NPO法人原子力資料情報室 声明: 東京電力を解体せよ―浪江町ADR拒否、日本原電資金援助をうけて―

2018年4月11日
NPO法人原子力資料情報室

4月5日、浪江町民約1万5700人(代理人:浪江町)が1人あたり月10万円の精神的賠償を35万円に増額するよう求めて申し立てた国の裁判外紛争解決手続き(ADR)について、原子力損害賠償紛争解決センターは、東京電力と浪江町に和解手続きの打ち切りを通知した。センターは2014年3月、月5万円(75歳以上は最大月8万円)を一定期間上乗せする和解案を提案し、町民側は受け入れたが、東京電力は「他の避難者との間で公平性を欠き、影響が大きい」として6回に渡り拒否したため、打ち切りに至った。

東京電力は福島第一原発事故後、「福島原子力事故への対応こそが東電の原点であり、福島への責任を果たすために東電が存続を許された」と繰り返し述べ、さらに、「損害賠償の迅速かつ適切な実施のための方策」として「最後の一人まで賠償貫徹」「迅速かつきめ細やかな賠償の徹底」「和解仲介案の尊重」を掲げてきた。

福島への責任は一体どこへ行ったのか。この3つの方策と、浪江町ADRへの対応の齟齬は一体どういうことなのか。許されるものではない。

奇しくも同日、原子力規制委員会の第562回原子力発電所の新規制基準適合性に係る審査会合において、日本原子力発電(以下、日本原電)は東海第二原発の新規制基準への対応費用約1740億円について、東京電力と東北電力が資金援助に応じたと報告した。東海第二発電所の発電した電力は東京電力が8割、東北電力が2割の比率で受電することが契約に規定されており、両社は日本原電の自己資金を超える債務について、この受電比率に応じて債務保証等による資金支援を行うという。

日本原電は電力会社と電源開発の共同出資で設立された原子力発電専業会社であり、東京電力と関西電力が交互に社長を輩出してきた(現在の村松衛社長は元東京電力常務)。同社は保有する4基の原発の内、東海第二原発、敦賀原発2号炉の再稼働を目指しているが(東海原発、敦賀原発1号炉は廃炉)、敦賀原発2号炉では活断層問題、東海第二原発では30km圏内にある6自治体からの事前同意が必要になるなど、再稼働へのハードルは極めて高い。所有する原発が稼働できない日本原電だが、まったく発電していないにもかかわらず、契約に基づき東京・関西・中部・北陸・東北の5電力から販売電力収入の名目で2016年度は1065億円(東京電力からは430億円)を受け取っている。日本原電は2011年からの6年間、5電力から約7690億円の販売電力料を受け取り、この料金は電力消費者に加算されている。こうした電気料金は稼働するあてもない原発に費消されている。日本原電はこの収入がなければすでに破綻していたことは明らかだ。一方で、東京電力が拒否した浪江町ADRの和解案による賠償額の上振れ分は年間95億円程度である。

現在、国は東京電力に対して賠償のための資金援助用に13.5兆円もの交付国債枠を設定しているが、現在、すでに10兆円超は換金されることが確定しており、さらに資金援助必要額がこの枠を上回る可能性も大きい。国(原子力損害賠償・廃炉等支援機構)の東京電力の持株比率は現時点で54.69%であり、優先株の転換状況によっては将来75%まで増加することも有りうる。こうした国の手厚い支援がなければ、東京電力が破綻していたことも明らかだ。本来、福島への責任を果たすために存続が許された破綻企業が、その責任を放棄して破綻企業を支援する、極めて異様な理にかなわない事態がおきている。

10日、世耕弘成経済産業相は東京電力の資金支援について「経営責任で判断すべきことだ」として容認する考えを述べたという。これも理解に苦しむ発言だ。現在、東京電力では、経済産業省の西山圭太元大臣官房審議官が取締役に、資源エネルギー庁の山下隆一元資源・燃料部長が執行役に就任している。つまり、経営判断を行なったのは、持株比率50%超であり、役員を派遣している経済産業省なのだ。

しかし、これほどまでの巨額の税金を投じている国が、東京電力に破綻企業を支援させることは許されることではない。それ以前にこれまで6年間、東京電力が日本原電に支払ってきた2708億円に上る「電力購入代」も本来支払わせるべきではなかった。東京電力に不要な支出を行わせる余裕があるのであれば、「福島への責任」をとらせ、国民負担の低減を図るのが、国の責任なのではないか。

福島への責任を放棄し、破綻企業を支援する東京電力を存続させる必要性はもはや存在しない。東京電力は破産処理するべきだ。

以上

*東京電力の2016年度販売電力量は2415億kWhのため1世帯当たり年間798円負担している計算になる(一世帯当たり年間消費電力量:4432kWh)。
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2018年4月20日 原子力資料情報室第97回公開研究会

問われる日本のプルトニウム ―再処理政策の何が問題なのか―

http://www.cnic.jp/7907 

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・最寄り駅:東京メトロ 国会議事堂前駅

・主催:NPO法人 原子力資料情報室

・協力:核情報、原水爆禁止日本国民会議
※入場無料、同時通訳有り

▲講演
フランク・フォンヒッペル(プリンストン大学名誉教授、「科学とグローバル安全保障」プログラム上席研究員)
▲パネルディスカッション
登壇者:
フランク・フォンヒッペル
小熊英二(慶應義塾大学総合政策学部教授)
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