(2021年2月22日)
3月1日ビキニデーが間近である。
1954年3月1日、アメリカはマーシャル群島ビキニ環礁での水爆実験をして、大気中に大量の放射性物質を撒き散らした。焼津を母港とするマグロ漁船・第五福竜丸は爆心から160キロ離れた海域で被爆し、23人の乗組員全員が急性放射線障害との診断で入院。その年の9月、最高齢だった通信士の久保山愛吉さんが亡くなって、多くの国民の怒りと悲しみを誘った。そして、この事件を契機に、国民的な原水爆禁止運動が高揚し、現在に至っている。
第五福竜丸平和協会にとって、3月1日は最も重要な日。毎年3・1ビキニデー前後に集会を企画する。ことしは、「3.1ビキニ記念のつどい2021『ふね遺産』認定記念 オンラインシンポジウム」というイベント。この集会が、昨日(2月21日)開催されてたいへん充実していた。今年は核兵器禁止条約発効の国際的な核廃絶運動の高揚の中で迎える3・1ビキニデーではあるが、「ふね遺産」シンポは面白かった。
「ふね遺産」は、公益社団法人日本船舶工学会が認定する。「歴史的で学術的・技術的に価値のある船舟類とその関連設備を『ふね遺産(Ship Heritage)』として認定し、文化的遺産として次世代に伝え、船舶海洋技術の幅広い裾野の形成を目的とする」「なお、『ふね』の表記は、「船」や「舟」も含める意味で、平がなにするものである」という。
また、「『ふね遺産』を通じて、国民の「ふね」についての関心・誇り・憧憬を醸成し、歴史的・文化的価値のあるものを大切に保存しようとする国民及び政府・地方自治体の気運を高め、我が国における今後の船舶海洋技術の幅広い裾野を形成することをこの活動の目的とする。」ともいう。
このような趣旨を持つ「ふね遺産」にはこれまで24件が認定され、現存する船体としては11隻。第五福竜丸は、認定第25号で現存船としては第9号である。ちなみに、現存船として認定を受けた他の10隻は、以下のとおり。
日本丸・ガリンコ号・氷川丸・海王丸・徳島藩御召鯨船「千山丸」・コンクリート貨物船「武智丸」・雲鷹丸・明治丸・マーメイド・遠賀川五平田舟(かわひらた)
第五福竜丸は、『西洋型肋骨構造による現存する唯一の木造鰹鮪漁船』として貴重なものなのだという。認定された同船は、以下のとおりに紹介されている。
第五福龍丸は和歌山県の古座造船所で鰹漁船として1947年に進水した後、1951年に清水市の金指造船所で鮪延縄漁船に改造された。本船は1954年にビキニ環礁水爆実験で被災したことでも知られる。
木造鰹鮪漁船は戦後の食糧難の時代に数多く建造されたが、本船は良い状態で保存された現存する唯一の実船である。肋骨を有する西洋型木造船の構造を今に伝える貴重な遺産でもある。
保存展示されている同船の搭載エンジンは新潟鉄工所製250PSで、141台製造された中で唯一現存するのものとして貴重である。
シンポジウムは、昨日2月21日(日)の13:00~15:00に行われ、講師は日塔和彦氏(文化財建造物修理技術者,第五福竜丸平和協会評議員,保存検討委座長)、古川洋氏(安芸構造設計事務所主宰,建築構造)、庄司邦昭氏(東京海洋大学名誉教授,造船学)、中山俊介氏(東京文化財研究所特任研究員,近代文化遺産)。いずれも専門性の高い講演で、聞かせた。第五福竜丸保存の意義についてだけでなく、具体的なその方法について示唆に富むものだった。
第五福竜丸は、核による脅威に警鐘を鳴らす船として保存され、多くの人に語り継がれることによって、核なき世界を目指す航海を続けてきた。今回のテーマは、被爆船第五福竜丸ではなく、この船の持つ木造船としての産業歴史的価値に着目するもの。どのような角度からでも、この船の保存の意義を確認していただくことはたいへんにありがたい。
今年の3.1記念シンポジウムは、いつもは地味で表に出ない船体等保存検討委員会の専門的知見を聞くこともできた貴重な機会となった。
初出:「澤藤統一郎の憲法日記」2021.2.22より許可を得て転載
http://article9.jp/wordpress/?p=16362
〈記事出典コード〉サイトちきゅう座 https://chikyuza.net/
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