2017年7月26日
6月19日に放映された「クローズアップ現代」は、「総理は『平成30年4月開学』とおしりを切っていた」などと記された新文書をスクープ報道した。番組には匿名で現役の文科省職員も登場した。これは社会部が独自取材で得た資料、証言だった。番組では社会部の記者と並んで政治部の官邸キャップ・原聖樹記者がスタジオ出演した。 その中で、原記者は、この番組がスクープ報道した文書で示された不公平で不透明な特区選定の実態をことごとく否定し、手続きは全て「議事録」で公開され、一点の曇りもないと胸を張る山本幸三大臣や特区諮問会議民間議員の言い分をなぞり、代弁した。NHKの政治報道を政府広報に貶める元凶は何かを雄弁に物語る解説だった。 そこで、私たち視聴者有志は特区選定のプロセスについて必要なファクト・チェックを行った上で、昨日、7月25日、611名の連名で原記者宛てに質問書を提出し、8月2日までに文書で回答を求めた。 質問の骨子は次の2つである。
①国家戦略特区諮問会議や同会議による関係者ヒアリングの議事要旨を精査すると、原記者が紹介した山本幸三大臣や諮問会議民間議員の言い分は、特区選定の真相を著しく歪めたものであることが判明する。 原氏の解説はこうした資料を主体的に吟味することなく、内閣府や「公正・中立」とは到底思えない「民間議員」の言い分を喧伝したものではないか?
②「NHK放送ガイドライン 2015」には次のような規定がある。 「報道番組やドキュメンタリィー番組、情報番組などでは、正確な取材に基づ いて真実や問題の本質に迫ることが大切である。虚構や真実でない事柄が含まれ ていないか冷静な視線で見極めようとする姿勢が求められる。」 原氏の解説は、「NHK放送ガ イドライン 2015」のこうした規定に反するものではないか?
今回の質問書提出には各地の視聴者のほか、元NHKプロデューサーなどNHK・OBやメディア論専攻の研究者、現・元大学教員、弁護士なども連名に加わっている。質問書は長文なので、2回に分けて転載することにする。
———————————————————————- 2017年7月25日 NHK政治部 原 聖樹 様
「クローズアップ現代+」(6月19日放送)における貴職の発言についての質問書
NHK視聴者有志611名(有志名簿は同封別紙)
原様におかれましてはNHK政治部の官邸担当キャップという重責を担われ、ご多忙の毎日をお過ごしのことと存じます。 去る6月19日にNHK「クローズアップ現代+」は<波紋広がる“特区選定“~独占入手 加計学園”新文書“>というタイトルの番組を放送し、その中で、「国家戦略特区」として獣医学部の新設が決定される過程で行政の公平性、透明性が確保されたのかどうかを、NHKが独自に入手した文書をもとに検証しました。この番組の内容は国会でも取り上げられ、市民の間でも活発な議論を喚起しました。
原様はこの番組の後半で、大河内直人・社会部記者とともにスタジオ出演され、「諮問会議のメンバーからは、選定のプロセスについて一点の曇りもないという発言が出ているが、これはどういうことか?」という武田真一キャスターの問いに対して次のように発言されました。
「すべての決定の過程が議事録が残っている①上に、オープンにインターネット上でされていると。すべての場所に必要な人が出席して、意思決定をしている中において、間違いが起きるはずがないということなんですね。 さらに先ほど『広域的』という文言もありましたが、有識者の方々は記者会見で、われわれが獣医師会や、規制を緩和したくない文科省に譲歩してなんとか認めてもらうために入れた文言であって、なんらかの変な形で入ったわけではなく、われわれのサジェスチョンで山本大臣が決定した②のだと。ですからそこに違法性はない③、政府もこうしたプロセスを踏んでることから、手続きが適正に行われていて違法性もない④と強調しているわけなんです。」(下線と番号①~④は質問者が追加)
このような原様の解説は、武田キャスターが紹介した諮問会議メンバーの主張を補充する形でなされたものですが、ファクト・チェックが必要と思われる箇所、NHKの報道番組に求められる自立した論点設定という観点に照らして疑問点があります。下線を付した①~④がそれです。 そこで、ご多忙のところとは存じますが、以下の私たちの質問について、8月2日(水)までに、別紙に記載しました宛先へ、文書でご回答をくださるよう、お願いいたします。
ご発言①について
a)私たちは国家戦略特区諮問会議、国家戦略特別区域会議、国家戦略特区ワーキンググループがそれぞれ公表した議事要旨、ヒアリング議事要旨(議事録は諮問会議運営規則第8条により、会議開催後4年を経過した後に公表するとなっています)を調査しましたが、獣医学部の新設申請が加計学園1校となる大きな理由になった「広域的に」、「開校時期を平成30年4月とする」といった条件を設けることをめぐって議論が交わされた記録はどこにも見当たりませんでした。
b) 逆に、6月13日に諮問会議有識者議員が開いた記者ブリーフィングにおける質疑の中で、今治市から諮問会議に提出された申請資料、今治市へのヒアリングの議事要旨が申請者の希望で公表されなかった事実が明らかになっています。
c) また、同上記者ブリーフィングにおける質疑の中で、諮問会議ワーキンググループ座長の八田達夫氏は、京都についても公平性を保つためにヒアリングの議事要旨を公表しなかったと発言したのに対し、記者から、京都府と京都産業大に取材したところ、ヒアリングの最初に記録をすみやかに公表することに同意していたという回答を得たことが指摘 され、京都側は諮問会議の非公表の理由を否定しています。(醍醐注:後掲)
質問1―1 上記a~cのようなファクト・チェックに照らせば、「すべての決定の過程が議事録が残っている」という原様の解説とは裏腹に、重要な意思決定の過程が議事録(正確には議事要旨)に残されておらず、原様の解説は事実に反する関係者の主張を主体的に検証することなく紹介されたと思われますが、いかがですか? 私たちの判断が間違いとお考えであれば、相応の反証事実をお示しください。
質問Ⅰ-2 「NHK放送ガイドライン2015」に収められた「4 取材・制作の基本ルール」の①企画・制作の3項目に次のような規定があります。 「報道番組やドキュメンタリィー番組、情報番組などでは、正確な取材に基づいて真実や問題の本質に迫ることが大切である。虚構や真実でない事柄が含まれていないか冷静な視線で見極めようとする姿勢が求められる。」 原様の解説の中の①は、諮問会議有識者議員の真実でない発言を冷静に見極めることなく、そのままなぞる解説といえるものであり、私たちは「NHK放送ガイドライン2015」の上記の規定に反するものと考えます。 原様の見解をお聞かせください。 (質問書の後半は次の記事に続く)
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補足資料:「一点の曇りもない」どころか「曇りだらけ」の特区選定手続き
*国家戦略特区諮問会議・有識者議員 記者ブリーフィング(要旨) http://www.kantei.go.jp/jp/singi/tiiki/kokusentoc/briefing.html → この資料の19~20ページで、記者が京都府に対する独自取材にもとづいて、「関係者の要請により」という八田達夫座長の説明に疑問を投げ掛けている。
*この件は国会でも森ゆう子議院、櫻井充議員が取り上げ、内閣府を追及している。衆参国会会議録で検索し、次のように関係する部分の抄録を作成した。 国家戦略特区ワーキンググループによる関係者ヒアリングの公表をめぐる国会質疑抄録 http://sdaigo.cocolog-nifty.com/tokku_wg_gizi.pdf
これについて、内閣府は、京都府と京都産業大のヒアリングが行われたのは2016年10月17日で、公表したのは2017年3月26日と答弁している(上記抄録の2ページ)。 しかし、「国家戦略特区諮問会議運営規則」の第7条には、「2 前項に規定する議事要旨は、会議の開催された日から起算して3日以内に公表するよう努めなければならない」と定められている。 「国家戦略特区諮問会議運営規則」 http://www.kantei.go.jp/jp/singi/tiiki/kokusentoc/pdf/kisoku.pdf 結局、今年の3月に平成30年4月開校、1校のみに絞られるまで加計学園と京都産業大の学部新設企画を比べる資料は公表されなかったのである。 ちなみに、森ゆう子議員は昨日7月25日に開かれた参議院予算委員会(閉会中審査)において、再度、こうした情報公開の大幅で不可解な遅れを質している。 この点をみても、「一点の曇りもない」どころか、「曇りがたくさんある」選定手続きだったことは明らかである。
初出:醍醐聡のブログから許可を得て転載
〈記事出典コード〉サイトちきゅう座 https://chikyuza.net/
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