自衛隊の中東派遣を撤回せよ
- 2020年 2月 21日
- 評論・紹介・意見
- 安倍政権戦争と平和澤藤統一郎
本日(2月20日)、「自衛隊の中東派遣に反対し、閣議決定の撤回を求める集会」。「改憲問題対策法律家6団体連絡会」と「戦争させない・9条壊すな!総がかり行動実行委員会」の共催。
半田滋さん(東京新聞論説兼編集委員)が、『自衛隊の実態・中東清勢について』報告し、永山茂樹さん(東海大学教授)が『憲法の視点から中東派遣を考える』として違憲論を述べた。次いで、野党議員の連帯挨拶があり、集会アピールを採択した。
「安倍内閣進退きわまれり」との雰囲気の中で、挨拶も報告もボルテージの高いものだった。自由法曹団団長の吉田健一さんが、閉会挨拶で「自衛隊の海外派兵をやめさせ、改憲策動をやめさせ、安倍内閣をやめさせよう」と呼びかけたのが、参加者の気持ちを代弁することばだった。
なお、《改憲問題対策法律家6団体連絡会》とは、「安倍政権の進める改憲に反対するため共同で行動している6つの法律家団体(社会文化法律センター・自由法曹団・青年法律家協会弁護士学者合同部会・日本国際法律家協会・日本反核法律家協会・日本民主法律家協会)で構成されています。これまでに、日弁連とも協力して秘密保護法や安保関連法の制定に反対し、安倍改憲案に対しては、安倍9条改憲NO!全国市民アクション、総がかり行動とも共同して反対の活動を続けています」と、自己紹介している。
本日の集会アピールは、以下のとおり。よくできていると思う。
「自衛隊中東派遣に反対し閣議決定の撤回を求める集会」アピール
1 安倍政権は、昨年12月27日、中東地域への自衛隊派遣を閣議決定し、本年1月10日に自衛隊派遣の防衛大臣命令を強行しました。そして、1月21日から海上自衛隊のP-3C哨戒機が中東海域での情報収集活動を開始し、2月2日には、閣議決定により新たに中東へ派遣されることとなった護衛艦「たかなみ」が海上自衛隊横須賀基地を出港しました。
2 すでに中東海域には、アメリカが空母打撃群を展開しており、軍事的緊張が続いていましたが、本年1月2日には、アメリカが国際法違反の空爆によってイラン革命防衛隊のガセム・ソレイマニ司令官を殺害し、これに対して、1月8日、イランがイラク国内にあるアメリカ軍基地を弾道ミサイルで攻撃するなど、一触即発の状態にまで至っています。
安倍政権は、今回の派遣を「我が国独自の取祖」と説明していますが、自衛隊が収集した情報はアメリカ軍に提供されることになっており、その実態は、アメリカのトランプ政権が呼びかける「有志連合」への事実上の参加に他なりません。そして、アメリカ軍との共同の情報収集・警戒監視・偵察活動に用いられているP-3C哨戒機、国外ではデストロイヤー(駆逐艦)と呼ばれている護衛艦、そして260名もの自衛官を中東地域に派遣すれば、それはイランヘの大きな軍事的圧力となり、中東地域における軍事的緊張をいっそう悪化させることになります。集団的自衛権を解禁した安保法(戦争法)のもと、中東地域で自衛隊がアメリカ軍と連携した活動を行えば、自衛隊がアメリカの武力行使や戦争に巻き込まれたり、加担することにもなりかねません。今回の自衛隊の中東派遣は憲法9条のもとでは絶対に許されないことです。
3 また、自衛隊の中東派遣という重大な問題について、国会審議にもかけないまま国会閉会後に安倍政権の一存で決めたことも大問題です。安倍政権は、主要なエネルギーの供給源である中東地域での日本関係船舶の航行の安全を確保するためとしていますが、これでは、政権が必要と判断しさえすれば、「調査・研究」名目で自衛隊の海外派遣が歯止めなく許されることになります。そもそも、組織法にすぎない防衛省設置法の「調査・研究」は、自衛隊の行動や権限について何も定めておらず、およそ自衛隊の海外派遣の根拠となるような規定ではなく、派遣命令の根拠自体が憲法9条に違反します。
4 現在の中東における緊張の高まりは、2018年5月にトランプ政権が「被合意」から一方的に離脱し、イランに対する経済制裁を再開したことに端を発しています。憲法9条を持ち、唯一の戦争被爆国である日本がなすべきは、アメリカとイランに対話と外交による平和的解決を求め、アメリカに「核合意」への復帰を求めることです。安倍政権も第1に「更なる外交努力」をいうのであれば、自衛隊中東派遣は直ちに中止し、昨年12月27日の閣議決定を撤回すべきです。
2 私たちは、安倍政権による憲法9条の明文改憲も事実上の改憲も許さず、自衛隊の中東派遣に反対し、派遣中止と閣議決定の撤回を強く求めます。
2020年2月20日
「自衛隊中東派遣に反対し閣議決定の撤回を求める集会」参加者一同
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関連する日弁連会長声明は以下のとおり、
中東海域への自衛隊派遣に反対する会長声明
2019年12月27日、日本政府は日本関係船舶の安全確保に必要な情報収集活動を目的として、護衛艦1隻及び海賊対策のためにソマリア沖に派遣中の固定翼哨戒機P-3Cエ機を、中東アデン湾等へ派遣することを閣議決定した。
2018年5月に米国がイラン核合意を離脱後、ホルムズ海峡を通過するタンカーヘの攻撃等が発生していることから、米国はホルムズ海峡の航行安全のため、日本を含む同盟国に対して有志連合方式による艦隊派遣を求めてきた。
これに対し日本は、イランとの伝統的な友好関係に配慮し、米国の有志連合には参加せずに上記派遣を決定するに至った。
今般の自衛隊の中東海域への派遣は、防衛省設置法第4条第1項第18号の「調査及び研究」を根拠としている。しかし、同条は防衛省のつかさどる事務として定めている。
そもそも、自衛隊の任務、行動及び権限等は「自衛隊法の定めるところによる」とされている(防衛省設置法第5条)。自衛隊の調査研究に関しても、自衛隊法は個別規定により対象となる分野を限定的に定めている(第25条、第26条、第27条及び第27条の2など)。ところが、今般の自衛隊の中東海域への派遣は、自衛隊法に基づかずに実施されるものであり、防衛省設置法第5条に違反する疑いがある。
日本国憲法は、平和的生存権保障(前文)、戦争放棄(第9条第1項)、戦力不保持・交戦権否認(第9条第2項)という徹底した恒久平和主義の下、自衛隊に認められる任務・権限を自衛隊法で定められているものに限定し、自衛隊法に定められていない任務・権限は認めないとすることで、自衛隊の活動を規制している。自衛隊法ではなく、防衛省設置法第4条第1項第18号の「調査及び研究」を自衛隊の活動の法的根拠とすることが許されるならば、自衛隊の活動に対する歯止めがなくなり、憲法で国家機関を縛るという立憲主義の趣旨に反する危険性がある。
しかも、今般の自衛隊の中東海域への派遣に関しては、「諸外国等と必要な意思疎通や連携を行う」としていることから米国等有志連合諸国の軍隊との間で情報共有が行われる可能性は否定できず、武力行使を許容されている有志連合諸国の軍隊に対して自衛隊が情報提供を行った場合には、日本国憲法第9条が禁じている「武力の行使」と一体化するおそれがある。また、今般の閣議決定では、日本関係船舶の安全確保に必要な情報の収集について、中東海域で不測の事態の発生など状況が変化する場合における日本関係船舶防護のための海上警備行動(自衛隊法第82条及び第93条)に関し、その要否に係る判断や発令時の円滑な実施に必要であるとしているが、海上警備行動や武器等防護(自衛隊法第95条及び第95条の2)での武器使用が国又は国に準ずる組織に対して行われた場合には、日本国憲法第9条の「武力の行使」の禁止に抵触し、更に戦闘行為に発展するおそれもある。このようなおそれのある活動を自衛隊法に基づかずに自衛隊員に行わせることには、重大な問題があると言わざるを得ない。
政府は、今回の措置について、活動期間を1年間とし、延長時には再び閣議決定を行い、閣議決定と活動終了時には国会報告を行うこととしている。しかし、今般の自衛隊の中東海域への派遣には憲法上重大な問題が含まれており、国会への事後報告等によりその問題が解消されるわけではない。中東海域における日本関係船舶の安全確保が日本政府として対処すべき課題であると認識するのであれば、政府は国会においてその対処の必要性や法的根拠について説明責任を果たし、十分に審議を行った上で、憲法上許容される対処措置が決められるべきである。
よって、当連合会は、今般の自衛隊の中東海域への派遣について、防衛省設置法第5条や、恒久平和主義、立憲主義の趣旨に反するおそれがあるにもかかわらず、国会における審議すら十分になされずに閣議決定のみで自衛隊の海外派遣が決められたことに対して反対する。
2019年(令和元年)12月27日
日本弁護士連合会会長 菊地 裕太郎
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憲法学者126名の共同声明は以下のとおり。
ホルムズ海峡周辺へ自衛隊を派遣することについての憲法研究者声明
1、2019年10月18日の国家安全保障会議で、首相は、ホルムズ海峡周辺のオマーン湾などに自衛隊を派遣することを検討するよう指示したと報じられている。わたしたち憲法研究者は、以下の理由から、この自衛隊派遣は認めることができないと考える。
2、2019年春以来、周辺海域では、民間船舶に対する襲撃や、イラン・アメリカ両国軍の衝突が生じている。それは、イランの核兵器開発を制限するために、イラン・アメリカ等との間で結ばれた核合意から、アメリカ政府が一方的に離脱し、イランに対する経済制裁を強化したことと無関係ではないだろう。
中東の非核化と緊張緩和のために、イラン・アメリカ両国は相互に軍事力の使用を控え、またただちに核合意に立ち戻るべきである。
3、日本政府は、西アジアにおける中立外交の実績によって、周辺地域・周辺国・周辺民衆から強い信頼を得てきた。今回の問題でもその立場を堅持し、イラン・アメリカの仲介役に徹することは十分可能なことである。またそのような立場の外交こそ、日本国憲法の定めた国際協調主義に沿ったものである。
4、今回の自衛隊派遣は、自衛隊の海外派遣を日常化させたい日本政府が、アメリカからの有志連合への参加呼びかけを「渡りに船」で選択したものである。
自衛隊を派遣すれば、有志連合の一員という形式をとらなくとも、実質的には、近隣に展開するアメリカ軍など他国軍と事実上の共同した活動は避けられない。
しかも菅官房長官は記者会見で「米国とは緊密に連携していく」と述べているのである。
ほとんどの国が、この有志連合への参加を見送っており、現在までのところ、イギリスやサウジアラビアなどの5カ国程度にとどまっている。このことはアメリカの呼びかけた有志連合の組織と活動に対する国際的合意はまったく得られていないことを如実に示している。そこに自衛隊が参加する合理性も必要性もない。
5、日本政府は、今回の自衛隊派遣について、防衛省設置法に基づく「調査・研究」であると説明する。
しかし防衛省設置法4条が規定する防衛省所掌事務のうち、第18号「所掌事務の遂行に必要な調査及び研究を行うこと」とは、どのような状況において、自衛隊が調査・研究を行うのか、一切の定めがない。それどころか調査・研究活動の期間、地理的制約、方法、装備のいずれも白紙である。さらに国会の関与も一切定められていない。このように法的にまったく野放し状態のままで自衛隊の海外派遣をすることは、平和主義にとってもまた民主主義にとってもきわめて危険なことである。
6、わたしたちは安保法制のもとで、日本が紛争に巻き込まれたり、日本が武力を行使するおそれを指摘してきた。今回の自衛隊派遣は、それを現実化させかねない。
第一に、周辺海域に展開するアメリカ軍に対する攻撃があった場合には、集団的自衛権の行使について要件を満たすものとして、日本の集団的自衛権の行使につながるであろう。
第二に、「現に戦闘行為が行われている現場」以外であれば、自衛隊はアメリカ軍の武器等防護をおこなうことができる。このことは、自衛隊がアメリカの戦争と一体化することにつながるであろう。
第三に、日本政府は、ホルムズ海峡に機雷が敷設された場合について、存立危機事態として集団的自衛権の行使ができるという理解をとっている。 しかし機雷掃海自体、極めて危険な行為である。また戦胴中の機雷掃海は、国際法では戦闘行為とみなされるため、この点でも攻撃を誘発するおそれがある。
このように、この自衛隊派遣によって、自衛隊が紛争にまきこまれたり、武力を行使する危険をまねく点で、憲法9条の平和主義に反する。またそのことは、自衛隊員の生命・身体を徒に危険にさらすことも意味する。したがって日本政府は、自衛隊を派遣するべきではない。
2019年10月28日
憲法研究者有志(126名連名省略)
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自由法曹団の申入書
自衛隊の中東海域への派遣命令の撤回を求める申入書
1 安倍内閣は、2019年12月27日、自衛官260名、護衛艦1隻を新規に中東地域に派遣し、すでに海賊対処行動に従事している哨戒機1機を中東海域へ転用する旨の閣議決定を行った。
自由法曹団は、同日、同閣議決定に抗議するとともに、自衛隊の派遣中止を求める声明を発表したが、自衛隊の中東海域への派遣を中止しないばかりか、河野防衛大臣は、2020年1月10日、自衛隊に派遣命令を発出し、派遣を強行しようとしている。
2 米国は、上記閣議決定後の2020年1月2日、イラン革命防衛隊のガセム・ソレイマニ司令官を空爆(以下、「本件空爆」という)によって殺害した。
そして、イランは、本件空爆に対する「報復」として、同月8日、十数発の弾道ミサイルを発射し、米軍が駐留するイラク西部のアサド空軍基地及び同国北部のアルビル基地を爆撃した。
両国の武力行使により、緊張がますます激化しているが、そもそも両国の関係が悪化したきっかけはトランプ政権がイラン核合意から一方的に離脱したことである。また、本件空爆は、国連憲章及び国際法に違反する先制攻撃であり、何らの正当性もない。
米国は、軍事力行使を直ちにやめ、イラン核合意に復帰すべきであり、国際社会は、これ以上の・・暴力の連鎖¨が引き起こされないよう外交努力を尽くさなければならない。
3 自由法曹団は、2019年12月27日の時点で、既に中東情勢は緊迫しており、自衛隊の中東海域への派遣は、「情報収集活動」にとどまらない危険性が高い等の理由から閣議決定に反対したが、現在の中東情勢は、その時点と比べても極度に緊迫した状態にある。
にもかかわらず、河野防衛相は、2020年1月10日、海上自衛隊の護衛艦1隻と哨戒機2機の中東への派遣命令を発出した。現在の中東情勢の下での自衛隊の中東海域への派遣は、中東地域の緊張をいっそう高めるばかりか、日本が米国の誤った中東政策を賛同する国として、米国の戦争に巻き込まれる危険性を高めるものであり、絶対に派遣を許してはならない。
4 日本は、憲法9条の理念に基づき、両国との信頼関係を活かしながら、対話と外交による平和的解決を目指すべきである。
自由法曹団は、米国及びイラン両国に対して自制を求めるとともに、憲法を踏みにじる自衛隊の中東海域の自衛隊の派遣に断固反対し、改めて閣議決定及び防衛相の派遣命令に強く抗議し、防衛大臣において1月10日になした派遣命令を撤回し、自衛隊派遣の中止を求める。
2020年1月14日
自由法曹団長 吉田健一
(2020年2月20日)
初出:「澤藤統一郎の憲法日記」2020.2.20より許可を得て転載
http://article9.jp/wordpress/?p=14341
〈記事出典コード〉サイトちきゅう座http://chikyuza.net/
〔opinion9473:200221〕
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