5月24日、国連人権理事会の特別報告者、アナンド・グローバー氏の「フクシマ被曝問題に関する調査報告書-健康への権利」が公表されました。この報告書について、IPPNW(International Physicians for the Prevention of Nuclear War-核戦争防止国際医師会議)理事会が大変に興味深い声明を出しています。この声明はグローバー氏の勧告を大いに支持する一方、特定のコメントも付け加えています。
注目すべきことは、IPPNWがこの声明の中で、被災者の被曝量を最小化するためには、もっと大きなスケールで広範囲に及び被災者を移住させる以外に適切な代替案はないと明言していることです。このIPPNWの見解は正に、「ふくしま集団疎開裁判」の訴えに、そして松井英介医師による「脱被曝を実現する移住法制定への提言」と共鳴しています。「被曝しない権利」は「人間として当たり前の権利」であり、被災者の「健康への権利」、「移住への権利」へと繋がります。
私はぜひ、このIPPNWの声明を皆様と分かち合いたいという一心で日本語訳に取り組みました。
原文へのリンク(英文)です。:
http://peaceandhealthblog.com/2013/06/05/fukushima-disaster/
また、特別非営利活動法人「Human Rights Now」の翻訳チームの方々が国連報告者、グローバー氏の報告書を和訳して下さっています。和訳へのリンクです。:http://hrn.or.jp/activity/srag.pdf
毎日新聞が、この特別報告者の報告書についてリポートしています。そのリンクです。:
http://mainichi.jp/select/news/20130524k0000e040260000c.html
フクシマ原子力災害の終息への道程は長い
IPPNW Peace & Health Blog (2013年6月5日付)
(日本語訳:グローガー理恵)
IPPNW理事会は、2011年3月11日、フクシマで発生した原発災害によってもたらされた、現在も進行中の公衆衛生の危機について次のような声明を出した。この声明は、国連特別報告者、アナンド・グローバー(Anand Grover)氏の「健康への権利」に関する報告書に言及している。このアナンド・グローバー氏の報告書は、人権高等弁務官事務所によりアクセス可能となっている。:
日本で進行中の原子力災害と国連特別報告者が国連人権理事会に宛てた
「健康への権利」に関する報告書について
IPPNW理事会の声明
2013年5月30日、ドイツのヴィリンゲン‐シュヴェニンゲン(Villingen-Schwenningen)にて
我々は、フクシマ原子力災害がもたらす、現在も進行中であり長期間に亘っての影響も懸念される健康被害に関して重要な勧告を与えてくれているアナンド・グローバー氏の報告書を心から歓迎する。
もし日本政府が、この勧告通りの対応措置を遂行するだとしたら、原子力災害による有害なインパクトをこの時点で、また後世のためにも著しく減じることになり、多くの被災者の生活および健康を改善することになるだろう。
我々は、日本政府が災害に対応する上で、公衆衛生と安全を政府の最優先事項としなかった明らかな証拠に、ただならぬ不安を覚えている。政府は、日本市民を守るという自らに課された最高の義務を果たすことが出来なかったのである。この政府の失敗を矯正することが緊急に必要である。
フクシマ原子力災害が終息するまでの道は遠い。放射能は周辺の土壌そして海洋へと漏出し続けている。フクシマ現場においては、莫大な量の放射能汚染された冷却水が蓄積されていっている。当座しのぎに設置された冷却システムの故障が何度も発生している。莫大な量の放射能が含まれた損壊した原子炉(複数)や使用済み燃料プール(複数)は、更なる地震、津波、台風もしくは故意の損傷に対して余りにも脆弱である。いつ何時、破滅的な放射能放出が、また新たに起こるかもしれないという可能性もある。この危険性を除去するためには、まだまだ何十年もかかることであろう。日本国内に存在する他の原子力発電所も福島第一原発と同様に脆弱である。
電離放射線は人間、植物そして動物の健康に特有のリスクをもたらす。; 人間や他の生物の健康を結合する「*One Health(ワン・ヘルス)」に対するリスクである。それは(電離放射線は)、無差別で見境なく、目に見えず、境界を越え広まっていき、被曝をした人々の残りの人生ばかりでなく被曝者の子孫、後世までにも健康被害をもたらしていく。それ故に、フクシマ災害は世界的な問題である。この特別報告者の調査報告のように、災害が提起しているチャレンジやニーズに絶えず取り組んでいく、独立した国際的な係わり合いは重大なことである。我々は、特別報告者や国連人権理事会、その他の国際的機関が、公衆衛生の状況に、また日本で今も続いている原子力災害のニーズや対応に引き続き取り組んでいくこと、更に特別報告担当者の勧告に対する日本政府の反応を監視し続けていくことを願っている。
我々は、日本政府が国連特別報告者の勧告や日本国会によって設けられた福島原子力発電所事故調査委員会(国会事故調査委員会)による勧告を最優先課題として遂行することを要求する。
特定の勧告
我々は、特別報告者による勧告について次のような特定のコメントを記する。:
原子力災害緊急対策
特別報告者は、緊急対策計画の定期的更新と伝達を勧告している。;
①災害に関する情報の即時公開
②迅速な安定ヨウ素剤の配布
③放射線モニタリングと予測データの効果的で敏速な使用。
我々はこれに同意する。世界中からの、利用可能な最も優れた専門技術/知識と設備機器を用いて、損傷された福島第一原発からの更なる放射線放出を防ぐことが緊急に必要である。できるだけ多くの使用済み燃料を取り除き、それらをできるだけ迅速に乾式貯蔵容器に収容することが必要である。
絶えず続いている放射能放出のリスクがあるのはフクシマだけではなく、日本に存在する他の多くの原子力発電所にもある。それ故に、改善された緊急時計画や遂行すべき方策を速やかに打ち立てるべきである。これには、原子力発電炉に近接する学校や地域社会には前もって安定ヨウ素剤を分配しておくことや地域避難のための計画および訓練も含まれるべきである。
現在のそして未来の日本市民のために、更なる破滅的な放射線放出のリスクを減少させるのに最も効果的な方法は、日本にある原子力発電炉を永久に閉鎖することである。原子力災害から2年間以上に亘り、実質的には全ての原子力発電炉が閉鎖され、しかも電力不足に対する何の準備もなかった日本が、電力不足を避けることに成功したということは、国内の全ての原子力発電炉を永久閉鎖することが実現可能なことであることを証明している。
被災者の健康のモニター、そして放射線被曝に関する規定方針
健康のモニターに関して特別報告者は、年間の追加積算放射線被曝量が【1ミリシーベルト】を超える区域に住む、子供たちも含めて、全ての住民を対象にした包括的および長期的な集団検診を勧告している。(目下のところ、子供たちを対象にした検診は甲状腺検査のみに限られている。);
①健康調査の適用範囲をもっと広めることを為し遂げること。
②福島県外も含めて、内部被曝を査定するための全身放射線測定器へのアクセスに限定がないこと。
③住民の一人一人が、自分達の健康情報を容易に入手でき、医学的に必要と指示された更なる甲状腺検査を受けるアクセスがあること。
④全ての避難者および住民が利用できる精神保健サービスを確保すること。
⑤原発作業員達の放射線よる健康被害をモニターすること。
被曝量限度の規定方針に関して特別報告者は、避難区域と被曝基準量についての国の案が、現在の科学的証拠に基づくべきであり、一般集団の年間基準レベルを【1ミリシーベルト】に戻すべきであると勧告している。特別報告者は、放射線のリスクについての正確な情報および子供の場合は放射線に対してもっと敏感で健康被害を受けやすいことを考慮することの重要性を力説している。
我々は、被災者の健康のために、即時、最優先すべきことは、できるだけ被曝量を減らしていくことであるとコメントしたい。これは特に被曝リスクにもっと敏感である人々ー小児と妊婦に対して言えることである。
住民が【年間5ミリシーベルト】以上の追加積算放射線量を被曝するまでになると予測される放射能汚染区域の面積は、1800平方キロメーターと推定される。
汚染区域には、かなり大きな区域となる福島市や郡山市が含まれる。両市の人口を合わせれば、およそ600,000人となる。現在、住民が年間20ミリシーベルトまでの追加積算放射線量を被曝することが予測できる、幾つかの地域に帰還するように奨励されていることは、我々にとって容認できないことである。
我々は、このような許容しがたい被曝量を最小化するために、これまでよりも、もっと大きなスケールで広範囲に及び、被災住民を移住させる以外には、適切な代替案はないと考える。放射線被曝量を充分に低下させることができ、その状態を持続することが可能であるような規模の除染は、実現不可能であるということが証明されている。初期には放射能量が最大限であるので、今後の避難が実現可能な早期に行われるのであれば、最も有益性がある。
住民の放射線被曝量を最小化するのに必要なこと:
• 全ての放射能汚染区域に住む住民の包括的で詳記された放射線被曝(内部と外部被曝)の合計推定量のマッピング-内部被曝は全身放射線測定器(ホールボディーカウンター)による検査で確認されること。このような詳細に至るマッピングは未だ政府当局によって包括的に取り組まれていない。また、多くの政府の放射能モニタリング・ステーションの 敷地が、新しく舗装されたり別の形での除染作業が為されたりして、不実なやり方で低い放射線量測定値を提示している。放射線量の測定は、利害関係に束縛されない独立した検査が為されることが極めて重要である。
• 日本の放射能汚染された全区域に及ぶ陸地、海、動物、植物、食物、そして淡水の放射能を長期間に亘りモニターすること。
• 放射線データは、国民が容易にアクセスできるようにすべきである。
• 放射線による健康リスクに関する正確で独立した情報は、国民が容易にアクセスできるようにすべきである。年間被曝量が【100ミリシーベルト】以下であれば健康にリスクをもたらすことはないという主張は、科学的に間違っているし何の弁護の余地もない。このような主張は公式情報や教材から撤回されるべきである。
これらの綱要は全て、被災者が自分達の将来について、自分達のために、そして自分達の家族のために、インフォームド・チョイスをすることができるようにするために必要な事柄である。
放射線が境界線を重んずることなどはなく、放射性物質の降下は福島県だけにとどまらなかった。栃木、宮城、群馬そして千葉における地域も放射能汚染された。現在のところ、政府の原子力災害への対応策は人為的に福島県だけに限られている。我々は、国の取り組み対策が県境をベースにしたものでなく、放射能汚染のレベルをベースにすることを要求する。
我々は、一般民衆の最大限の被曝許容量を速やかに遅延なく【1ミリシーベルト】に戻すべきだとの特別報告者の見解に、心から同意する。原子力災害から2年以上経って、一般人にとっての被曝量が【年間5ミリシーベルト】を超えること、特に50歳未満の人たち、そして何よりも子供達や妊婦は、このことを避けるべきである。
長期の健康モニタリングを最も確実に為し遂げるには、相当な被曝を受けた住民全員の-其々の被曝推定量も含めて-包括的な被曝住民登録制度を確立することである。我々は、今日までに行われた、低参加率の調査では不十分であると謂う特別報告者に同意する。被曝住民登録は、その結果、彼等がどこに住んでも、国の死亡率、ガン、出生結果および先天性奇形データへの長期間連結を可能にすることになる。特に懸念されることは日本におけるガン登録の不十分さである。2012年には、日本にある47都道府県の中で、ただの10の都道府県にしか、このような登録がなかったのである。
健康モニタリングのプランおよび結果は、独立的、国際的にピア・レヴューされ、即座に日本語と英語で公表されるべきである。
我々も特別報告者と同様に、原子力作業員の健康状態を懸念している。2012年の10月までに、少なくとも24,000人の作業員が福島第一原発で働いたと推測されている。これから何十年にもわたり、更に何万人もの現場作業員を必要とすることになる。適切な放射線防護とモニタリングの提供、および健康管理に加えて、これらの作業員の為に、原子力産業における全ての作業員の生涯の被曝量を登録する国の制度が、日本では必要である。この生涯被曝登録制度は他の国には存在しているものである。この登録制度には下請業者や公益事業従業員も含めなけれねばならない。作業員が個人で自分達のデータへ容易にアクセスできるようにすべきである。
除染
我々は、放射線レベルを1ミリシーベルト/年以下までに低下させるために、政府の除染計画は明確な予定表を含むべきであると謂う特別報告者の勧告に同意する。:
①その場限りのやり方で、多くの場所に蓄積されている大量の放射性瓦礫の貯蔵について、コミュニティーと共に計画すること。
②そして、そのような場所を明確にマークすること。
しかしながら、我々は多くの放射能汚染度の高い区域を許容可能な放射能レベルに戻すのに、除染のみに頼ることはできないことを警告する。
透明性とアカウンタビリティーそして効力的なコミュニティーの参加
核のガバナンスの領域は大部分において健康部門の範囲外にあるものであるが、それぞれの被災者およびコミュニティーが原子力災害の全ての面に関しての意思決定へ効力的な参加をすると謂う特別報告者の勧告に、我々は強く同意する。これには健康に関する全ての面が含まれるべきである。
補償と救援
我々は、2012年6月に国会で可決された被災者支援法の履行が必要であるという特別報告者の勧告を支持する。:
①健康診断および原子力災害と放射線被曝による健康被害の治療は無料で提供されること。
②東京電力に対する補償要求は敏速に解決されるべきである。
③人々が、-避難するのか-留まるのか-もしくは年間の追加積算被曝量が1ミリシーベルトを超す地域に帰還するのか-何れの選択をするにしても、被災者支援法のもとに履行される救援パッケージに、被災者の生活再建と修復のコストは含まれるべきである(住宅、雇用/仕事、教育などの健康の社会的決定要因に取り組むことが含まれる)。
結びの言葉
優れたガバナンスと健康への権利を現実化するには、公衆衛生と安全が意思/政策決定の中心にあることが必要である。この点において、日本政府は、原子力産業とフクシマ原子力災害に関して取り組まなければならないことが山ほどあり、深刻な欠陥を克服せねばならない。この特別報告者の有益な勧告が、もし履行されるのだとしたら、現在も進行中の原子力惨害によって被災した人々の健康/医療のニーズに実質的に取り組んでいくことができるであろう。
原子力発電に関する健康への権利
国家が、核エネルギーの平和的利用、具体的に謂えば原子力発電に対して持つ、所謂「不可譲の権利」は、世界中の人々を、どんなときでも、無差別で見境のない放射能汚染のリスクに曝す必然性を伴う。それは、未来の世代の健康と権利を蝕み、核兵器拡散のための手立てを提供することにより、核戦争と人道破滅の結果をもたらす脅威を激化させることになる。
安全で再生可能なエネルギー源への移行が、人権と健康の促進を可能にすることができる。
以上
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*訳注: One Health(ワン・ヘルス):人間、動物、エコシステムが相互に連結しあっていることを認識するコンセプト。
〈記事出典コード〉サイトちきゅう座 http://www.chikyuza.net/
〔eye2286:130614〕