VICEニュースから:日本のイスラム国との新たな戦争の内幕

原文(英語)へのリンク:

https://news.vice.com/article/inside-japans-new-war-with-the-islamic-state

 

*後に、和訳を訂正/変更することがありますので、その旨ご了承下さい。

 

日本のイスラム国との新たな戦争の内幕

VICE ニュース (2015年2月6日付)

著者: ジェイク・エーデルシュタイン & ナタリーキョウコ・スタッキー

(抄訳: グローガー理恵)

 

2月1日の早朝、イスラム国は日本人ジャーナリスト後藤健二の処刑ビデオを公開した。 「日本政府へのメッセージ」と題されたそのビデオには、欧米諸国にジハードのジョンとして知られている覆面の斬首執行人が現れ、日本の首相、安部晋三を名指しで呼んだ。

 

「安部よ、お前が勝ち目のない戦争に参加すると向こう見ずな決断を下したお蔭で、このナイフは健二を虐殺するだけでなく、虐殺を続け、お前の国の国民が見つけ出される何処においても、大虐殺を起こすことになるだろう」と、ジハードのジョンは述べた。 「いよいよ、日本にとっての悪夢が始まるのだ。」

 

このビデオが出現したのは、もう一人の日本人の人質、42歳の湯川はるなが過激派によって斬首されたことを暗に示す録画が公開された一週間後であった。

 

日本は、二人が昨年シリアで拉致された後、拘留された両者を解放し戻すための交渉を何ヶ月間の間、 秘かに行ってきたのだった。 それから、1月17日、安部はカイロで演説を行った。 日本の外務省の内部関係者によると、安部は、外務省が準備草案したスピーチの原文から離れて、とりわけ大きな注意を惹くことになった2章の文章を付け加えたのだった:  「イスラム国が引き起こしている脅威を鎮圧するために、我々は、トルコとレバノンに支援を提供し、また、イラクやシリアの避難民および難民にも援助を提供いたします。 我々は、イスラム国と戦う国々に、人的資源とインフラを開発するために総額2億ドルの援助を約束します。」

 

その2日後、イスラム国は、オレンジ色のジャンプスーツを着て跪く2人の人質の間に立ったジハードのジョンが映し出されたビデオを公開した。 彼は日本に身代金を要求したー偶然ではないー2億ドルの身代金をである。 その後、人質解放の交渉は失敗に終わり、2人とも殺害された。 元レバノン大使、天木直人は日刊ゲンダイ新聞にこう語っている: 「この演説は ”外交上の判断における先例のない誤り” であった」と。

 

安部政権は、彼の積年の軍事計画をさらに進めるために、この二人の日本人男性の死を利用したようであった。 彼は、”日本人の命を守る” ために日本自衛隊の使用を拡大するばかりでなく、日本経済の敵に対する軍事力行使を正当化すると訴えたのである。

 

安部は、後藤のビデオが公開された後、公式声明で述べた: 「 非道・卑劣極まりないテロ行為に強い怒りを覚える……テロリストたちを決して許さない。 その罪を償わせるために国際社会と連携していく。」

これらは、日本の総理大臣から発せられる言葉としては、異常に激烈である。 日本経済新聞によれば、安部は自宅から総理府に向かう途中、準備されていたスピーチに挑発的な言葉を付け加えたのだという。

 

日本では、 ”政府による危機対処のミスがあった可能性あり” というような問題点に触れることは、主に、タブーとなっている: 日本の主流報道機関が、その事を問題視することはなかった。 日本において第2番目の大手新聞である朝日新聞は、一つの記事の中で「政府が行った危機対処法について討議すべきであるとの声もあること」を認めた。 しかし、記事は、その討議内容については何も触れていなかった。

 

2月2日、朝日テレビ番組 ”報道ステーション” は、 「首相と内閣府が、総理のカイロ・スピーチを外務省からハイジャックし (スピーチの内容について総理官邸が主導して作成した)、安部は、外務省から中東訪問自体を ”見直すよう” にとの進言を受けていたが、それを無視した」 と報道した。 この報道に対し外務省は、「”報道ステーション” の報道は、外務省関係者が首相の中東訪問に反対したような印象を与えていた」と述べ、抗議した。 朝日テレビネットワークは、当該報道の取り消しを拒否した。

 

安部政権は、これまであった批判を、これらの批判は ”テロリストに屈すること”  に等しいとして攻撃した。 2月2日の記者会見で菅義偉官房長官は、「テロに屈しない」という言葉を4回使った。 彼は、「中東に財政援助をしないということは、まさにテロに屈してしまうということであり、テロリストの思うつぼになるということではないでしょうか」と、述べた。

 

「官僚一年生でさえも、安部の言葉がISILのような過激派への宣戦布告となる、ということは分かるでしょう。」

 

日本経済産業省における以前の内部告発者、古賀茂明ーそして、「国家の暴走 -安部政権の世論操作術」の著者はー安部が長い間、「日本を再武装させること、大日本帝国憲法の復活、常備軍の編成、平時徴兵の開始」を含む計画を持っていることを指摘している。

すなわち、人質の死以来、安部が ”集団自衛” と名付けて押し進めてきたことは、本質においては、このことなのである。 安部が、2月3日の国会予算委員会で「わが党は既に9条 (日本憲法で ”戦争放棄 ”が記された部分)改正案を示している。 なぜ改正するのかと言えば、国民の声明と財産を守る任務を全うするためだ」と述べたように…..。

 

 

安部政権は、「我々は全ての適切な措置をとったし、できる限りのことをやった」と述べ、人質交渉の結果に関しての如何なる責任をも否定したーそして、「このイシューについて議論することはテロに屈するに等しいことである」と、注意を促したのである。 野党民主党の元代表、前原誠司は、「政府が、カイロ演説をやった時には、イスラム国が日本人の人質を拘留していたことを知っていた」と、指摘した。 彼は、「イスラム国と闘う周辺各国に対して支援表明を行うことのリスクについてどのように想定していたのか?」と、安部に質問した。

 

安部はその質問に直接返答せず、その代わりに、危機が表立てになって以来ずっと繰り返し述べてきた彼のスローガンを言った :  「我々はテロに屈するようなことはしません」と…。 そして、「リスクを恐れるあまり、このようなテロリストの脅かしに屈すると周辺国への人道支援はできなくなってしまいます。」と述べたのだった。

また、安部の自民党メンバー(複数)は後藤と湯川を ”(シリアに近づかないように)との警告を聞こうとしなかった” として批判した。 湯川は昨年の8月に、後藤は昨年の10月に捕えられていた。 11月中旬には、日本政府はイスラム国が二人を拘留していたことを知っていたのである。 外務省はこの拉致事件について報道したいと願っていたメディアに対して、報道することを見合わせるようにと告げた。 メディアが報道することによって人質の死を招くような結果をもたらすことを危惧したからである。 メディアは外務省の要請に従った。

報復を恐れるため匿名を望んだ、ある外務省の高官は、カイロの演説を「外交上のIED(即製爆弾装置Improvised Explosive Device)」に例えた。

「イスラム国の脅威を鎮圧するために日本はイスラム国と戦う国々の援助として2億ドルを約束するといったことについての文章ーこのような文章は、我々外務省が確認したスピーチの原文の何処にもなかったのです」と、外務省関係者はVICEニュースに語った。 「外務省の官僚一年生でさえも、安部の言葉がISILのような過激派への宣戦布告となる、ということは分かるでしょう。」

 

安部総理府のスポークスパーソンはVICEニュースに、「私たちは、最終的なスピーチ草案が出来上がり、それが演説されるまでの過程についてはコメントしませんし、もしくは、何が原文原稿に書かれてあったのかについてもコメントしません」と、述べた。

演説の後、伝えられるところによれば、準備された声明(演説)のコピーは処理され、付け加えられた文章を表す筆記の仕事が始まった。 外務省の内部関係者は、『「たたかう」というキーワードにどの漢字を使うかについて内部での論議がありました』、と語った: 「たたかう」という語は同じ発音でも、二つの異なった漢字で書くことができ、書く漢字によって意味が少し違ってくる。 最初の漢字「闘う」は抽象的な苦闘を暗示するー例えば、”がんとの闘い”であるー 一方、2番めの漢字「戦う」は戦争を論じる場合に使われる。 外務省は、日本語の筆記に、より抽象的である漢字(闘う)を使うことに決めた。

 

同様に、彼らは英訳では ”warring with ISIL (ISILと戦う)” または、 ”fighting with ISIL (ISILと戦闘する)”という言葉を使わずに、”contending with ISIL (ISILと闘うー*訳注:contend withとは、困難や障害と闘うことを意味する)を使った。 2月2日、外務省の代表者たちは自民党本部に呼び出され、彼らが、安部の演説を外国報道陣に正確に伝達することを遂行できなかったとの注意を受けた。

 

 

 

「我々は、下手な英訳のことで責められることになる。 でも、我々はダメージコントロールをやっていたのだ。 彼は、与えられた台詞を読まなかったのだから。」

「我々は、下手な英訳のことで責められることになる。 でも、我々はダメージコントロールをやっていたのだ」と、外務省からの情報提供者はVICEニュースに語った。 「彼は、与えられた台詞を読まなかったのだから….。」

首相の演説について官僚が、このようなことを語るのは異様に聞こえるかもしれない。 しかし、日本では記者会見の質疑応答の部分でさえも、計画され台本化されているのである。 記者クラブが前もって政治家達に質問を提出しておいて、それから、政治家が準備してきた回答を読み上げる。 いくつかの関連質問をすることは許されている。

 

日本の議会、国会における質疑応答の結果は、よく計画され台本化されているので、会議で実際に回答をもらう以前に通信社が、回答の内容を報道することがあるくらいである。 省庁が国会議員のために回答を書くことも、よくあり、時には、プレスのために質問を書くこともある。 2006年、名古屋知事が、準備された台本なしの委員会を行うと決めたとき、これは ”’報道価値あり” と見なされたぐらいである。

 

そうであるから、安部が演説をした時、外務省は不意をつかれたのだった。 それに加えて、安部が約束した2億ドルは、まだ国会で承認されていなかったのである。 後になって外務省は、安部がカイロ演説で言おうとしたのは、「”国会の承認”を得て2億ドルを振り当てるつもりであった」という意味であると説明した。

 

にもかかわらず、イスラム国は安部の演説を宣戦布告と見なしたようであった。 彼らが死の脅迫をもって反応してきた時になって、やっと、日本政府は、イスラム国との交渉が進行中であったヨルダンの日本大使館に、補充人員を派遣した。 人質交渉が始まってから、すでに2ヶ月以上が経っていた。

「我々は、トルコに人質危機緊急対策本部を設置したいと思っていたのです」と、日本警察庁に近い情報提供者で、以前、国際人質事件状況に関しての経験がある人は、VICEニュースに語った。 「トルコは、ISILとの人質解放交渉に成功しています。 彼らこそが道理にかなった最善の選択だったのです…ヨルダンではなく。 経産省、外務省、内閣府は、我々のアドバイスに反対したのです。その理由は、日本が黒海沿岸に原子力発電所を建設するというトルコとの220億ドルの取引に不利な影響を及ぼす可能性があるからだということです。 もし人質交渉中に何か日本が失敗するようなことがあったら、トルコは、ISILテロリストに攻撃される的となるような日本製の核施設を自分たちの国に建設することを躊躇するかもしれないからです。」

同じ情報提供者は、後藤が、彼が殺害される前の日に、トルコとの国境近くに移されていたが、取引が失敗に終わったときに、彼はシリア国内へとさらに移動させられたことを示す信頼できる情報があった、と述べた。

「カイロ演説が日本をISILのレーダーに載せることになったのです」と彼は言った。 「これで、我々は国内および海外の警備態勢を強化しなければなりません。」

 

 

ある政治家たちは、物怖じしながら、政府の危機の取扱いについて質問を提起している。 今週の国会会議中、厳しく尋問された安部は、ついに、彼がカイロ演説をしたときには、人質の状況を知っていたことを認めたが、決してテロには屈しないということを決意していた、と述べた。

「シリアが二人の日本人の人質を拘留していたと知っていながら、イスラム国と戦っている国々への支援を宣言したこと、そして彼のカイロでの全スピーチが…..よく言って、ナイーブのように思えます」と、慶應義塾大学における”安部研究”の研究員、ナンシー・スノーは語った。 『安部が、イスラム国が人質を殺害するように刺激し、彼の日本の再軍備化計画を促進させるために、故意に挑発的な言語を使った、ということを主張する陰謀論者もいます。 安部が、何年にもわたり述べてきたことや日本の平和憲法を変えたいという彼の執念を顧みると、この陰謀論を完全に除外することができないような陰鬱な可能性はあります。 私は、そういったことではないと考えたいです。 もし、そういったことでないのなら(陰謀論者が主張するようなことではないのなら)、安部は「そんなことはない」と、日本国民を納得させるべきです。』

以上

〈記事出典コード〉サイトちきゅう座http://www.chikyuza.net/
〔eye2906:150216〕