n-tv オンライン記事: 驚くべき国連のフクシマ報告書- IPPNW ドイツ支部 アレックス・ローゼン(Alex Rosen)博士の論評

4月 2日、国連放射線影響科学委員会( UNSCEAR )は、 東京電力福島第1原発事故の健康への影響に関する最終報告書を公表しました。報告書は、「フクシマでの被曝によるがんの増加は予想されない」と述べています。

 

「UNSCEARの最終報告書」については、福島民報が報道しています。http://www.minpo.jp/pub/topics/jishin2011/2014/04/post_9745.html
報告書の概要が、国際連合広報センターのサイトにプレス・リリースとして、日本語で掲載されています。http://www.unic.or.jp/news_press/info/7775/

この国連のプレス・リーリースは、国連科学委員会(UNSEAR)について下記のように説明しています。:

 

UNSCEARについて

1955年に設置された原子放射線の影響に関する国連科学委員会(UNSCEAR)は、電離放射線源のヒトの健康と環境への影響を広範に検証するこ とを目的としている。UNSCEARの評価は、各国政府や国連機関が電離放射線に対する防護基準と防護のためのプログラムを作成するための科学的基盤と なっている。

世界中の80名以上の著名な科学者が、福島第一原子力発電所の事故に伴う放射線被ばくの影響を解析する作業に取り組んだ。彼らがとりまとめた解析結 果は、2013年5月に開催された委員会の年次総会で、27の加盟国により、技術的かつ学術的に精査された。科学者らは全員、本評価に参加するにあたり、 利益相反の有無を申告することを義務付けられた。」
80人の著名な科学者達がUNSCEARのフクシマ報告書作成に取り組み、彼ら全員が、利益相反の有無を申告することを義務付けられということですが、そうだとすると、このことを、彼ら全員に利益相反の問題がなかったものと理解すべきなのか、その点が不明確なように思えるのですが…。

 

何れにせよ、このUNSCEAR最終報告書に対して、IPPNWドイツ支部のアレックス・ローゼン(Alex Rosen)医学博士が、非常に批判的な論評をドイツメディア「n-tvオンライン」に寄稿しています。ローゼン博士は、「フクシマ大災害の影響結果についての論議は、それぞれ一人一人の人間が持つ、放射能汚染のない健康な環境に住めるという権利に関する問題であるのだ」と、人間が持つ当然の権利である放射能汚染のない環境に住めることの重大さを訴え、論評を結んでいます。
そのローゼン医師の論評を和訳して、ご紹介させて戴きます。なお、論評を和訳することについては、ローゼン博士より許諾を頂いております。

原文へのリンクです。:

http://www.n-tv.de/panorama/Der-erstaunliche-UN-Bericht-zu-Fukushima-article12588996.html

 

n-tvオンライン-2014年4月2

死亡者って? どの死亡者のこと?

驚くべき「 国連のフクシマ報告書」

 

論評寄稿者: アレックス・ローゼン(Alex Rosen)医学博士―IPPNW ( 核戦争防止国際医師会議 )

( 和訳: グローガー理恵 )

 

 

国連の報告書が明白にしていること: 日本の原子力事故が、より多くのがん死亡者をもたらすことはない。これに対し、IPPNW医師団は「この報告書は、産業に好意的な原子力国家のメッセージと全く同様に、被曝がもたらす健康被害を故意に軽視し、被災者を侮っている」との見解を表明している。結局のところ、フクシマ大災害は全く収束していないのである。

 

 

今週の水曜日、原子力放射線の影響に関する国連科学委員会 ( UNSCEAR )は、フクシマ核大災害についての報告書を発表した。報告書の中で、筆者たちは「フクシマ原発事故による放射線被曝と関連づけられるような、がん発生率における著しい変化 (増加)が、今後あるとは予想されない」と主張している。我々、IPPNW医師団は、このような (UNSCEARの) 過小評価への試みを批判する。「がん」という病気は、その出所の表示を掲げていないこと、そして「がん発病」の理由を明らかで疑問の余地のないような、ただ一つの原因に帰せることができないこと、― これらの事実が、いかなる因果関係をも否認する上で、都合よく利用されているのである。我々は、この種の策略を既に、タバコ産業やアスペスト企業から知っている。

 

UNSCEAR報告書の作成者たちは、まるで、どんなに僅かな放射線被曝量であっても、がん発病のリスク上昇を伴うことが、一般的には知られていないかのように、振る舞っているのである。報告書の筆者たちは、これらのリスクについて被災者達に率直に、はっきりと説明する代わりに、疑わしい推定や選択的な(食物の)抜き取り検査、そして修整軽減された被曝線量をベースにして、「フクシマの人は、ただ怯えただけで、ことが済んだ」との、産業に好意的なメッセージを広めようと試みている。原子力大災害の結果、何万件ものがん症例数が予測されていることを「重大ではない」と称することは、被災者を侮っていることである。

 

UNSCEAR報告書は、被災者集団における被曝線量を算定する上で、IAEAの食物サンプリングを決定的なベースとしている。― この「IAEA」という機関は、「世界中におよぶ原子力利用の促進」を目標に設立されたものである。 好ましくない独立した食物抜き取り検査は、それに対して、無視されている。放射能総放出量を算定する上で、報告書の筆者たちは、独立した研究所による明らかに、より高い放射能総放出量の算定を鑑みることなしに、日本の原子力当局のスタディーによる推定値を使っている。フクシマ現場作業員たちの被曝線量推定には、大部分が、物議を醸す、大災害を引き起こした重大責任者である福島原発の運営者、東京電力からのデータが直接使われている。

 

フクシマについての論議に終止符を打つことは不可能

 

このUNSCEAR報告書によって、原子国家は、フクシマを巡る論議に急いで決着をつけようと試みている。しかしながら、フクシマ原子力大災害は未だに、全く終わっていないのである。日々、何百トンもの放射性廃棄物が海洋へと流れ込んでいっている。除染作業は行き詰まっている。破損された原子炉(複数 )から放射性物質を救出する危険な作業は、これから未だ何十年も続いていくことであろう。放出されたセシウム-137の半減期はおよそ30 年である。原発事故から、たった3年後に、原子力大災害がもたらす長期的な影響結果について最終的な報告書を作成したいと願うこと、これは非科学的なことである。被災地域の人々が必要としているのは、信頼できる情報であり、教示であり、援助であり、被災者を惑わせる虚偽の希望ではない。

 

去年の秋、アナンド・グロバー (Anand Grover ) 国連特別報告者は、健康への権利/人権を課題とした、フクシマの状況に関する報告書を公表した。彼は報告書の中で、「被災者達の健康への権利および健康な環境に住む権利が、計画的且つ意図的に拒否されている」と、公然と非難している。被災者達は、自分たちの医療データへのアクセスを持たず、セコンドオピニオンを求める可能性もなく、汚染地域を去りたいと意を決しても、何の援助も得ることはなかった。公平でバランスがとれ、よく調査され、被災者への共感に満ちたグローバー氏の報告書を読むと、UNSCEAR報告書との際立った違いが、極めてはっきりとしてくる。

 

フクシマ大災害の影響結果についての論議は、経済的および政治的な利害関係に服さない医学的調査研究の独立性に関するだけの問題ではない。それは、それぞれ一人一人の人間が持つ、放射能汚染のない健康な環境に住めるという権利に関する問題でもあるのだ。
以上

〈記事出典コード〉サイトちきゅう座 http://www.chikyuza.net/
〔eye2599:140425〕