TPPの「毒まんじゅう」ISDS毒素条項で日本の脱原発を潰す方法

TPPの「毒まんじゅう」ISDS毒素条項で日本の脱原発を潰す方法
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環太平洋連携協定(TPP)の中で、米国の業界団体などが盛り込むように迫っているのが、TPPに参加する各国政府を、多国籍企業が自由に訴えることができるようにする制度(ISDS)です。

このISD条項=「Investor(投資家) State(国家)  Dispute(紛争) Settlement(解決)」=「国家と投資家の間の紛争解決手続き」とは、ある国家が自国の公共の利益のために制定した政策によって、海外の投資家が不利益を被った場合には、世界銀行傘下の「国際投資紛争解決センター」という第三者機関に訴えることができる制度です。

貿易自由化を目的にした多くの2国間・多国間協定では、投資先の国の政策で「不利益を被った」と企業が判断すれば、提訴できる仕組みが盛り込まれています。すでに多くの自由貿易協定(FTA)に盛り込まれ、世界中で「主権を侵害しかねない」と大問題になっていて、毒素条項などと言われています。

多くの協定で仲裁機関に指定されているのが、国際投資紛争解決センター(ICSID)です。確かに国際協定において紛争解決手続きを前もって決めておくのは重要なのですが、問題はこのワシントンにある紛争解決センターが世界銀行傘下であることです。国際通貨基金=IMFはEU系の国際金融機関ですが、世界銀行はアメリカの支配下にあります。

現に、これまでにICSIDを使って46件の提訴がありましたが、31件が米国企業が原告で、中には米国企業がカナダとメキシコから多額の賠償金を勝ち取った例がありましたし、逆にISD条項が発令された紛争で米政府が負けたことは一度もありません。アメリカが訴訟上手なうえに、審判がアメリカ寄りなのですから、勝負になりません。

しかも、この審理は非公開で、不服があっても上訴することができません。そして、地方自治体の規制も、訴訟の対象になります。

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ところで、日本の電力会社各社でつくる電気事業連合会のホームページに,ISDS条項を使った国際訴訟が「海外電気情報トピックス」として紹介されています。

スウェーデン国有電力会社の子会社が、ドイツの原子力発電所停止で提訴

2012年7月31日

ドイツ紙は2012年7月13日、スウェーデン国有電力会社バッテンファルが子会社のバッテンファルヨーロッパを通じてドイツ連邦憲法裁判 所に、昨年改正された原子力法について違憲の訴えを申し立てたと報じた。同社はドイツ国内で運営するクリュンメルとブルンスビュッテル原子力発電所が、原子力法改正によって運転停止に追い込まれ、多大な経済的損失が発生したとして提訴した。バッテンファルは今回の違憲訴訟では具体的な賠償金額を提示していない。なお、同社はすでに世界銀行傘下の国際紛争解決センターに調停委員会の設置を求め、委員会が設置されている。

この記事に出てくるバッテンファル=バッテンフォール(Vattenfall AB、ヴァッテンフォール、ヴァッテンファル)社は、スウェーデンが100%出資している国有会社でありながら、ドイツ・ポーランドを中心にEUのエネルギー大手の多国籍企業になっています。なんと、ドイツの8大電力会社のうち3つを抑えて、ドイツ三大電力会社になっているのです(スウェーデンって原発依存度45%だし、軍需産業が主要産業だし、一筋縄ではいかない国です)。

さて、ご存知のように福島原発事故を真摯に受け止め、2011年10月に2022年までに17基の原発を全廃すると発表したドイツ政府ですが、この決定によって投資が無駄になったとして、バッテンファル社が損害賠償を求める方針だというのがこの記事です。

実は同社は2009年にも、独ハンブルク市が火力発電所に対する規制を強化したことに対して損害賠償を要求しており、ICSIDは、14億ユーロ(1ユーロ=125円換算で1750億円)の支払いを命令し、2010年にドイツ政府が和解金を支払うことで和解が成立しました。

電気事業連合会がこの裁判のことをわざわざ載せているのは、脱原発なんてしようとしてもこうやって裁判を起こされるんですよ、という警告のつもりなんでしょうね。原発推進の電力会社にとってはこの裁判は朗報なのでしょう。

TPPに即して言えば、日本が着工中で未完成の原発や、新たに建設を予定していた原発の建設中止を決めたら、入札していたアメリカの大企業が日本政府と電力会社と地方自治体相手に裁判を起こせるわけです。自国のエネルギー政策さえ自由に決められなくなってしまうのが、TPPが主権侵害条約と言われるゆえんです。

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さて、この裁判で、バッテンファル社はドイツの一方的な原子力発電所閉鎖決定が自分たちの資産価値を破壊したと主張しました。同社は、独北部のブルンスビュッテル原発(66・7%の持ち分)、クリュンメル原発(50%の持ち分)に計7億ユーロ(875億円)を投資していました。

この投資について、同社は2010年9月のドイツ政府が古くなった原子力発電所の運営期間を8~14年延長するという決定を信じて7億ユーロをこの二つの原子力発電所に投資したのに、2011年3月の福島原発事故後にドイツ政府が二つの原子力発電所を含む8ヶ所の原子力発電所を突然閉鎖したことによって、この投資金が無駄になってしまったと主張したのです。

そして、2012年12月のドイツの国際公共放送DWの報道(Vattenfall seeks recompense for German nuclear phaseout Deutsche Welle)によれば、バッテンフォール社は46億ドル(1ドル=95円換算で4370億円)請求し、ドイツのエネルギー会社2社(E.on and RWE)には、20億ユーロ(2500億円)と8億ユーロ(1000億円)の賠償を求めているとのことです。

つまり、875億円投資していただけなのに、3つの請求あわせて8000億円近く請求しているわけで、すごいですねえ、多国籍原子力企業=核マフィアって。絶対に脱原発なんて許さないというわけです。

日本で言うと、たとえば青森県で着工中の大間原発が思いうかびます。青函海峡を隔てて函館からわずか23キロのこの原発は、ウラン・プルトニウム混合のMOX燃料をもやすプルサーマル専用炉であり、使用済み核燃料の再処理でたまったプルトニウムの消費をするための原発です。

地上最悪の毒物とも言われるプルトニウムを使用する原発が、函館の目と鼻の先に作られようとしているのですが、この原発建設を受注している東芝は、アメリカの原発専門メーカーのウエスチングハウス社を買収しています。TPPのISDS条項を使ってこのウエスチングハウス社が大間原発建設建設がなくなった損害賠償をしろと、日本政府や青森県などを提訴しうるわけです。

もともと、原発再稼働・原発推進に熱心な安倍内閣ですから、TPPに参加した後、実はISDS条項と言うのがあって原発建設を止めると裁判を起こされてかえって高くつきます、と言いだしかねません。

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国家の主権さえ制限するTPPの罠も、原発推進の核マフィアの計画も、実によくできていると思いませんか。

そして、もちろん、TPPの毒素条項を使って侵害される日本の利益は原発に限らず、生活の隅々まで多方面に及ぶのです。