青山森人の東チモールだより…心の病みと闇
- 2022年 10月 1日
- 評論・紹介・意見
- 青山森人
ベロ師による性的虐待が報じられる
9月28日(水)、De Groene Amsterdammer(以下、De Groene) というオランダの報道機関は、「わたしが欲しいのは謝罪」と題された記事を発表し、1996年ノーベル平和賞をジョゼ=ラモス=オルタ(現在の大統領)と同時受賞したカルロス=フェリペ=シメネス=ベロ師(当時カトリック教会の司教、1948年2月生まれ、74歳、現在ポルトガルに滞在)が、1980年代初頭から男の子たちに性的虐待を繰り返してきたことを告発しました。
(*)この記事はhttps://www.groene.nl/artikel/what-i-want-is-apologiesで読むことができる。以下、記事からの引用には「カギカッコ」をつける。
この記事は、現在42歳で当時15~16歳のパウロ(仮名)と現在45歳で当時14歳のロベルト(仮名)の証言を紹介しています。ベロ司教による性的虐待はパウロは一度きりでしたが、ロベルトには繰り返されました。「ベロ司教は男の子たちにはお金がないことを知っていました。そして男の子を呼び、お金をやり、そのあいだにその男の子は被害者となるのです。これがベロ司教のやったことです」とこの記事のなかでパウロは語ります。
2002年から「公然の秘密」
この記事を書いたヂェチカ=リングズマ(Tjitske Lingsma、オランダ人の名前のカタカナ表記は無茶苦茶かもしれないので悪しからず。しかし実際本人から聞いた発音を表記したつもり)記者は被害者はもっといるとしています。
「2002年、ある東チモール人の男性がベロ司教によって友人が性的虐待をされたと言ったことから、De Groeneはその2002年から調査を開始した」。「2002年のその後の11月、ベロ司教は突然辞職をする。その時から性的虐待の疑いが噂となり、大きな公然の秘密となった」。
当時、わたしも憶えていますが、なぜベロ司教は国外に出て行ってしまったのだろうと多くの人が不思議に思ったものでした。独立後の東チモール政府を率いたマリ=アルカテリ首相への不平不満が積もりに積もっていくと、ベロ司教は国内にいるとマリ=アルカテリ首相の批判をしてしまい、そうなると治安が不安定になるのでバチカンはベロ司教を東チモールから出したのでは?という意見をききました。わたしは当時、なるほどそうかもしれないなぁと思ったものでした。
しかし一方で、De Groene にいわせると、性的虐待の件が「公然の秘密」となっていて、「カトリック教会はベロ師の旅行を制限した」のでした。「公然の秘密」を「記事にしようとしたジャーナリストも何人かいたが、ベロ司教は失脚するには〝あまりにも大きな存在であった〟」。
ヂェチカ=リングズマは『テンポチモール』と協力して飛び地オイクシにいたアメリカ人聖職者による性的虐待について調べていましたが、『テンポチモール』が2019年2月に初めてこれについて記事にしました。このことがベロ司教の「公然の秘密」が暴露される可能性の扉を開いたことになります。
心の病みを引きずり闇をさまよう東チモール人を救え!
「De Groeneはベロの件を調査して以来、数人の被害者と話をし、この件について知っている20人と話をした。その人たちとは、高官、政府職員、政治家、NGO職員、教会の人たち、そして知識人たちである。かれらの半分以上が被害者のことを個人的に知っており、この件について知っているかれらのほとんどが職場でこの件について議論した」と同記事は述べています。ベロ師の件は、知る人ぞ知る、まさに「公然の秘密」であったということです。
このことは何を意味するのでしょうか。告白しようと思ってもベロ司教の存在があまりにも巨大なために告白できない状態が続き、被害者たちが心の傷を引きずって生きているということです。インドネシアの軍事占領下でうけた虐殺・暴力・性暴力などによる精神的・身体的被害と、国連統治の時代に指導者が民衆との対話を止めてしまったことで被った心の傷(第二のトラウマと呼ばれることもある)の痛みに東チモール人は苦しんでいるだけではなくに、さらに東チモールには(東チモールだけではないが)聖職者から子ども時代に性的虐待をうけ、大人になってもそれを告発できずに心の病みを引きずり闇をさまよっている人がいるということです。
「カトリック教会は東チモールの人びとから絶大な尊敬を享受している。それは宗教として、そして人びとを助け守る組織であるからだ。もしベロ司教への告発が公になれば、国にとっての醜聞になり、独立闘争を傷つけることになる、とロベルトはいう。ベロ司教による性犯罪疑惑を人びとが口にするのは、汚名を着せられ・追放され・脅迫と暴力をうけてしまうという恐怖から、今も困難なことなのである」とヂェチカ=リングズマは訴えます。
東チモールでこれまで隠蔽されてきた性犯罪が(誰によるものであれ)ダムが決壊するように暴かれるきっかけにこの記事がなってほしいと願いますし、そうならないといけないと思います。そして心の病みを引きずり闇をさまよって生きている東チモール人が救われますように……。
青山森人の東チモールだより 第473号(2022年09月29日)より
e-mail: aoyamamorito@yahoo.com
〈記事出典コード〉サイトちきゅう座 http://chikyuza.net/
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