道路建設のために利用できるようにするためである。ー しかし、この影響を被った地域の住民による猛烈な反対運動があったため、” 制限値の引き上げ ” は中止されなければならなくなった。

一方、国は、放射能汚染された故郷から離れることを余儀なくさせられた10万人近くの人々への圧力を強めている。故郷を逃れた人々は ” 原発避難者 ”として、今日に至るまで、日本中に散らばっている 。 そして今や、避難者たちはできるだけ早く、福島のゴーストタウンと化した故郷ヘ帰還せよ、ということになったのである。未だに放射線量が非常に高く、健康ヘのリスクなしで生活することのできないような所であっても、帰還すべきであるというのだ。何よりも、若年家族や免疫不全症者、子どもたちが、そのような場所へ帰還するとは到底容認のできないことである。さらに、帰還したい人の人数が少ない状況が続いているため、国から出る原発避難者のための援助金はカットされることになるという。

そして福島では、小児甲状腺がんと診断された症例数がさらに増加している。2011年10月から2014年3月における最初のスクリーニング(先行検査)では甲状腺がん症例数がまだ101件であった。しかし、その後に(2014年から)行われた2巡目のスクリーニング(本格検査)では、2年後(2016年)に、症例数が145件になった。ということは、新たに診断された44人の子どもたちにおける甲状腺がんは、この2年間という期間 (2014年~2016年)に発生したに違いないということを意味している。これは、年間の小児甲状腺がん発生率が【100,000人当たり8.1件】に相当するということである。フクシマ・メルトダウン以前の日本の小児甲状腺がん発生率は年間で【100,000人当たり0.3件】であった。甲状腺の腫瘍の進行や転移があったため手術を受けた子どもたちの数は145人である。そのほかに、穿刺吸引生検でがんと診断された子どもたちが38人いるのだが、彼らはまだ手術を待っている状態である。毎年、新規症例が追加されている。これまでのところ、子どもたちの71%足らずが[*訳注] 2巡目のスクリーニングを受けたのみであるので、今後は、さらにもっと、がん診断数が増加するものと予測される。ーチェルノブイリ事故後に辿られた経過と酷似している。

甲状腺がん症例の早期発生後、福島においては、さらに、これから何十年間にも亘り、白血病や肺・腸の腫瘍、皮膚腫瘍、その他の器官の腫瘍の発生が増加するものと予測される。しかし、これらの症例が、目下のところは未だきちんと記録されている甲状腺がん症例のように、正確に記録されていくものかどうか、これは疑わしいことである。なぜなら日本政府は政治的に原子力産業に依存しており、何年もの間、原子力フレンドリーな宣伝活動や地元の農協への励ましの支援を通して、トリプル・メルトダウンを伴ったフクシマ超大規模原子力事故のネガティヴなイメージをもみ消そうとしているからである。

そして、甲状腺検査でさえもが、まもなく停止されるかもしれないのである。すでに今、集団スクリーニングの中止についての話があり、甲状腺調査を担当している福島医学大学からの代表者が福島県の学校をまわって、子どもたちや青少年たちに、「理不尽ながん診断」を望まない人は集団検査を受けることを拒否するようにと勧めているのである。

その一方では、フクシマ災害の影響を受けた被災者のニーズに応えようと全力を尽くしている多くの日本人がいる。福島県いわき市にある独立ラボ、いわき放射能測定室「たらちね」(Mothers’ Radiation Lab) は市民の要望に応じて放射能測定を行い、独立クリニック、「たらちね検診センター(2017年5月に開設予定))」は超音波検査(エコー検査)についてのセカンドオピニオンを提供してくれることになっている。岐阜の医師たちは、原子力災害による影響を正確に評価することを可能にするために、日本の子どもたちの乳歯中に含まれたストロンチウム-90の濃度を測定する研究調査に取り組んでいる。

ドイツIPPNWは、これらのイニシアチブを支持する。我々は、日本からの新しい調査結果を科学的に評価することを通して、フクシマ惨事によって影響を受けた被災者のために、事実を解明する情報を提供することに尽力する。IPPNW/ PSRによる報告書『チェルノブイリと共に生きる30年間ーフクシマと共に生きる5年間(30 years living with Chernobyl – 5 years living with Fukushima )』(未邦訳)は、ここ数十年間における意義深い科学的知見を列挙し、それらをわかりやすく提示している。

以上

[ *訳注  ]

子どもたちの71%足らずが  :福島医大によると、2巡目のスクリーニングを受けることになっている受検者数は計381,281人だが、これまでのところ270,486人(約71%)の検査結果データが出されているのみである。  (情報提供:アレックス・ローゼン医師)

〈記事出典コード〉サイトちきゅう座 https://chikyuza.net/
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