本間宗究(本間裕)の「ちきゅうブッタ斬り」(388)
- 2022年 12月 10日
- 評論・紹介・意見
- 本間宗究本間裕金融
綱渡り状態の米国金融政策
米連邦準備理事会(FRB)は、11月2日に、フェデラルファンド(FF)金利の誘導目標を、再度、0.75%ポイント引き上げ、3.75─4.00%としたが、実情としては、「歯切れの悪いパウエル議長コメント」に象徴されるように、「綱渡り状態が継続している状況」とも言えるようである。具体的には、表面上の「量的引き締め(QT)」を実施しながら、その裏側で、「金利を上げるとともに、メガバンクのデリバティブ残高を増やしている状況」のことである。
より詳しく申し上げると、「2008年のリーマンショック」以降、米国が目論んできたことは、「中央銀行のバランスシート残高を増やすことにより、デリバティブのバブルを解消すること」だと考えている。つまり、「国債の大量買い付けにより、超低金利状態を維持しながら、ソフトランディングの状況でデリバティブのバブルを崩壊させる可能性」のことである。
しかし、実際には、「デリバティブの残高減少」が順調に進展しない状況下で、「中央銀行のバランスシート膨張」に限界点が訪れ、その結果として、「金利の引き上げ」を実施せざるを得なくなったものと思われるのである。別の言葉では、「金融界のブラックホール」に隔離されていた「デジタル通貨」が、徐々に、「仮想現実から現実世界への移行」を始めたことにより、世界的なインフレの加速が顕著になった状況のことである。
つまり、「人類史上、未曽有の規模で、マネーの大膨張が発生した事実」に関して、小手先の方法では隠し切れなくなったために、「金利の引き上げ」という手法を取らざるを得なかったものと想定されるのである。そして、この結果として予想される展開は、「中央銀行の赤字決算」であり、また、「中央銀行の債務超過を避けるために実施される無制限の資本注入」とも思われるのである。
そのために、これらの事情を熟知している「米国の金融当局者」は、過去数か月間、「メガバンクが保有するデリバティブ」を、再度、膨張させることにより、「中央銀行の資金繰り」を補完した状況のようにも感じられるのである。しかし、この時の必要条件としては、「米国に資金が集まるためのドル高」とも想定されるが、実際には、「米国以外の国々が、ドル高の悪影響を受け始めた状況」となっており、そのために、間もなく、「デリバティブの完全崩壊」を意味する「メガバンクの破たん」などが、発生する可能性が高くなっている状況のようにも感じている。(2022.11.4)
------------------------------------------
市場経済と共同体
1999年に始まった「ポスト資本主義研究会」では、メインテーマの一つが、「市場経済と共同体との関係性」を解明することにあったが、残念ながら、今までは、あまり、成果が得られていない状況だった。つまり、「共同体が、どのようにして、規模的な成長を遂げるのか?」や、「ヘーゲルの主張する国家共同体」、あるいは、「現在のグローバル的な共同体」などについては、ほとんど説明が不能な状況だったのである。
そのために、今回は、原点に戻り、「共同体の規模が、社会的な結び付きと同義語である可能性」、あるいは、「社会的な結び付きの強度が信用の残高を意味するとともに、マネー膨張との関係性を表している可能性」などを考えてみたいと思う。つまり、現在の「グローバリズム」や「マネー残高の膨張」については、過去の歴史を遡ると、「西暦400年前後に崩壊した西ローマ帝国」にまで行き着かざるを得ない状況とも言えるのである。
別の言葉では、シュペングラーが主張する通りに、「貨幣が支配する時代」の後に、「暴力政策による貨幣崩壊の時代」が訪れる展開のことでもあるが、この点については、今後、実証的な研究が可能な状況のようにも感じている。具体的には、現時点の「私の仮説」である、「西暦400年前後に、西ローマ帝国が作り出した巨大な国家共同体が崩壊し、数多くの小さな共同体へ大分裂を起こした可能性」や、「その後、約1600年の時間をかけて、共同体の結合が発生した展開」のことである。
そして、このような「共同体の結合と巨大化」のメカニズムとして、「西暦400年から1200年までの東洋の時代」においては、「唯心論」や「宗教」などが、その役割を担ったものと思われるのである。また、その後の「西暦1200年から20000年」までは、「唯物論」や「市場経済」、あるいは、「お金」が、より巨大な共同体の成立に貢献した状況だったものと考えている。
このように、「市場経済」と「共同体」との対比については、基本的な誤解が存在した状況であり、実際には、「マネーの残高」と同義語とも思われる「社会的な信用の量」により、「共同体の規模」が決定されるものと考えている。そして、現在の「世界的な金融混乱」については、「1600年前の西ローマ帝国崩壊」と同様の意味を持っており、今後は、「数多くの小さな共同体への分離や分割」が発生する可能性が高まっているものと思われるが、この時の救いとなるのは、やはり、「社会科学の次元的な上昇」であり、実際には、「より高度な精神文明の発展」とも言えるようである。(2022.11.5)
------------------------------------------
FIREの問題点
現在、「FIRE(資金面での独立と早期退職)の失敗例」が数多く報告されているが、この理由としては、「資金面での独立」に関して、大きな誤解が存在する点が挙げられるようである。つまり、「レバナス」や「GAFAM」などの言葉が一般的な状況となったように、ほとんどの人は、「米国株に投資すれば、将来的に、資金面での問題が無くなる」と錯覚した状況ようにも感じている。
別の言葉では、「投資の極意」の一つが、「人の往く裏に道あり花の山」という「相場の格言」のとおりに、「人気がなく、割安に放置されている銘柄への投資」であり、その後、「人気化し、バブル的な状況」となった時には、残高を減らす必要性が存在するのである。つまり、本当の意味での「資金面での独立」に関して、私自身の経験からは、「最低でも、10年間の投資実践」、あるいは、「相場のピークと底を、自分自身で、実際に経験すること」が必要なものと思われるのである。
そして、このような経験を繰り返すうちに、「相場の奥深さ」が、より一層、理解されるものと考えているが、実際のところ、「現在の相場において、最も必要とされるのが、マネーの謎を理解すること」とも考えられるのである。つまり、現在の「世界的な金融混乱」と、その主因である「世界的なマネー大膨張」については、「過去2000年間の貨幣史を理解する必要性」があるものと思われるのである。
より詳しく申し上げると、すでに始まっている「インフレの大津波」に関しては、「1980年代初頭から始まったデリバティブの大膨張と金利低下のメカニズム」を理解する必要性があるものの、ほとんどの投資家は、「デリバティブとデジタル通貨が産み出したDXバブル」に酔い痴れてしまったものと思われるのである。つまり、「投資の実践」として、絶対に避けるべき行動である「バブル相場への参加」を行ったために、「バブルの特徴」とも言える「崩壊後、約10年にわたり、低迷する可能性」を、甘んじて受け入れなければならない状況のようにも感じられるのである。
そのために、現時点での救済策としては、「できるだけ早いうちに、DXバブル銘柄から貴金属や割安株への銘柄入れ替えを実施する方法」だと考えているが、この点に関して必要な理解は、「約5000年前に人類が発明した『お金(マネー)』は、基本的に、『金(ゴールド)』だったものの、1971年のニクソンショック以降、単なる数字が、『お金』に変化した事実」だと考えている。(2022.11.7)
本間宗究のコラムhttp://www.tender-am.com/column.html より許可を得て転載。
〈記事出典コード〉サイトちきゅう座http://www.chikyuza.net/
〔opinion12620:221210〕
「ちきゅう座」に掲載された記事を転載される場合は、「ちきゅう座」からの転載であること、および著者名を必ず明記して下さい。