「親権」とは何か?-「家族」「親子」を考えるための基礎作業(10)
- 2020年 3月 4日
- 時代をみる
- 池田祥子特別養子縁組親権
「普通養子縁組」と「特別養子縁組」
前回の(9)稿で、どちらかと言えば、昔からの「家」の存続(家業や家名、財産の相続、墓の維持など)のための「普通養子縁組」の実態を見てきた。そして、この「普通養子縁組」は戸籍に明記されるため、実親との関係も事実として継承されること、しかし、養子縁組が続いている限り、親権は養親に帰属することなども、前回すでに述べた。
また、この「普通養子縁組」は結婚制度と同じく、「離縁=解消」は可能であり、離婚と同じく、協議離縁、調停離縁、裁判離縁があることも紹介した。
このように、「子どもの居ない家」の何らかの都合によって「養子縁組」がなされ、実親の存在も事実として存在し、事情によっては「解消」することもできる。この従来からの「養子縁組」に対して、たとえば次のような問題点が指摘されるようになってきた。
「子どもにとって“安心で安全で恒久的に”養親との暮らしが保障できる制度とは言い難いものとなっているのが現状です」(吉田幸恵・山縣文治編著『新版よくわかる子ども家庭福祉』ミネルヴァ書房、2019、p.106 石田賀奈子執筆)。
ここで言われる「安心で安全で恒久的に続く家庭的環境」というのは、1989年の「子どもの権利条約」に続き、2009年に国連から出された「児童の代替的養護に関する指針」に添うものと考えられてのことであろう。
ただ、日本では、「子どもの権利保障」の一つとしての「家庭的環境保障」をめぐって、とりわけ最近の児童福祉の世界では、「家庭」というものがなぜか「温かな関係および場」という理想型で固められているように思えてならない。
確かに、子どもは誰もが、父と母との間で生まれ、多くはその父と母とで営まれる「家庭」の中で育つ。そしてまた、その多くは「愛情」や「やさしさ」で育まれるのも事実だろう。
しかし、そこは生身の人と人(多くは男と女)が直接的に関わり生きあう場である。常に「温かな場」であるとは限らない。そこでは時に激しく対立したり、憎悪も渦巻いたり、果てには「喧嘩や別れ」もある。病気・事故などもあれば、予期しえない「死」による別れもあるだろう。
それでも、子どもたちは、そのようなさまざまな「家庭」の中で、ともあれ生きていかざるをえない。だからこそ、それを支え、手助けするさまざまな社会的なフォローの仕組みが必要なのではないのだろうか。
だが、残念ながら、「特別養子縁組」の制度は、どこまでも「子どもの福祉」のために「あるべき理想的な家庭環境」を前提にして制度化されたものである。しかし、それは、本当に「子どものため」なのかどうか・・・私にはどうしても疑問符が付きまとってしまう。
「特別養子縁組」制度化のきっかけ
これについても、端緒は1973年の菊田昇医師による「赤ちゃんあっせん事件」であったことはすでに記した。菊田昇医師は、人工妊娠中絶によって多くの赤ちゃんの命が消されている事実、および他方では、子どもが欲しくて「不妊治療」で心身ともに疲れ果てている夫婦の存在を目の前にして、不法を承知しながら、「出生証明書を偽造」して「赤ちゃんの斡旋」を行った。それによって、養子ではなくまさに「実子」として育てることができる、というのである。「赤ちゃん斡旋」は100件以上だったという。
菊田昇医師は「犯罪」を犯したわけではあるが、彼が悩んだ事実は厳然として存在し続けている。それ以後、はたしてどのような議論が展開されたのかは明らかではないが、10年余りの時間を経て、1987(昭和62)年、「子どものため」を銘打った「特別養子縁組」が民法(関連して児童福祉法)に新たに規定された。その際に、以前はただの「養子縁組」だったものが「普通」という修飾語が冠せられて、この「特別養子縁組」と区別されるようになった。
「特別養子縁組」とは
一言でいえば、これは戸籍の上では「実子」同様に記載され扱われる。もちろん、実親の同意は(特別の例外を除けば)前提とされている。しかし、特別養子縁組が成立して以降は、実親との関わりは一切ナシとなる。
この特別養子縁組を認められる「養親」は、もちろん夫婦共同縁組であるから、単身では無理である。年齢は「25歳以上」(片方が「25歳以上」ならば、他方は「20歳以上」でOK)である。以前は「専業主婦家庭」だけが認められていたが、現在は「共働き家庭」でも条件によってはOKとされる。
一方の養子の条件であるが、以前は原則「6歳未満」であった(例外として8歳未満もあり)。できれば0歳から、というのがすんなり親子関係を結びやすいのであろうが、なるべく低年齢に設定されていた。しかし、せっかく制度化されたにもかかわらず、親元で暮らせない子が約45,000人のところ、この特別養子縁組成立件数は、近年は500~600件にとどまっている。そのため、この特別養子縁組制度の拡充のために、養子の年令が原則「15歳未満」に引き上げられることになった(2019年6月7日改正民法成立)。また、例外的に「本人の同意」を条件に、15~17歳の子も認められることになった。
「子どもの福祉」のための制度と言われながら、この「特別養子縁組」を成立させるためには児童相談所以外は、多くの民間斡旋団体に委ねられている。中には法外な斡旋料を請求する団体もいて、2018年4月から施行された養子縁組斡旋法による団体規制も可能になったが、公的な制度としてはなお、余りにもお粗末といえよう。
また「出自を知る権利」によって、養親はその養子の成長の節目節目で「真実告知」することを義務づけられている。ただし、その「真実告知」といえども、「私たちは血がつながっていない親子」であることまでで、「血の繋がっている親」の情報は空白である。
養親にとっても養子にとってもおそらく「辛い」だろう「真実告知」。なぜ、そこまでして戸籍上の「親子」にしなければならないのだろうか。肝心の「真実」が制度によって抹消されるではないか。
また、今回の改正によって、「特別養子」になる子どもの年令が原則「15歳未満」に引き上げられた。15歳未満の子どもは、7,8歳でも、自分を取り巻く事態をすでに十分に把握するだろう。だとしたら、なにゆえに戸籍上の「親子」にならなければならないのか、「おじさん・おばさん」で何が困るのか・・・「家族」や「親子」への過重な思い入れや期待は、かえって大人にも子どもにも無理を強いて、決してプラスにはならないのではないだろうか。今後とも考え続けなければならない大きな課題である。
〈記事出典コード〉サイトちきゅう座 http://chikyuza.net/
〔eye4690:200304〕
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